パンクフロイドのブログ -7ページ目

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

コート・スティーリング 公式サイト

 

チラシより

1998年、ニューヨーク。メジャーリーグのドラフト候補になるほど将来有望だったものの、運命のいたずらによって夢破れた若者・ハンク(オースティン・バトラー)。バーテンダーとして働きながら、恋人のイヴォンヌ(ゾーイ・クラヴィッツ)と平和に暮らしていたある日、変わり者の隣人ラス(マット・スミス)から突然ネコの世話を頼まれる。親切心から引き受けたのもつかの間、街中のマフィアたちが次々と彼の家に殴り込んでは暴力に任せて脅迫してくる悪夢のような日々が始まった。やがてハンクは、自身が裏社会の大金絡みの事件に巻き込まれてしまったことを知る---。が、時すでに遅し!警察に助けを求めながら戦々恐々と逃げ続けていたある日、ついに大きな悲劇が起こる。理不尽な人生に堪忍袋の緒がブチキレたハンクは、一念発起して自分を巻き込んだ隣人やマフィアたちにリベンジすることを決意する---!

 

製作:アメリカ

監督:ダーレン・アロノフスキー

脚本・原作:チャーリー・ヒューストン

撮影:マシュー・リバティック

美術:マーク・フリードバーグ

音楽:ロブ・シモンセン

出演:オースティン・バトラー レジーナ・キング ゾーイ・クラヴィッツ

             マット・スミス ベニート・マルティネス・オカシオ

2026年1月9日公開

 

ハンクはメジャーリーグのドラフト候補に挙がるほど前途有望な野球選手でしたが、ドラフトの前日に牛をよけようとして自動車事故を起こしてしまいます。この交通事故の設定が物語の布石として後々まで効いていて、終盤には思わぬカタルシスを与えてくれます。この時の事故の怪我が元で、ハンクの選手生命が断たれたのみか、助手席に同乗していた友人の命まで奪ってしまい、ハンクは自責の念に駆られ立ち直れなくなります。

 

彼はニューヨークのバーでバーテンダーとして働いていましたが、隣人のラスが父親の容態の悪化によりロンドンに帰国しなければならなくなり、彼が留守の間に猫を預かる羽目になります。ラスが居なくなったことから、ハンクはマフィアの犯罪に巻き込まれ、ここから彼の受難劇が始まっていきます。

 

映画はハンクが危機的な状況を如何に乗り切っていくかが見どころのひとつになっています。彼からすればラスとマフィアの繋がりが皆目見当がつかず、おまけに自分が狙われる理由も分かりません。警察に通報しても、麻薬課の女性刑事ローマンが対応して、熱心に捜査する素振りが窺えません。そうこうするうちに事態は悪化の一途を辿り、ラスは日常を取り戻せない状況にまで追いつめられていきます。

 

ダーレン・アロノフスキーの映画では、「レスラー」と「ブラック・スワン」がお気に入りで、この犯罪映画も結構期待は高かったです。ただ、犯罪映画にしては全体的にグダグダな展開。犯罪者はなるべく目立たぬよう悪事を働くのが常なのに、本作では白昼堂々派手な犯行を繰り返します。犯罪者がバカに見えると、観るほうもシラけるのよね。

 

また、悪党とグルになる人物も、職業が隠れ蓑になっている筈なのに、おかしな言動が目立つため、然程意外性はありません。笑いを取るところもあって、意図的にユルい作りにしているのかもしれませんが、犯罪映画としてイマイチな感は拭えません。

 

その一方で、時折ダーレン・アロノフスキーの匠の技も垣間見えます。ユダヤ教の慣習を逆手にとって、ハンクが運転せざるを得ない状況に置いた上で、ユダヤ人のマフィアがピストル型のライターを取り出したことによって、ハンクが本来の持ち主のことを思い出し、打ちのめされていた彼の闘志に火が付きます。更に主人公のトラウマとなっている事故と結びつくことで負け犬の逆襲が叶えられ、観客にも快感を与えるこの一連の流れには唸らされました。

 

この映画はメジャーリーグネタが適度に出ていて、ニューヨークが舞台にも関わらず、主人公とバーに集う客はサンフランシスコ・ジャイアンツの熱狂的なファン。90年代終わりの時代なので、劇中ではバリー・ボンズやマイク・ピアザの名が出たりもします。ただ、主人公が元野球選手の設定にも関わらず、アクション描写に野球を活かした場面が見られなかったのは勿体なく思いました。

 

 

5年前のコロナ禍において映画館が閉鎖されたため、スクリーン鑑賞ができずにDVD鑑賞を余儀なくされた中、DVDで観た1本です。記事にする機会を逸したので、今頃になって記事にしました。

 

 

DVDより

バブル経済が崩壊して、社会から弾き出された5人の男たち。多額の借金、リストラ、そして愛する女のために・・・。瀬戸際に立たされた男たちが取った一発逆転の選択とは――。

