パンクフロイドのブログ -6ページ目

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

恋愛裁判 公式サイト

 

チラシより

人気上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへ駆け寄る。その8ヵ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。

 

製作:東宝 ノックオンウッド agehasprings ローソン

監督:深田晃司

脚本:三谷伸太朗 深田晃司

撮影:四宮秀俊

美術:松崎宙人 長谷川功

音楽:agehasprings

出演:斎藤京子 倉悠貴 仲村悠菜 小川未祐 今村美月 桜ひなの 唐田えりか 津田健次郎

2026年1月23日公開

 

題名に“裁判”の文字が入っていますが、所属事務所とアイドルとの訴訟を巡る裁判劇を期待していると、肩透かしを食わせられます。どちらかと言えば、アイドルとファン及び恋人との距離に関して葛藤する物語となっています。したがって、序盤はアイドルグループの活動や彼女たちの日常亜生活が描かれ、メンバーの一人のやらかしによって、ヒロインがアイドルの恋愛に疑問を呈していく流れになります。

 

恋愛禁止と謳っているものの、清水菜々香はファンの一人と密かに交際しており、デートの際には同じメンバーの山岡真衣と大谷梨紗を同行させることでカムフラージュしています。そのデート中に、真衣はかつての同級生で現在は大道芸人をしている間山敬と再会します。後日、菜々香とファンの逢引きがカラオケルームで行われ、同席していた真衣、梨紗、敬たちは気を利かせて、二人だけにしてあげます。

 

ところが、菜々香が裏アカウントでカラオケルームでの親密な様子の写真をアップしたため、彼女はSNSで叩かれた上に、新曲におけるセンターの位置も剥奪されます。更に、交際していたファンとは別れ、握手会に暴走した別のファンが現れたことで、傷害沙汰の事件にまで発生します。それにしても、いくら親しい人間だけとは言え、裏垢に親しいファンとのツーショットを載せるのは脇が甘すぎ。

 

真衣は恋愛禁止のみならず、所属事務所に全て自分たちが管理されていることに鬱屈を抱えており、菜々香の引き起こした事件が引き金となって、衝動的に逃亡してしまいます。彼女が所属事務所にどのように反抗したのかは具体的に見せず、物語はいきなり8ヶ月後に飛び、所属事務所に裁判で訴えられる場面から始まります。

 

一応裁判の描写はあるものの、原告と被告との攻防もなく、極めて薄く描かれています。原告側の弁護士も優秀には見えず、深掘りしなかったのは正解だったかもしれません(笑)。一方、真衣は裁判費用を巡って敬との関係にもひびが入り始めます。そんな最中、所属事務所の事情が変化し、真衣と敬にある提案が持ちかけられます。その提案に対し、真衣がどのような決断を下すのかが、終盤の見どころとなってきます。

 

昔からアイドルは神聖化される傾向にあり、恋愛禁止も暗黙の了解とされていました。昔と違うのは、アイドルが手の届かぬ高嶺の花だったのが、握手会などでアイドルとの交流が身近になったことによって、ファンの意識が多少なりとも変化したことでしょう。

 

真衣が最終的に下した決断は、事務所からのお仕着せに唯々諾々と従うのではなく、自らの意思で道を開こうとすることを意味しており、それは自分のみならず、後に続く後輩たちのことを想っての選択の結果だったように思います。そのことを踏まえると、一番肝心の所属事務所の状況が変わった後の裁判の模様を一切見せることなく、結果だけを伝えるのは、一番見たいところをお預けされたようなモヤモヤ感だけが残りました。

さよならジャバウォック 伊坂幸太郎

 

双葉社サイトより

結婚直後の妊娠と夫の転勤。その頃から夫は別人のように冷たくなった。彼からの暴言にも耐え、息子を育ててきたが、ついに暴力をふるわれた。そして今、自宅マンションの浴室で夫が倒れている。夫は死んだ、死んでいる。私が殺したのだ。もうそろそろ息子の翔が幼稚園から帰ってくるというのに…。途方に暮れていたところ、2週間前に近所でばったり会った大学時代のサークルの後輩・桂凍朗が訪ねてきた。「量子さん、問題が起きていますよね?中に入れてください」と。

 

パワハラ、モラハラの夫を弾みで殺してしまった妻が、大学時代の後輩の助けを借りて殺人を隠蔽するサスペンスのつもりで読んでいたら、邪悪なものが人間の身体に取り憑く「ヒドゥン」のような物語でした。更に終盤には妻の状況が根底から覆される事実が明かされ、伊坂幸太郎が一筋縄では行かない小説家であることを改めて思い知らされました。彼の作品には映画や音楽に関する小ネタが度々仕込まれていて、本書でもフィル・スペクター、チャールズ・マンソンのエピソードを匂わせ、ビートルズのある楽曲も重要な鍵となっています。ただし、著者が元ネタを具体的に示さないため、読者はそれが何かを探る楽しみもあります。語り口の巧みな作家なので、途中でダレることもなく一気に読め、罪を犯した妻もそのオチならば十分償ったと解釈でき後味も良かったです。因みに題名にあるジャバウォックとは、ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」の中で展開される劇中詩に出てくる正体不明の怪物です。

