出自の違う二人が芸を磨き合った末に・・・「国宝」を観て | パンクフロイドのブログ

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国宝 公式サイト

 

チラシより

後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく・・・。

 

製作:「国宝」製作委員会

監督:李相日

脚本:奥寺佐渡子

原作:吉田修一

撮影:ソフィアン・エル・ファニ

美術:種田陽平

音楽:原摩利彦

出演:吉沢亮 横浜流星 高畑充希 寺島しのぶ 森七菜 三浦貴大 見上愛 黒川想矢

             越山敬達 永瀬正敏 嶋田久作 宮澤エマ 中村鴈治郎 田中泯 渡辺謙

2025年6月6日公開

 

吉田修一原作の映画化作品は、何故か良作になる率が高い気がして、この映画も例外ではありませんでした。歌舞伎に関しては門外漢ながらも、中村鴈治郎の指導があっただけに、誤魔化しの効かぬ舞台において、吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、田中泯が吹替なしで演じる姿は見応えがありました。

 

演目にしても半弥(横浜流星)の足の状態を念頭において、「曽根崎心中」を持ってくる辺りに演出の妙が窺えました。また、半二郎(渡辺謙)が東一郎(吉沢亮)を自身の後継者に指名したことによって、東一郎と半弥の明暗が分かれ、舞台上で輝く東一郎に対し、その舞台を見ていた半弥が客席を離れていく対比が、絶妙な編集によってくっきりと表れていました。

 

名声をありのままにした東一郎も、半二郎の後ろ盾がなくなった途端、彼を支援していた周囲の空気が変わり、一発逆転を目論んだ策も裏目に出て、今度は東一郎と半弥の立場が逆転する辺りも話を面白くしていました。また、東一郎の悪手によって、彼に見捨てられた藤駒(見上愛)とその娘のその後は描かれずに終わるのかと思っていたら、意外な形で娘と再会を果たす点も、なかなか練られていました。

 

俳優陣は主役の二人を始め、いずれも好演。特に渡辺謙、寺島しのぶ、田中泯のベテランが味わい深い芝居をしました。渡辺謙は厳しい稽古を通して昭和を感じさせ、寺島しのぶは自身の家系を活かしながら、それに見合った演技をし、田中泯も女形に相応しい女言葉を操っていました。

 

演出面では、序盤に喜久雄が「積恋雪関扉」を演じる場面が、若輩ながらも不世出の女形の片鱗を感じさせ、廊下を使って横移動する描写にはワクワクさせられました。殴り込みをかけられた権五郎が殺される場面も、敢えて歌舞伎の舞台を意識させる意図が伝わってきました。

 

ただし、本作を秀作と認めながらも、俳優の演技や監督の演出に比べると、ドラマ部分が弱いようにも感じました。総じて物語の展開は性急な感じがして、しばしば端折ったところが見られます。端的に言うと、ダイジェスト版のように見えてしまうのです。

 

昭和から平成に亘る長期の物語のため、悠長に語ることができないのはある程度理解できますし、舞台をじっくり見せたいのも分かるのですが、映画にするには3時間でも尺が足りなく、どちらかと言えば予算を掛けた配信ドラマ向きのように思えました。ただそうなると、大画面での醍醐味が味わえないのがなぁ・・・。

 

とは言え、原作者の吉田修一が中村鴈治郎の計らいで黒衣を作ってもらい、楽屋、稽古場、舞台袖までついていけた甲斐があったことで、映画では細部が念入りに描かれていたように思います。歌舞伎の世界を知らぬ者でも興味を持って観ることができましたし、歌舞伎界の内幕もかなり説得力がありました。

 

溝口健二の「残菊物語」ほどの完成度ではないにせよ、俳優やセットが豪華であり、芸道ものの映画では久々にスケールの大きさを堪能できました。