 

製作:ぶんか社 イメージファクトリーアイアム

監督・脚本:石井隆

撮影:佐々木原保志

美術:山崎輝

音楽:安川午朗

出演:佐藤浩市 本木雅弘 根津甚八 椎名桔平 竹中直人

             木村一八 永島敏行 鶴見辰吾 ビートたけし

1995年9月23日公開

 

 

バブル経済崩壊後を象徴するように、ギリギリに追い込まれた男たちが、一発逆転を狙ってやくざの金を強奪するお話。アクション映画であり、バイオレンス描写もたっぷりですが、強奪後に竹中直人が自宅に戻るくだりは、ホラー感満載の演出にもなっています。

 

竹中は佐藤浩市との出会いからかなりヤバい雰囲気を身に纏っており、ヒットマンのビートたけしと木村一八に殺される前に、家族自体が壊れていたのかと腑に落ちてきます。

 

また、根津甚八が元妻の永島瑛子と娘を交えてレストランで食事をする場面でも、周りから急に客がいなくなるのはどう考えてもあり得ないのですが、不穏な空気を漂わせていて、気味の悪さを十分感じさせます。

 

そして、映画全体にホモソーシャル感も漂っています。本木雅弘は佐藤浩市と死の直前に想いが結実したと言えますし、ビートたけしと木村一八の歪んだ関係も、木村の死によってたけしの喪失感が如実に表れています。

 

強奪ものは犯罪が成功してから、仲間割れが生じるのが定番なのですが、ここではやくざの金を奪ったために、命を狙われる危険性が生じた事によって、逆に結束が固くなります。主犯格である佐藤が危険を賭して、犯行現場に残ったことも大きいです。

 

結局、金を奪った5人全員と家族は命を失い、やくざ組織の親分の永島敏行と幹部の鶴見辰吾も、ヒットマンの二人も殺されるので、映画的なカタルシスを得ることは難しいです。

 

製作総指揮の奥山和由は毀誉褒貶あるものの、家族ドラマや恋愛劇など比較的大人しい題材を手掛けるイメージのある松竹において、かなり尖がったアクション映画を製作したことは、もっと評価されていいでしょう。

 

TBSチャンネルより

両替屋の一人息子、徳三郎(渥美清)は札つきの放蕩児で、父、清兵衛(志村喬)は心を鬼にして勘当した。知り合いの棟梁(江戸屋猫八)の家に居候しながら奉公に出るが、どれも長続きしない。そのうちに徳三郎の行方はわからなくなり、気落ちした清兵衛は病に伏す。ある日、妹せつ(倍賞千恵子)は乞食仲間と楽しそうに暮らしている徳三郎を見つける。家に呼び戻そうとするが、徳三郎は同じ乞食のおしん(奈良岡朋子)と貧しいながらも幸福に暮らしていた。

 

制作年:1973年

制作:TBS

監督:宮武昭夫

脚本:山田洋次 高橋正圀

原作:山田洋次

出演:淳美清 志村喬 倍賞千恵子 西村晃 江戸屋猫八 奈良岡朋子

 

このドラマは中学生の時、「日曜劇場」の1本として放映していてリアルタイムで見ました。たまたまこのドラマがCSのTBSチャンネル2で再放送されているのを知り、懐かしさのあまり途中から見てしまいました。

 

放蕩息子が渥美清、健気な妹が倍賞千恵子なのは、「男はつらいよ」に便乗した配役に苦笑せざるを得ませんが、渥美清が寅さんに輪をかけたような極楽とんぼの若旦那を演じるので、忘れがたい印象を残します。また、父親役に志村喬、番頭役に西村晃と、芸達者の二人を脇に固めていますから、余計に渥美の芝居が引き立ちます。

 

バカ息子の徳三郎は働きもせず遊び惚けた末に、父親から勘当されてしまいます。彼はなまじ両替屋の一人息子なだけに、番頭を始め助けてあげる者が周囲に居ます。徳三郎はそのことに甘え調子に乗るところがあります。父親はそうした負の連鎖を断ち切るため、涙を呑んで勘当した訳ですが、徳三郎は堪えた様子が見えず、逆に気ままな乞食暮らしを楽しみます。

 

せつから徳三郎の様子を聞いた番頭が、彼の元に駆けつけ入用の物がないかと尋ねると、分をわきまえたかのように茣蓙だけを所望します。ここに徳三郎の本性が隠されているように思います。両替屋の一人息子の時は贅沢三昧の暮しをする一方で、一転して乞食に身を落としながら、施しを受けても分不相応なことをしない哲学を感じさせます。でも、茣蓙を選ぶのにも一々講釈を垂れるのが変わっておらず、ボンクラ好きの心を刺激します(笑)。

 