 

ジャバウォックを亀に移す際に用いられる曲です

 

贖罪のマンティス 前川裕

 

光文社書籍情報サイトより

8人もの男性を性行為ののちに殺した浅井美奈。その特異性はロープと手斧を使用した極めて残虐な殺害方法にも顕著だった。壮絶な逮捕劇の果てに身柄を拘束され、そして2020年、世間を震撼させた彼女の死刑が執行される。将来を嘱望される水泳選手だった浅井はなぜ凶行に至ったのか。過去の深淵を窺くほどに浮かび上がるのは、凄絶な怨嗟の叫びだった。

 

プロローグで浅井美奈が既に連続強盗殺人犯として死刑が執行されたことを明かしているため、本編では彼女が犯行に及んだ経緯が描かれていきます。同時に、殺人犯を追う二人の刑事の捜査活動も並行して描かれ、性暴力によって身を持ち崩した女性の悲惨さが明かされていきます。更に、美奈の刑が執行された後に、彼女の娘の美野里が教誨師の田島玄侑を訪れ、美奈と彼女の兄の富之との“交換ノート”を見せてから、新たな疑惑も浮上してきます。そして、最終的に美奈が殺人の一線を越えたのは何に原因があったのかに焦点が絞られてきます。エピローグに到っても、美野里の出自を始め、いくつかの疑惑は謎のまま残り、人によっては消化不良の感の印象を与えるかもしれません。その一方で、余白を残した分、フィクションに生々しさが加わったとも受け取れます。著者は前作の「K 時代の恋人」でも藤圭子をモデルにした人物を登場させたように、本書では山崎ハコの「望郷」「きょうだい心中」を効果的に使い、団塊の世代より少し後の世代を感じさせました。

 

暁星 湊かなえ

 

双葉社オフィシャルサイトより

現役の文部科学大臣で文壇の大御所作家でもある清水義之が全国高校生総合文化祭の式典の最中、舞台袖から飛び出してきた男に刺されて死亡する事件がおきた。逮捕された男の名前は永瀬暁、37歳。永瀬は逮捕されたのち、週刊誌に手記を発表しはじめる。そこには、清水が深く関わっているとされる新興宗教「世界博愛和光連合(通称:愛光教会)」に対する恨みが綴られていた。暗闇の奥に隠された永瀬の目的とは──。

 

本書は統一教会に恨みを抱き、元首相を暗殺したテロリストを連想させる内容になっています。そして、殺人犯の視点で書かれた手記のパートと、人気作家がフィクションのていで書いたパートの二つで構成され、この二つのパートから新興宗教団体に纏わる深い闇と文科大臣の暗殺がどのように繋がるのかが読みどころとなっています。殺人犯の母親と人気作家の小説に登場する母親のどちらも教団に搦め取られ、子供たちが大変な目に遭わされる様は、“イヤミスの女王”の本領を発揮しています。その一方で終始滅入るような気分で読まされる上に、殺人犯の手記の最終章を読む前に、人気作家の小説のパートを読んだあとで読むことをおすすめしますと、思わせ振りの書き方をしている割には、然程意外性も驚きもなく拍子抜けしてしまいました。ただ、夜明け前は一番暗くとも、必ず日は昇り、そこには輝く星があるという著者のメッセージは確実に伝わったように思います。

MERCY/マーシー AI裁判 公式サイト

 

チラシより

凶悪犯罪が増加し、厳格な治安統制のためにAIが司法を担うことになった近未来。ある日、敏腕刑事のレイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑で<マーシー裁判所>に拘束されていた。冤罪を主張する彼だったが、覚えているのは事件前の断片的な記憶のみ。自らの無実を証明するには、AIが支配する世界中のデータベースから証拠を集め、さらにはAI裁判官が算出する“有罪率”を規定値まで下げなくてはならない。無実証明までの<制限時間は90分>。さもなくば<即死刑>--。

 

製作:アメリカ

監督:ティムール・ベクマンベトフ

脚本:マルコ・ヴァン・ベルレ

撮影:カリッド・モタセブ

美術:アレックス・マクダウェル

出演:クリス・プラット レベッカ・ファーガソン アナベル・ウォーリス クリス・サリバン

2026年1月23日公開

 

AIが裁判官の役目を果たす設定から、観る前はてっきりSF寄りの作品と思っていました。しかし本編を観ると、安楽椅子探偵物の本格ミステリーでした。更に被告人が限られた時間内に無実を証明しなければ即死刑となるため、タイムリミットサスペンスの要素も加えられています。