徳三郎は元夜鷹で少々おつむの弱いおしんに惚れていましたが、彼女が数名の男たちにいたずらされた挙句、川に放り込まれて溺死して以来行方不明になります。やがて、父親が危篤状態になった折空腹の状態で実家に戻ってきます。ここから先は書かずにおきますが、滑稽な極楽とんぼに相応しい幕の閉じ方でした。

 

最後にせつが兄と父親の生き方を引き合いに出して、幸福とは何かを語るのですが、倍賞千恵子に台詞で言わせるのが野暮で無粋に感じる反面、お茶の間の視聴者にはこうしないと伝わらなかったのかとも思いました。

 

新約聖書に記された放蕩息子の帰還を時代劇に落とし込み、日本人の感性に訴えかけた脚本の妙、芸達者な役者陣の芝居が見事という他なく、このレベルのドラマを毎週放映していたのですから、昨今のテレビドラマを不満に思うのは仕方ないかもしれません。勿論良質のドラマもありますけどね。

ワーキングマン 公式サイト

 

チラシより

元特殊部隊員のレヴォン・ケイド(ジェイソン・ステイサム)は、危険な世界から身を引き、現場監督として安全第一をモットーに働いていた。レヴォンは平穏な生活を送り、娘の良き父親になりたいと願っていたが、恩人である建設会社の上司の娘ジェニーが失踪してしまう。レヴォンは行方不明のジェニーを捜索するうちに、人身売買を生業とする巨大な犯罪組織の存在を突き止め、封印していた特殊部隊のスキルを発動し、熾烈な戦いへと身を投じていく---。

 

製作:アメリカ

監督:デヴィッド・エアー

脚本:シルヴェスター・スタローン デヴィッド・エアー

原作:チャック・ディクソン

撮影:ショーン・ホワイト

美術:ナイジェル・エヴァンス

音楽:ジャレド・マイケル・フライ

出演:ジェイソン・ステイサム デヴィッド・ハーパー マイケル・ペーニャ

              ジェイソン・フレミング メラーブ・ニニッゼ マクシミリアン・オシンスキー

2026年1月2日公開

 

※若干ネタバレがありますのでご注意ください

 

昨年の「ビーキーパー」同様、年始めにお祭り気分で観るには丁度良い映画です。設定こそ異なるものの、監督、主演俳優が「ビーキーパー」と同じの上に、脚本をシルヴェスター・スタローンが手掛けているので、昨年と同じくノリノリで最後まで観られました。

 

ジェイソン・ステイサムが大暴れするのが見どころの映画ではありますが、ザコキャラの男女二人組が、レヴォンの恩人にあたるジョーの娘ジェニーを攫ったために、ロシアンマフィアまで巻き込む大騒動になっていくのが面白いです。

 

ザコキャラにあたるヴァイバーとアルテミスの仕事が雑過ぎて、ロシアンマフィアがこの二人組のせいでとばっちりを食らい、挙句の果てに主人公によって大打撃を受ける構図が皮肉を効かせています。

 

ロシアンマフィアの幹部であり父親でもあるヴォロディミルから排除されたディミトリが、この二人と商売で結びついている辺りも因果応報感があって味わい深く映ります。また、息子二人をレヴォンに殺されたロシアンマフィアの幹部・シモンが私怨を晴らそうするのを、最後に上層部が組織を危うくするなと警告を与えて幕引きする点も良い締め方でした。

 

罪を犯した者たちが悉く罰を与えられることは気持ち良かったですし、端役の悪徳警官の二人まできちんと始末されるのも伏線の回収が最後まで行き届いていました。

 

本作のジェイソン・ステイサムは、妻が自殺したことで義父から幼い娘メリーの親権を取り上げられ、娘との面会にも嫌がらせを受ける役どころ。そのような状況だからこそ、娘を攫われた父親の心情が十分理解でき、身の危険も顧みずにジェニーの奪還に身を投じるのも説得力を持たせていました。

 

おそらく3日も経てば内容をほぼ忘れるでしょうが、少々血生臭い部分はあるにせよ、新年を迎えるにあたって景気づけに観るのに相応しい映画でした。

 

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 

ところで、外に居る時ふとした拍子に知らない楽曲が流れ、耳に残ることはありませんか?その曲を知りたくても、知る術がないことも?

 

私は何度かありまして、あるフレーズだけ憶えていて、後になって漸く辿り着いたことがありました。ザ・ラーズの「There She Goes」のように、ラジオでかかった時は比較的簡単に知ることができますが、それ以外はなかなか難しい。

 

 

それでも、SNSのおかげで歌詞の一部を憶えていれば、歌詞検索で判明することがあります。例えば小高恵美の「情熱のささやき」。以前は歌い方が違うと思いつつも、好き、好き、大好きよの部分だけで、戸川純やフェアチャイルドの「好き好き大好き」かなと思っていました。でも、実際に歌を聴いてみると違っていてガッカリしたこともありました。

 

 