 

被告人にとってはかなり不利な条件ですが、唯一AIの持つデータベースからアクセスする権利が与えられています。その権利をフル活用しながら手掛かりを掴み、裁判所に拘束されている中で、真犯人を見つけ出すことが見どころとなっています。

 

有力な証拠を見つけてきた場合は“有罪率”が下がり、逆に有力な容疑者を見つけても物的証拠が提示できなければ数値は変わらずと言った具合に、AIの判定は実にシビア。次第にAIのマドックス判事が憎らしく思えてきます(笑)。

 

本格ミステリーの定石通り、怪しいと思った人物の容疑が次々と消えていく中、レイヴンは妻殺しの裏に意外な真相が隠れていたことに辿り着きます。更に事件が一段落した後も、犯行のきっかけとなったことに対してもうひとヒネリ加えられていて、こちらもなかなか気が利いていました。

 

物語自体は息つく暇もなく、次から次へと新しい事実が浮かび上がり、性急に証拠集めしようとするレイヴンに、マドックス判事がイラッとくるほど冷静且つ適切な忠告で彼を鎮めようとするので、最後まで飽きずに観られます。

 

ただ、アクセス制限があるとは言え、防犯カメラの録画、携帯の通話記録と位置情報ばかりか、警察の内部情報まで簡単に閲覧できてしまう社会は、それはそれで怖いかも・・・。

アウトローズ 公式サイト

 

チラシより

休職処分中のロサンゼルス郡保安局刑事ニック(ジェラルド・バトラー)は、銀行強盗事件ののち逃亡したドニー(オシェア・ジャクソン・Jr)の行方を追って、単身ヨーロッパへ。やがて、ドニーが窃盗を繰り返す犯罪組織と行動を共にしているとの情報を掴んだニックは、世界最大のダイヤモンド取引所を狙う壮大な強盗計画に巻き込まれていく。緻密な作戦を立てる悪名高き窃盗団や、ダイヤを奪おうとするマフィアの陰謀が交錯するなか、ニックとドニーがまさかの共闘!?型破りな刑事と不屈の強盗犯の予測不能な運命はいかに---。

 

製作:アメリカ カナダ スペイン

監督・脚本:クリスチャン・グーデガスト

撮影:テリー・ステイシー

音楽:ケヴィン・マトリー

出演:ジェラルド・バトラー オシェア・ジャクソン・Jr

             エヴィン・アフマド サルヴァトーレ・エスポジト

2026年1月23日公開

 

前作の「ザ・アウトロー」は7年前に観た筈なのに、すっかり忘れていました。自分の記事を遡って読んでみても全く思い出せず、本作におけるニックとドニーとの会話から、前作ではニックが最後にドニーに一杯食わされたことを辛うじて憶えていたほど真っ新な状態で鑑賞しました。ニックとドニーの因縁をもう少し憶えていれば、もっと楽しめたのにと思いつつも、この新作も1週間も経てば忘却の彼方になっているでしょうね(笑)。

 

強盗団がベルギーのアントワープ空港の格納庫に収まっている飛行機からダイヤを盗み出す冒頭からして小気味よいです。その手口がドニーの犯行と似ていたことで、ニックは手掛かりを求めてフランスへ飛び、ドニーの足取りを追います。一方、強盗団は盗んだダイヤを足掛かりにして、ダイヤモンド取引所に眠る獲物を狙おうとしていました。

 

やがて、ニックはドニーを見つけ、彼を脅して一味の仲間に入ることに成功します。ニックは強盗団に入る前に、フランス警察にはドニーの存在を知らせなかったため、単独で囮捜査をしようとしているのか、ニック自身が闇社会に落ちたのか、判断がつきかねる展開になります。ニックも強奪計画の実行中は仲間との一体感もあるため、彼の目的が益々読めなくなります。

 

強奪計画が着々と進む一方で、強盗団が飛行機から盗んだダイヤがイタリアのマフィアの物だったことが明かされ、ニックとドニーが拉致され、二人はマフィアから取り戻すよう命じられます。

 

一応二人には制裁が加えられたものの、かなり甘い罰にも感じられます。二人を殺すより、利用して取り戻すという実利的な判断が下されたのでしょうが、これ以外にも窮地に陥った時は手助けするなど、結構甘い対応をしているのですよ。強奪計画が進む中、マフィアも強盗団からブツを横取りする展開になっていれば、もっとサスペンスが生じたと思うのですが・・・。

 

それでも、強奪の準備と実行描写はなかなか面白く観られ、都合良すぎる点はあるにせよ、ケイパーものとしては十分合格点に達しています。結末は言わぬが花ですが、ニックはいい仕事をしたとだけは言っておきましょう。ラストの場面を観る限りでは、まだ続編を作りそうな雰囲気を醸し出していて、ジェラルド・バトラーが体の動けるうちに製作してもらいたいですね。