これが洋楽となると更に難易度が上がります。ここまで来ると耳の記憶だけが頼りで、最早お手上げと考えていました。ところが、昨年にニール・ヤングの「Will To Love」を偶然You Tubeで耳にして、思わずこれだと叫んでしまいました。歌声からおそらくニール・ヤングだろうと歌手の特定だけはできていました。私も彼のオリジナルアルバムを何枚か、ベスト盤も3枚組を1枚所持していますが、何しろアルバムを多く出しているので、どれに収録されているかは分かりませんでした。バッファーロー・スプリングフィールドやCSN&Yまで追っかけても見つからなくあきらめていただけに、この邂逅は嬉しかったですね。

 

 

こうのすシネマ

午前十時の映画祭より

 

製作:アメリカ

監督:ティム・バートン

脚本:キャロライン・トンプソン

原作:ティム・バートン キャロライン・トンプソン

撮影:シュテファン・チャプスキー

音楽:ダニー・エルフマン

出演:ジョニー・デップ ウェノナ・ライダー ダイアン・ウェスト

             アラン・アーキン ヴィンセント・プライス

1991年7月13日公開

 

雪の降る夜、寝つけない孫娘に「雪はどうして降るの?」と尋ねられた祖母は、彼女の問いに話し始めます。

 

老発明家が両手にハサミを備えた人造人間のエドワードを作りましたが、急死したため、エドワードは屋敷にひとり取り残されます。ある日、エドワードの住む屋敷に、化粧品の外交員ペグが訪問販売をしに来ます。心優しい彼女は廃墟と化した屋敷に住むエドワードを気の毒に思い、郊外にある自宅に連れて帰り住まわせます。

 

奇妙な男の出現に、近所の主婦たちは遠回しにペグに探りを入れてきます。やがて、エドワードが自分のハサミで植木を芸術的に刈り込み、ペットの毛を美しく整え、女性たちの髪を独創的にカットすることによって評判をとり、人気者になっていきます。同時に、彼はペグの娘のキムに惹かれていきます。

 

ところが、エドワードはキムのボーイフレンドのジムに騙され、不法侵入の容疑で警察に拘束されてしまいます。エドワードはジムに利用されたキムを気遣って真相を語らなかったため、近所の住人達は彼を避けるようになります・・・。

 

本作は化粧品の外交員のペグがハサミ男のエドワードを自宅に連れてきたことか巻き起こる騒動を描いた物語で、エドワードにとっては気の毒としか言えない受難劇の様相を呈しています。

 

近所の住人は彼に対して警戒心と好奇心を持って接していましたが、ハサミを駆使するエドワードに植木職人、理容師、トリマーの才能が分かると見るや、自分たちに役立つよう利用するのが何とも浅ましいです。

 

ペグは善意からエドワードの才能を伸ばして、彼にとって暮らしやすい環境を整えてあげようと尽力するものの、キムの恋人・ジムの策略で悪事を働いたように見られてしまったことから、エドワードは追い詰められていきます。特に誤解から疑いをかけられた末に、元居た場所に戻らざるを得ない話の流れは、胸を締め付けられるような哀しさと切なさが込み上げてきます。

 

いくらでも心温まる趣向のドラマにできるのに、善意が必ずしも人を幸福にするとは限らない、ある種ほろ苦さの入り混じった物語に仕上げているので、好みは分かれるかもしれません。

 

個人的には噂好きの有閑マダムたちが、子供の頃に見ていた「奥さまは魔女」に出てくる向かいの家の奥さんを連想させたり、ファッションや街の景色が60年代をイメージさせたりと、日本がアメリカに憧れを抱いていた時代を思い出させました。

百年の時効 伏尾美紀

 

幻冬社サイトより

1974年に起きた一家惨殺事件。未解決のまま50年――。アパートで見つかった、一体の死体によって事件の針は再び動き出す。嵐の夜、夫婦とその娘が殺された。現場には四人の実行犯がいたとされるが、捕まったのは、たった一人。策略、テロ、宗教問題……警察は犯人グループを追い詰めながらも、罠や時代的な要因に阻まれて、決定的な証拠を掴み切れずにいた。50年後、この事件の容疑者の一人が、変死体で発見される。現場に臨場した藤森菜摘は、半世紀にも及ぶ捜査資料を託されることに。上層部から許された捜査期間は一年。真相解明に足りない最後の一ピースとは何か? 刑事たちの矜持を賭けた、最終捜査の行方は――。

 

本書は昭和、平成、令和にまたがった警察捜査が描かれています。昭和49年に起きた『佃島一家四人殺傷事件』が捜査のメインになっており、犯行動機が昭和25年に北海道の函館で起きた一家殺人事件に繋がっていることが判明します。そして、昭和25年の事件に関与したと思しき犯人たちが、戦前の満州で接点があったことが明らかになります。また、平成に入ってからも、昭和49年に聞き込みに行った元児童養護施設の解体工事中に地下室から白骨化された死体が発見され、更に昭和49年の事件の重要参考人だったやくざが惨たらしく殺され、一連の事件の根の深さを感じさせます。昭和49年以降には過激派による連続企業爆破事件、バブルとそれに付随する地上げ、昭和天皇の崩御、平成に入ってからもバブル崩壊、即位の礼、宮崎勤による連続幼女誘拐殺人事件、阪神淡路大震災、オウム真理教事件などがあり、三つの時代に起きた事件や出来事を小説に絡めてスケールの大きな警察小説になっています。当時の世相を知る世代には人気のテレビ番組や流行歌も出てくるので、この小説で語られる事件もより生々しく感じられます。時代を超えて展開される物語の中で一番胸に刻まれるのは、未解決事件に対する刑事たちの世代を超えた刑事たちの執念。例え自分たちの代では解決できなくとも、手掛かりとなる記録を残すことで次の代に捜査を託し、次世代の後輩もその記録を引き継いで地道に捜査を継続しようとする意志の強さに胸が熱くなります。試行錯誤を繰り返しながら真相に迫る警察小説が好きな方には必読の書でしょう。

 

探偵小石は恋しない 森バジル

 

小学館サイトより

小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて——。

 

探偵事務所の代表兼調査員の小石想依は、大のミステリーマニア。探偵小説のような事件の依頼が来ないかと夢見つつ、実際は浮気調査の依頼ばかり。皮肉なことに小石はある特殊な能力を持っていて、色恋沙汰は他人事なのに、浮気調査の案件は非常に得意分野なのです。小石は好みの仕事の依頼が来ないのに文句を言う割にはプロ意識が高く、彼女の「仕事って、やりたくないことを全力でやって金もらう仕組みだから」と言う言葉にも一理あります。一方、小石を補佐する相談員兼調査員の蓮杖は、ミステリーには全く関心を示さず、暴走気味の小石を抑える役割を果たしています。この二人に加え、記憶を研究しているギャルメイクのバイト事務員の雛未の3人で探偵事務所が運営され、第一章から第三章までは色恋案件の調査と真相が描かれます。ここまでは比較的ライトなミステリーなのですが、探偵たちの与り知らぬところで連続傷害事件が起きていることを匂わせていて、不穏な雰囲気を醸し出しています。第四章では10年前に高校で起きた事件と第三章までの事件が結びつき、様相が一変します。ここから怒涛の伏線回収が始まり、ジェフリー・ディーヴァー並のツイストが連続していきます。80年代終りから90年代初頭にかけて台頭した、新本格派の作家の外連味たっぷりなテイストが好みならば、本書も十分満足できるでしょう。

 

暗闇法廷 下村敦史

 

双葉社サイトより

後天的な障害を抱える人々の支援をするNPO『天使の箱庭』の施設長が殺された。殺人の容疑者は全盲の入所者・美波優月。だが美波は、深夜に施設長に呼び出されて襲われたが殺してはいない、と主張している。弁護依頼を受けた刑事弁護人の竜ヶ崎恭介は絶対不利な状況のなか、真相解明のために奔走する。検察側証人は耳が聞こえず、弁護側からは喋れない少女が出廷。竜ヶ崎は無罪判決を勝ち取れるのか。法廷に待ち受ける奇跡の結末は!? 

 

リーガルミステリーの醍醐味は、裁判における検察と弁護側による駆け引きを含めた攻防であり、勿論本書でも堪能できます。加えて、被告人と証人が共に障碍者という特殊状況が話を面白くしています。また、被告人のある秘密が明かされ、これは正直意表を突かれました。ただ、如何にも唐突な感じで、後付けの印象が残りました。せめて伏線を張って仄めかしておいて欲しかったです。ある人物に関して名前でなく苗字に統一して表記していたことが、伏線と言えば伏線かもしれませんが・・・。施設長を殺した真犯人は、容疑者の証言を信じるならば、自ずと一人の人物に絞れ、意外性はあまりありません。動機に関しても裁判で真実が明らかにされてからは想定内でした。ミステリーとしての意外性がない代わりに、SNSのエコーチェンバー現象が裁判制度に影響を及ぼす怖れ、裁判において被告人や証人の宣誓に関して欧米と日本の重みの違い、障碍者のハンデを利用して検察側に有利な供述書にサインさせる危うさなど、問題提起には考えさせられるものがありました。

 

今年も拙ブログにお越し頂きありがとうございました。また、いいねボタンを押し、コメントをくださったことに感謝しております。正月三が日は例年通りブログはお休みします。コメントへの返事が遅れるかもしれませんが、ご容赦ください。来年も引き続き、よろしくお願いいたします。皆様もどうぞ良いお年をお迎えください。

 

「レコードコレクターズ」誌が昭和歌謡の60年代、70年代の名曲ランキング特集を組んでいましたから、80年代もあると思っていたら、案の定1月号でやりましたね。ランキングに関しては、80年から89年までにシングル盤で発売された作品から、「レコードコレクターズ」の執筆陣が選んで1位から200位までを決めています。ちなみにベスト10は以下の通りです。