 

 

ラピュタ阿佐ヶ谷

昭和100年!永遠の九ちゃん! 坂本九MOVIES

 

製作:松竹 マナセプロダクション

監督:市村泰一

脚本:柳井隆雄

原作:夏目漱石

撮影:小杉正雄

美術:浜田辰雄

音楽:古賀政男

出演:坂本九 加賀まりこ 古賀政男 牟田悌三 三波伸介 大村崑 藤村有弘 三木のり平

1966年8月13日公開

 

小川大助(坂本九)は、数学教師として四国松山の中学校に赴任しました。彼は早速、校長には狸(古賀政男)、教頭には赤シャツ(牟田悌三)、数学主任の堀田には山嵐(三波伸介)、教頭の腰巾着の吉川には野だいこ(藤村有弘)、英語の古賀はうらなり(大村崑)という具合にあだなをつけます。逆に大助も生徒たちから坊っちゃんとあだ名をつけられました。

 

そんな折、気の短い江戸っ子の大助は、生徒たちのゆったりした松山弁がまだるっこしく、生徒たちも大助が彼らを馬鹿にしていると誤解した末に、宿直の大助の布団にイナゴを入れる事件が起きます。大助と生徒は険悪な雰囲気になりますが、生徒の中に片腕のない者がいたことを知らずに詰ったことを、大助が素直に謝ったことから徐々に両者の間の距離が縮まってきます。また、大助はだんご屋の娘小夜(九重佑三子)と親しくなり、彼女の弟から上級生からいたずらの案を求められたのをきっかけに始まったことも知らされます。

 

ある日大助は、うらなりの婚約者のマドンナ(加賀まりこ)に、赤シャツが横恋慕した挙句、うらなりを九州に転勤させようと画策していることに憤慨し、山嵐と共にたぬき校長に抗議に行きます。しかし、教頭に首根っこを掴まれている校長は、二人の説得に耳を貸さず失敗に終わります。逆に赤シャツは生徒同士の喧嘩の仲裁に入った坊っちゃんと山嵐を悪者にして、二人を学校から追い出そうとするのですが・・・。

 

坂本九主演の映画なので、勿論劇中では彼の歌が流れ、ご本人にも歌う場面が用意されています。その意味では、美空ひばりと同じ正統派のアイドル映画と言えます。お嬢が沢島忠監督と組んだ時の時代劇で見せるような快活で明朗な爽やかさがこの映画にもあり、坂本九が硬派で一片の曇りもない真っ直ぐなキャラクターを演じている上に、生徒のいたずらに対しても決して暴力に訴えることはせず、正論で諭していくことに心地良さを感じました。

 

その事に加えて、主人公のみならず脇を支える役者陣も、役柄に相応しい好演をしています。主人公の理解者となる山嵐には三波伸介を起用し、しっかり相棒感を醸し出しています。劇中では当時流行った「びっくりしたなぁ、もう」の台詞があるのも笑えます。昭和を代表する大御所の作曲家の古賀政男がたぬき校長を演じていること自体が貴重であり、小使い役の三木のり平は然程見せ場がなくても惚けた味をしっかり爪痕として残していました。善良だが頼りないうらなりも大村崑にぴったり。

 

坊っちゃんと山嵐の敵役となる赤シャツの牟田悌三や野だいこの藤村有弘も正に適役。藤村有弘の場合は狡猾な役を何度も演じているのであまり驚きはありませんが、子供の頃にテレビドラマの実写版『忍者ハットリくん』や『ケンちゃん』シリーズを見ていた世代には、牟田悌三が気障で好色な上に腹黒い役も嵌るのが意外でした。

 

坂本九に絡む女優陣に目を転じると、汽車の中で出逢う香山美子、マドンナ役の加賀まりこ、だんご屋の娘の九重佑三子と、いずれも魅力的。夫婦と間違われて同じ部屋に泊まることになった坊っちゃんに対し、大人の余裕を見せる香山美子が時折妖艶に映ります。加賀まりこのお嬢様役は彼女にとっては演じ甲斐がなかったように思えますが、観客にとっては当時の可愛らしい顔立ちだけで彼女をいつまでも見られます。子供の頃に『コメットさん』を見ていた者には、親しみやすく庶民的な娘役に九重佑三子はドンピシャで、坂本九の相手役にしても三人の中では一番適していました。

 

手垢のついた感のある夏目漱石の原作の映画を楽しめたのは、ひとえに市村泰一の手堅い演出によるところが大きいですが、適格な配役と脇役陣の芝居もかなり貢献していたように思います。日頃血生臭い映画やクセの強い映画を観てきているせいか、たまにこのような清々しい映画を観ると心が洗われるようでした(笑)。

 

ジャケットあらすじより

大学を卒業し、ジャーナリストを目指してNYにやってきたアンディ。オシャレに興味のない彼女が手に入れた仕事・・・それは一流ファッション誌“RUNWAY”のカリスマ編集長ミランダ・プリーストリーのアシスタントだった。しかし、それは今まで何人もの犠牲者を出してきた恐怖のポストであり、ミランダの要求は悪魔的にハイレベル!朝から晩まで鳴り続けるケイタイと横暴な命令の数々に、キャリアのためとはいえ、私生活はめちゃめちゃ。彼の誕生日は祝えないし、友達にも愛想をつかされてしまう。この会社で、このままでいいの?本当は何をしたいんだっけ・・・?

 

 

製作:アメリカ

監督:デイヴィッド・フランケル

脚本:アライン・B・マッケンナ

原作:ローレン・ワイズバーガー

撮影:フロリアン・バルハウス

美術:ジェス・ゴンコール

音楽:セオドア・シャピロ

出演:アン・ハサウェイ メリル・ストリープ エミリー・プラント スタンリー・トゥッチ

2006年11月18日公開

 

アンディ(アン・ハサウェイ)は元々ジャーナリスト志望で、ミランダ(メリル・ストリープ)の下で1年修業すればどんな仕事にも就けると信じ、腰掛のつもりで畑違いのファッション誌に勤めます。彼女はファッションのことをあまり勉強せずに入社したため、いざ仕事を任されても勝手が分からず、職場の同僚にも冷ややかな対応をされます。

 

それでも、“RUNWAY”での仕事を続けていくうちにファッションにも興味を持ち、仕事に対する意識も変わり、ファッション・コーディネーターのナイジェル(スタンリー・トゥッチ)の指導もあって、ファッションセンスが磨かれていきます。その反面、仕事の忙しさにかまけて、友人たちとは距離ができ、恋人のネイト(エイドリアン・グレニアー)とも巧く行かなくなります。そんな状況の中、アンディはミランダのお伴としてパリ・コレクションに出張し、ミランダの進退に関わる重要なことを知ってしまいます。

 

本作は勿論、ヒロインとなるアン・ハサウェイが主役の映画。野暮ったい服を着ていた彼女がある時期を境に垢抜けたファッションに身を包む変身ぶりや、上司による数々の無理難題に応えようとする奮闘ぶりが見どころです。ただし、彼女以上に存在感を放つのが鬼編集長のメリル・ストリープ。観ているうちに、彼女の無茶振りと歯に衣着せぬ毒舌がクセになって楽しくなってきます。しかも、穏やかな口調でキツいことを放つので効果絶大。

 

彼女は仕事のみならず、私的な用事にも部下を使うので、第一アシスタントのエミリー(エミリー・ブラント)はかなり疲弊しています。昭和の時代にも部下が上司の引越しの手伝いをさせられるなど、公私混同した話を耳にしましたが、日本の場合はたまにあるから要求に応えられる訳で、アンディやエミリーは、ほぼ毎日ミランダの私用のためにこき使われるので、寧ろ昭和の日本人より過酷な状況に置かれているかもしれません。まぁ、ミランダの傍若無人ぶりもフィクションだから笑って見られますが、実際に彼女の下で働くとなったら堪ったものではありませんね。

 

劇中では衣服のみならず、アクセサリー、バッグなども目を瞠るものがあり、ファッションに疎い私でも目の保養になります。また、アンディがミランダにシンパシーを抱きつつも、最終的に袂を分かつ話の流れも、幅広い女性層から共感が得られるように思います。一方、ミランダもアンディが去った後に粋な計らいをし、後味良い終わり方をします。5月には20年を経て、主要キャストが同じのまま2作目が公開されるようで、1作目の結末からどのように繋げているのか、興味が湧いてきます。

ウォーフェア 戦地最前線 公式サイト

 

チラシより

2006年、アメリカ軍特殊部隊8名の小隊は、イラクの危険地帯・ラマディで、アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務についていた。ところが、想定よりも早く事態を察知した敵兵が先制攻撃を仕掛け、市街で突如全面衝突が始まる。退路もなく敵兵に完全包囲される中、重傷者が続出。部隊の指揮をとることを諦める者、本部との通信を断つ者、悲鳴を上げる者・・・放心状態の隊員たちに、さらなる銃弾が降り注ぐ。小隊は逃げ場のないウォーフェア(=戦闘)から如何にして脱出するのか---。

 

製作:アメリカ

監督・脚本:アレックス・ガーランド レイ・メンドーサ

撮影:デヴィッド・J・トンプソン

美術:マーク・ディグビー

出演:ディファラオ・ウン=ア=タイ ウィル・ポーター

             コズモ・ジャーヴィス ジョセフ・クイン チャールズ・メルトン

2026年1月16日公開

 