 

1位:斉藤由貴「卒業」

2位:沢田研二「TOKIO」

3位:小林旭「熱き心に」

4位:寺尾聰「ルビーの指環」

5位:原田知世「時をかける少女」

6位:薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇”より」

7位:テレサ・テン「時の流れに身をまかせ」

8位:イモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」

9位:松田聖子「青い珊瑚礁」

10位:上田正樹「悲しい色やね-Osaka Bay Blues-」

 

小林旭の「熱き心」と薬師丸ひろ子の「Woman」がランクインしているのが嬉しいなぁ。

 

「熱き心」は大瀧詠一の楽曲が素晴らしいし、作詞を松本隆でなく、阿久悠にしたのも大正解。そして、スケールの大きな歌は、小林旭にぴったり嵌ります。「Woman」は難易度の高い楽曲を、薬師丸ひろ子の透き通る声質でねじ伏せた感があって堪りません。てっきり「セーラー服と機関銃」が上にくると思っていただけに、この順位はちょっと予想外でしたね。

 

その一方で、80年代に松田聖子や小泉今日子と共にアイドルを牽引した中森明菜が、ベスト10どころか、ベスト20にも入っていないなんて、どういうこと?勿論ヒット曲が多ければ分散して順位が上がらないのは仕方ないにせよ、せめて20位以内には入って欲しかったですよ。お遊びのランキングにケチをつけるのは野暮と分かっていますけど・・・。

 

10位以降に目を向けると、少年隊「ABC」(42位)、島津ゆたかの「ホテル」(52位)、松村和子の「帰ってこいよ」(82位)、早瀬優香子の「サルトルで眠れない」(119位)、本田美奈子「Oneway Generation」(198位)などは、よくぞ選んでくれたという感じ。

 

山口百恵が「ロックンロール・ウィドウ」(23位)、「さよならの向う側」(95位)の二曲しかないのは、1980年に引退したことを考えると、寧ろ健闘したと言っていいですし、美空ひばりの「川の流れのように」(64位)、「愛燦燦」(80位)の二曲が入っているのは、戦後歌謡史を代表する歌手に相応しいランクインと思います。

 

意外だったのはC-C-Bが「Romanticが止まらない」(47位)、「空想Kiss」(160位)、「スクール・ガール」(196位)と3曲ランクインしているのに対し、光GENJIは「パラダイス銀河」(130位)の一曲しか入っていません。80年代に発売されたシングル盤のうち、7枚が1位になっているのにね。

 

80年代になると、歌謡曲と他のジャンルとの区別もより難しくなってきましたね。アン・ルイスの「六本木心中」(13位)、「あゝ無情」(118位)は歌謡ロックとして歌謡曲寄りなのは納得します。ランク外ですが、SHOW-YAの「限界LOVERS」となると微妙ですかね。

 

忌野清志郎+坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」(31位)、Y.M.Oの「君に、胸キュン。」(35位)はテクノ歌謡として歌謡曲に含めてもいい反面、山下達郎の「クリスマス・イブ」(17位)、竹内まりやの「PLASTIC LOVE」(194位)は歌謡曲?竹内まりやならば「駅」や「シングル・アゲイン」があるじゃない。何なら「もう一度」も歌謡曲でいいですよ。

 

こんな風に何だかんだ言いたくなるのが、ランク付けですわ。200位内に入っていない中から私が選ぶとしたら、こんな曲を入れてみたいですね。

 

雨に消えたあいつ 伊藤智恵理

アイドル冬の時代と呼ばれた時期に活動したため、ブレイクしなかったのが残念。本当は「Merry Christmas」が一番好きですが、シングル盤でないためこちらを選びました。

 

丸の内ストーリー 畑中葉子&ビートたけし

不謹慎にもほどがあるビートたけしのセリフの数々。80年代だからこそできた芸当で、今ならば炎上必至でしょう。

 

番外 ジェネレーション・ダイナマイトALFEE

シングルになっていませんが、歌謡メタルとして外せません。アルフィーの中で一番好きです。

 

 

アバター ファイヤー・アンド・アッシュ 公式サイト

 

チラシより

地球は絶滅の危機に瀕していた---人類は、神秘の星パンドラへの侵略を開始。アバターとして潜入した元海兵隊員のジェイクだったが、この星に生きるナヴィの女性ネイティリと家族を築き、人類と戦う決意をする。しかし、同じナヴィでありながらパンドラを憎むアッシュ族のヴァランは、人類と手を組み復讐を果たそうとしていた。神秘の星“パンドラ”の真実が明かされる時、かつてない衝撃の“炎の決戦”が始まる!