アレックス・ガーランド監督は前作の「シビル・ウオー アメリカ最後の日」でも、映画の登場人物と行動を共にする感覚を味わう“体験型”の作品を撮っていました。加えて、本作では従軍経験のあるレイ・メンドーサも製作に関わっているだけに、よりリアルな描写になっています。その結果、政治的な主張も感傷も排除した上で、過酷な状況に置かれた兵士たちの行動に特化した映画になっています。

 

まず、戦闘が始まる前のアルカイダの動向を注視する導入部において、結構な時間を割いています。監視場所を確保するため、米兵が監視に適した民家に侵入し、そこを拠点にしてアルカイダの動きを見張ります。占拠された家族にとっては青天の霹靂で、お気の毒と言う他ありませんね。

 

映画は8名の小隊が民家を占拠した後も、ひたすら監視と報告を行う様子を映し出すため、観客は単調な兵士たちの行動に些か苦行を強いられます。いざ戦闘が始まると、小隊は不利な状況に陥り、負傷した兵士の搬送と前線からの完全撤退が重要課題となります。

 

この段階にきて映画が漸く動き出した感じにはなるものの、劇的な事が起きる訳ではなく、実戦に即した対応が描かれるため、臨場感は味わえても面白みに欠ける点は否めません。したがって、映画的な興奮や物語の面白さを求める人にはあまり向かない映画です。

 

その代わり下手に訓を垂れていない分、戦闘を再現することに重きを置いたことで、戦場の生々しさが十分伝わってきます。この映画を十分堪能するには小さい画面では不十分であり、やはり映画館に足を運んでスクリーンで鑑賞するのをお薦めします。

 

ジャケットあらすじより

祇園のナオミ、強盗の知子、尻軽の軽子、イモ焼酎のお良、さえずりの悦子ら団員を指揮する、京都パール団の女番長・真紀は、愚連隊の一部と手を組んで、修学旅行売春や枕探しで盛り場を荒らしまわり、その名を京都一帯に轟かせていた。ところが、大阪を根城とするずべ公グループ・黒百合会が、京都に勢力を伸ばしてきたため、両派の激突が相次いで起こり始めた。そして、このずべ公グループの対立に目を付け、牝犬狩りを行い、一大売春組織を企てる暴力団・黒地組が加わったことから三つ巴の抗争が勃発。エロチシズムたっぷりに、凄惨なリンチと死闘が繰り広げられていく。

 

製作:東映

監督:鈴木則文

脚本:皆川隆之 鈴木則文

撮影:古谷伸

美術:吉村晟

音楽:鏑木創

出演:池玲子 宮内洋 風間千代子 小山明子 由利徹 岡八郎 大泉滉 藤木孝

              渡辺やよい 杉本美樹 女屋実和子 小池朝雄 荒木一郎 山城新伍 梅宮辰夫

1972年2月3日公開

 

本作は『女番長ブルース』シリーズの第二作。前作同様、池玲子が女番長として主役を務めています。それにしても、映画公開時まだ18歳だった(高校に通っていれば卒業前の高校3年生ですぜ)池玲子の色気が半端ありません。そんな彼女が裸になるわ、宮内洋と乳繰り合うわ、ボンクラ野郎には堪りませんわ。

 

ただ、東映ピンキー映画で池玲子と並び立つ杉本美樹が、今回は脇に回って専ら甚振られる役回りになっています。彼女への拷問にはコーラを使ったリンチもあり、そんなことに使うんかいと思わず説教したくなります。しかも、リンチするスケ番たちは「スカッと爽やか、コカコーラ」という当時流行ったCMのキャッチフレーズを台詞に入れて来ます。でも、ケースの箱にはペプシコーラと記されているのよね(笑)。

 

このように鈴木則文監督の映画は、敢えて作り手がボケた演出をすることで観る者にツッコミを入れられることを想定した作りになっています。したがって、こちらも監督の意図に添って一緒に楽しむのが一番いいでしょう。そこで実力を発揮するのが、岡八郎、由利徹、山城新伍と言ったコメディーリリーフの脇役陣。

 

池玲子が修学旅行中の女子中学生をスカウトし、荒木一郎を仲介して岡八郎に紹介し、岡が処女という名目に釣られ買春したら、彼女の方が一枚上手だったというオチで、まず笑わせてくれます。また、生臭坊主の由利徹も池玲子の色香に惑わされ、彼女の為にマンションまで購入したのに身ぐるみはがされます。不動産会社社員の山城新伍は、パール団と組んで由利を嵌めたものの、潜水服を着て女風呂に侵入した挙句、パール団の女たちから辱められます。

 

男のスケベ心が仇となり、そのまま自分の身に降りかかってくるのを3人とも嬉々とした芝居で笑わせます。この3人以外にも、白バイ警官の大泉滉が婦人警官に扮したパール団二人組に騙され、黒地組から盗んだ車を先導するのもニヤニヤさせられます。

 

また、梅宮辰夫も『不良番長』シリーズの神坂弘として登場し、僅かな出演時間ながら美味しいところを攫っていきます。特にバイクの後部席に乗ろうとした渡辺やよいに対し、「女は乗せるものじゃなく、乗るもの」と言い放つのは辰ちゃんのキャラクターでなければスベってしまうでしょう。

 

ただ、いくら意図的にユルい作りをしていたとしても、締めるところは締めないとグダグダになりかねません。例えば池玲子と風間千代子がタイマン勝負をする際に、度胸試しのような方法をとるのですが、こちらはチキンレースのようなハラハラ感はあまりなく、尻すぼみに終わりました。小山明子の役柄も大物女優にしてはやや無駄遣いに感じられました。

 

それでも、手下に囲まれた中で、池玲子が回転扉を利用して小池朝雄を仕留める演出はキレがあり、その直後にサッと終わらせるやり方も実にスマート。ロケ撮影が多いため70年代当時の空気を感じられ、お色気、笑い、アクションの三拍子揃った東映らしい娯楽作でした。

YADANG ヤダン 公式サイト

 

チラシより

麻薬犯罪者から情報を引き出し、検察や警察に提供して司法取引を操る、闇のブローカー“ヤダン”。出世のチャンスを狙う検事・グァニに才能を見出され、タッグを組んで次々と検挙を成功させていく---しかし、ある麻薬摘発事件が国家と裏社会を巻き込む巨大な陰謀へと発展し、ヤダンは地獄の底に突き落とされる---。

 

製作:韓国

監督:ファン・ビョングク

脚本:キム・ヒョソク ユン・スンヨン ファン・ビョングク

撮影:イ・モケ

美術:イ・モクウォン

音楽:キム・ホンジプ イ・ジニ

出演:カン・ハヌル ユ・ヘジン パク・ヘジュン

2026年1月9日公開

 

タクシー運転手のイ・ガンスは罠に嵌められ、冤罪のまま刑務所送りとなりました。彼は服役中に野心的な検事のク・グァニから刑期を短縮する代わりに、囚人たちから麻薬組織の情報を引き出すよう取引を持ち掛けられます。ガンスは抜群の記憶力を活かし、次々と有益な情報をク検事にもたらし、その功績が認められ通常より早く娑婆に出られました。

 

出所後もガンスは闇のブローカー“ヤダン”として、麻薬犯罪者と警察を仲介しつつ、ク検事の出世の後押しをします。ところが、ク検事が大統領候補の息子・チョ・フンの不祥事を揉み消す代わりに昇進の取引をしたことから、ガンスは彼に裏切られ麻薬組織の手によってクスリ漬けにされてしまいます。彼は無実の罪をなすりつけられた麻薬捜査官のオ・サンジュ、麻薬捜査に協力しながら容疑者に仕立てられた女優のオム・スジンと共に、復讐を果たそうというのが大まかな筋の流れです。

 

イ・ガンスの行なうヤダンの仕事は、麻薬犯罪者の減刑と引き換えに、捜査当局に麻薬取引の情報を流し、逮捕された容疑者から別の麻薬取引の情報を引き出して、減刑させる手数料として報酬を受け取る仕組みになっています。犯罪者はヤダンに金を払うことで減刑が約束され、捜査当局はヤダンがもたらす情報による司法取引で検挙率が上がり、ヤダンも捜査当局に情報を流すことで報酬が得られるという、三者とも得をする構図になっています。

 

ただし、ガンスはザコの犯罪者の情報は警察に流しますが、大物の場合はク検事に情報を渡して、手柄を立てさせようとするため、警察と検察特捜部の標的がかち合った場合、警察はしばしば煮え湯を飲まされます。ガンスは彼を弟分のように接するク検事に恩義を感じており、友情の証しとして黄金のライターを贈ります。これが終盤になって重要な伏線として効いてきます。

 

二人は二人三脚で実績を上げていきますが、ク検事がより大きな野望を抱いたため、ガンスは捨て駒にされてしまいます。ここから負け犬たちの逆襲が始まる訳ですが、何しろ韓国ノワールは娯楽作の定石を覆すところがあるため、この映画も大団円か、最悪の結末か、途中までどちらに転ぶか分からない作りになっています。それでも、ガンスに協力する麻薬捜査官のオ・サンジュがク検事から手を引く取引を持ち掛けられた時に、彼がある物を手にしていた辺りから結末の趨勢は見えてきます。

 

話自体はおかしな点、疑問に思う箇所がいくつかありながらも、観客に考える暇を与えないまま、一気呵成に突き進んでいく面白さはありました。それにしても、チラシに“ヤダン”は実在すると記されていましたがホンマかいな?