 

製作:アメリカ

監督:ジェームズ・キャメロン

脚本:ジェームズ・キャメロン リック・ジャファ アマンダ・シルヴァー

原案:ジェームズ・キャメロン リック・ジャファ アマンダ・シルヴァー

             ジョシュ・フリードマン シェーン・サラーノ

撮影:ラッセル・カーペンター

美術:ディラン・コール ベン・プロクター

音楽:サイモン・フラングレン

出演:サム・ワーシントン ゾーイ・サルダナ

             シガーニー・ウィーバー ウーナ・チャップリン

2025年12月19日公開

 

率直に言って、映像には圧倒されました。そのおかげで最後まで飽きずに観ることはできました。その反面、ドラマに関しては前作同様、3日も立てば忘れてしまうような内容でした。ただ、親の支配下に置かれた子供たちが、危険な出来事を経験するうちに成長していく通過儀礼の物語の面は、少しは出ていたかもしれません。

 

観終わってみると、ジェイクとネイティリはそれなりの活躍はするものの、事態を打開したり、窮地に陥った際に救ったりと、重要な局面では娘のキリのほうが功績は大きいように感じました。尤も、キリの持つ特殊能力から、人間がパンドラで暮らす可能性が高くなったことが判明し、人間がより野心を抱いて侵略する気になったことを考えると皮肉とも思えます。

 

今回の悪役は、クォリッチ大佐以上にアッシュ族のリーダーのヴァランに存在感がありました。クォリッチは公私混同する点はありますが、基本、軍の規律に従って行動しており、ある意味理性的です。彼に比べるとヴァランは、何を仕出かすか判らない危うさと禍々しいほどの残忍さがあり、クォリッチよりキャラが立っていました。

 

こうした二人にどんな落とし前をつけるのか楽しみにしていたのですが・・・。クォリッチに関しては終始息子のスパイダーへの愛情が滲み出ており、その点を活かすならばあのような形の退場ではなく、もっと泣かせる演出も可能だったはず。ヴァランに関しては次作も登場させる気?と疑いたくなりましたね。

 

自然破壊へ警鐘を鳴らす点や、暗に捕鯨禁止を仄めかす描写が鼻についた面はあるにせよ、勧善懲悪の娯楽映画に振り切ったことが功を奏し、3時間超の長丁場を乗り切ったことには素直に感心しました。ジェームズ・キャメロンは5部作を想定しているようですが、個人的にはもういいかな・・・。

 

 

星と月は天の穴 公式サイト

 

映画.comより

1969年。妻に逃げられ独身のまま40代を迎えた小説家の矢添克二は、心に空いた穴を埋めるように娼婦の千枝子と体を交え、妻に捨てられた過去を引きずりながら日々をやり過ごしていた。その一方で、誰にも知られたくない自分の秘密にコンプレックスを抱えていることも、彼が恋愛に尻込みする一因となっていた。そんな矢添は、執筆中の恋愛小説の主人公に自分自身を投影して「精神的な愛の可能性」を自問するように探求することを日課にしている。しかしある日、画廊で出会った大学生・瀬川紀子と彼女の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至ったことで、矢添の日常と心は揺れはじめる。

 

製作:ハピネットファントム・スタジオ

監督・脚本:荒井晴彦

原作:吉行淳之介

撮影:川上晧市 新家子美穂

美術:原田恭明

音楽:下田逸郎

出演:綾野剛 咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 柄本佑 宮下順子 田中麗奈

2025年12月19日公開

 

「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」のついでに観たとは言え、思っていた以上に苦行を強いられた映画でした。観ようと思った動機は、白黒映画であること、1969年を舞台にしていること、俳優がそこそこ揃っていること、個人的にAV女優(今時はセクシー女優と呼ぶらしい)のMINAMOが一般映画に出演していることなどの興味はありました。

 

※ここからは作品に対して否定的なことばかりを書いていますのでご注意ください

 

ただ、荒井晴彦はいい脚本を書くけど、監督としては私と相性が悪いのですよ。まず、主人公の心情を台詞で説明するのが野暮な上に、現実の女子大生と小説の中のB子に関する情事を、矢添の書く小説に重ねて文章で表現するのも、作家らしいと言えばそうかもしれませんが、センスが良いとは思えません。

 

全編白黒と言う訳ではなく、腹の傷、唇、入れ歯など身体の一部だけカラーパートで表現される箇所もあります。ただし、ここぞというところで使われるならばまだしも、何度も一部色がつく箇所が出てくるため効果が半減しています。

 

また、1969年を舞台にしている割には、時代の空気感も感じられません。当時の流行歌のゴールデン・カップス「愛する君に」、アン真理子「悲しみは駆け足でやってくる」は劇中で流れますが、「夜明けのスキャット」は由紀さおりでなく山崎ハコのヴァージョン。

 

病院の待合室でアポロ11号の月面着陸の中継を見る場面がある一方、学園紛争は柄本佑との会話のみで、当時の様子は描かれません。他にも、主人公のキャラクターが嫌な奴過ぎて感情移入できないのはいいとしても、彼の相手となる瀬川紀子も訳の分からぬ振る舞いをするので見ていて疲れて来ます。紀子を演じる咲耶の声や台詞回しが誰かに似ていると思いながら観ていたら、二階堂ふみだと気づきました。

 

主人公と情を交わす女は岬あかりや田中麗奈も居るのですが、濡れ場は主に咲耶が演じていて、岬あかりは裸とベッドシーンが僅かで、田中麗奈に到っては肌を見せるのは背中くらいで裸すら見せません。この辺りもバランスに欠けています。

 

それと、矢添が常連客となっている娼館のマダムが、矢添に馴染みの千枝子が居るにも関わらず、しきりに新人の女の子を勧めるのも、風俗店のしきたりや経営者の風俗嬢の管理を考えると解せなかったです。馴染みの客を取られたのがバレたら女の子同士でトラブルになるんじゃないの?

 

吉行淳之介の原作は未読ですが、ドラマに関しても理屈っぽく、さして見せ場もないため、面白みに欠けると言わざるを得ません。濡れ場がソフトなAV作品と言うのが率直な感想でしたね。

世界一不運なお針子の最悪な1日 公式サイト

 

映画.comより

スイス山中の小さな町でお針子をしているバーバラ。亡き母から譲り受けた店は倒産寸前で、相談できる友人も恋人もいない。ある日、常連客との約束に遅刻した上にミスをして激怒させてしまった彼女は、その帰り道に麻薬取引現場に遭遇する。売人の男たちは血まみれとなって道路に倒れており、周囲には破れた白い粉入りの紙袋と拳銃、そして大金の入ったトランクケースが置かれている。バーバラの脳裏には「完全犯罪(横取り)」「通報」「見て見ぬふり」という3つの選択肢がよぎるが……。

 

製作:アメリカ スイス

監督:フレディ・マクドナルド

脚本:フレディ・マクドナルド フレッド・マクドナルド

撮影:セバスチャン・クリンガー

美術:ビビアン・ラップ

音楽:ヤコブ・タルディエン

出演:イヴ・コノリー カルム・ワーシー ジョン・リンチ

             K・カラン ロン・クック トーマス・ダグラス

2025年12月19日公開

 

邦題に相応しい身寄りのない女性の受難劇でした。バーバラは事件に巻き込まれる前に、かなり不安定な精神状態に置かれています。母親を亡くした上に、母親から引き継いだ店は倒産寸前。加えて薹の立った常連客の女性からはカスタマーハラスメントを受け、かなり落ち込んでいます。

 

そんな時に、麻薬取引の行なわれたと見られる現場に出くわします。男二人は重傷を負っており、道には大金の入ったトランクケースが転がっています。バーバラはこの状況から、大金を横取り、警察に通報、見て見ぬ振りの三択を考え、映画は彼女が起こす行動の3つのパターンに添って展開します。

 

3つの結末はここでは触れないでおきますが、バーバラは3つのどれを選んでもロクな目に遭わず、観客からすると選択肢はないじゃんと思わずにいられません。

 

一番まともなのは警察に通報する選択なのですが、対応するのがおばあちゃん警官なので、バーバラからすると頼りないことこの上ない。それでも、このおばあちゃんは結構真っ当に任務を果たしていて、バーバラが苦境に陥るのは自業自得と言えます。

 

バーバラは3パターンとも危険な状況に置かれます。彼女の店は“喋る刺繍”を売りにしていて、職業柄常に針と糸を持ち歩いています。実際にできるかどうかは別として、犯罪に巻き込まれたバーバラは針と糸でもって苦境を脱しようと試みます。この点が本作の一番の見どころと言っていいでしょう。

 

ただし、バーバラが針と糸で作業している時に、彼女がどんな意図をもって反撃しようとしているのか、観客には伝わりづらいのが欠点。せめて、ヒントとなる演出をしてくれればありがたいのですが・・・。

 

それと強引な点も目立ちます。例えば、現場を目撃したバーバラが見て見ぬふりをして立ち去ろうとした際、彼女に気づいた主犯格の男に追われる場面。警察に通報しようとしても留守電になっていて、とりあえず人の居る大衆食堂に逃げ込みます。ここまでは問題ないのですが、麻薬取引で負傷した息子のジョシュを伴って父親も大衆食堂に入るので、さすがに店員や他の客も血を流しているジョシュをおかしいと気づくのに、周囲の者は何の処置も取りません。

 

他にもそれは無理筋だろうと疑問に思う点がいくつかあり、細部の綻びが目につきます。バーバラもジョシュも、ある意味親に囚われているとも言え、同じ境遇にあることから共犯関係が成り立ち、二人で現状を打開していく流れは良かったですし、バーバラが災難を被る原因に立ち返って、もう一度過去を遣り直す展開も、3つの選択肢の結末を考えると、後味良く終われたように思えました。あれで良かったのかは微妙ですけどね。