あーあ 自業自得短編集 織守きょうや

 

光文社サイトより

だから言ったのに。もう、手遅れ。背筋氏、絶賛! 他人事ではない戦慄があなたを待ち受ける…… 大学生 YouTuber の「俺」。再生回数を稼ぐため、知り合いの配信者が消息を絶った曰くつきの廃墟に向かい、予想だにしない恐怖に直面する(「廃墟で○○してみた」)。不倫相手から情事をキャンセルされ、やむなく帰宅した男は、何者かに殺された妻の遺体を発見する。現場にいたのは息子だけで......(「目撃者」)。踏み込んだら戻れないホラー&ミステリ6編収録。織守きょうやのダークサイドが渦巻く、禍々しい短編集。

 

副題に「自業自得短編集」とあるように、いずれの短編も災難に遭う人物たちは、身から出た錆が原因で酷い目に遭います。「幽霊刑」は傍観した罪に問われた男が6ヶ月の保護観察中に経験する悪夢を描いた一編。更生プログラムはキューブリックの「時計じかけのオレンジ」を連想させる一面もあります。「夜明けが遠すぎる」は代理殺人の結末が容易に予測できる一方、オチにはニヤリとさせられました。「壁の中」はエドガー・アラン・ポーの「黒猫」を意識させつつ、アイデアを盗用した小説家を訪問した女性の正体や訪問目的、彼女が突然死んだ理由が最後まで明かされず、謎を残したまま終わる余韻が不思議な味わいとなっています。「目撃者」は6編の中では一番ミステリーらしい謎解きの一編。疑われる妻帯者と事件を調べる女性刑事の二つのパートで展開する構成が、サスペンスとして効いています。「廃墟で〇〇してみた」は動画でバズろうとしたために、取り返しのつかない目に遭わされる一編。欲を出した結果酷い仕打ちを受ける点では、6編の中では自業自得に一番相応しかったです。「五人目の呪術師」は日本の商社マンがモザンビークで商談場所に向かう途中、呪術師を車で撥ねたことから呪いをかけられ、その呪いを解くために奔走する一編。オチは容易に予測できますが、最初の判断を見誤ったため、後で取り返しのつかなくなる典型例と言えますね。

 

神の光 北山猛邦

 

東京創元社サイトより

一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。稀代のトリックメーカー・北山猛邦の新たな代表作となる、傑作推理短編集。

 

本書は“消失”をテーマにした短編集です。独軍がレニングラードを攻略しようとする最中、宝飾品が保管された屋敷ごと消える話があるかと思えば、カジノで大金を手に入れた男が目を覚ますと街全体がなくなっていた話も出てきます。また、エドガー・アラン・ポオの未完成且つ未発表の原稿にある山小屋の消失を解こうとする話や、時代も場所も異なる3つの消失エピソードが折り紙によって結びつく話など多肢多彩な物語が展開されます。表題作の「神の光」のような有名な出来事をネタに論理的に伏線を回収していく本格もの、「未完成月光 Unfinished moonshine」のように幽玄でホラー風味の話があるなど、変幻自在な語り口に工夫が感じられます。子供の頃に「怪奇大作戦」を夢中になって見ていた世代ならば、大風呂敷を広げた仕掛けは結構ハマるかもしれません。

 

犯人と二人きり 高野和明

 

文藝春秋BOOKSより

当代随一のストーリーテラーが贈る、最高のスリルとサスペンス!驚愕の展開と見事な謎解き、そしてドンデン返し!ミステリーをベースに、ホラー、サスペンス、SF、ファンタジーなど、エンタテインメント小説のあらゆる要素を盛り込んだ、傑作短編の豪華詰め合わせ!

 

七編ある短編のうち、一番のお気に入りは「ハードボイルドな小学生」。あるクラスメートの悪口が書かれた怪文書が机の中に大量に入れてあったことから、探偵気取りの小学生が調査に乗り出す話。かなり背伸びした探偵活動ながらも、小学生なりに身の丈に合った推理と調査が微笑ましく映ります。怪文書を撒いた犯人も意外性があり、ミステリーとしても十分合格点に達しています。その一方で、探偵役の児童と仲違いしていた友達の家庭の秘密が明らかになるほろ苦さも兼ね備え、それを踏まえた上で、壊れかけた友情が復活したことで、物語を後味良くしている点も好ましかったです。「三人目の男」は既婚の若い女性が奇妙な夢を見たことをきっかけに、29年前に事故死した若い男の生まれ変わりではないかと思うようになる話で、三十路間近の主婦が危険を顧みず、結構向こう見ずな行動を起こすので、読んでいるこちらがハラハラさせられます(笑)。その割には最後に大人の判断を下すのが物語全体に好印象を与えていました。容疑者と警部補の幽霊に纏わる駆け引きが展開される「死人に口あり」もなかなか面白かったですが、最後に皮肉なオチで締めるには、容疑者があくまでシラを切っていたほうが効果的だったかもよ。