父親からの圧迫を受けた天才音楽家の半生を描く「シャイン」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:オーストラリア

監督・原案:スコット・ヒックス

脚本:ジャン・サルディ

撮影:ジェフリー・シンプソン

音楽:デヴィッド・ハーシュフェルダー

出演:ジェフリー・ラッシュ ノア・テイラー アーミン・ミューラー=スタール

1997年3月22日公開

 

激しい雨の晩、ワイン・バーで働くシルヴィア(ソニア・トッド)は、びしょ濡れで店のドアを叩いたデヴィッド・ヘルフゴッド(ジェフリー・ラッシュ)を見かね、彼を家まで送ってあげます。

 

デヴィッドは幼少の頃(アレックス・ラファロヴィッツ)から父ピーター(アーミン・ミューラー=スタール)にピアノを仕込まれ、神童として評判になっていました。息子の才能に鼻高々だったピーターも、海外留学の話が出ると、デヴィッドが家族から離れることを拒絶するようになります。

 

青年となったデヴィッド(ノア・テイラー)は、著名な作家のキャサリン・プリチャード(グーギー・ウィザーズ)の励ましで、ついに家を出る決心をします。彼はロンドンにある王立音楽院のセシル・パークス教授(ジョン・ギールグッド)に師事し、教授は厳しくも愛情を持って弟子を鍛えます。

 

その後、彼はコンクールでの演奏曲に、幼年時代から父親に弾きこなすよう言われていたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を選びます。デヴィッドはコンクールでこの難曲を完璧に演奏しましたが、その直後、あまりのストレスに晒されたせいで、統合失調症を発症し昏倒した末に、日常生活に支障をきたしてしまいます。

 

それから長い間精神病院で過ごしたデヴィッドは、かつて自分のファンだったという老婦人に引き取られますが、あまりの奇行ぶりに手を焼き、その後は引取り先を転々とします。そしてある晩、シルヴィアの働くワイン・バーのドアを叩いたのでした。

 

デヴィッドが再び店を訪れ、余興でピアノを弾いたところ、あまりの素晴らしい演奏に拍手が沸き起こり、やがて店の専属ピアニストとして大人気になります。そして、シルヴィアの紹介で星占い師のギリアン(リン・レッドグレイヴ)とも知り合い、二人は親密になっていきます・・・。

 

前半はデヴィッドの父親ピーターが、家族を支配する横暴さにドン引きさせられました。こんな父親が家の中に居たら、息が詰まって遣りきれませんし、その独裁ぶりには嫌悪感まで催します。息子への音楽教育に関しても、子供が音楽を好きになると言うより、難曲を弾きこなすこと、コンクールの優勝に目を向けがちになっていて、デヴィッドは常に父親から圧力をかけられている状態にあります。

 

それでも、彼の才能は委縮せずに、海外留学への道が開けていきます。親としてみれば、子供の才能が認められたら、その才能を伸ばす方向に行きそうなものですが、ピーターはデヴィッドが親元から離れるのを嫌い、子供の将来の芽を摘もうとします。

 

尤も、ピーターはユダヤ系であることから、戦時中に家族を失った体験があるため、家族が一人でも欠けるとバラバラになるという強迫観念を抱いている様子が窺え、彼の事情は分からなくもありません。それでも、彼が子供の頃に父親から楽器を取り上げられた体験があるならば、デヴィッドの気持ちをもう少し理解してあげなよと言いたくもなります。ピーターがデヴィッドにしていることは、正に彼が子供の頃に無理解な父親にされたことと同じ行為をしているのですから。

 

一方、デヴィッドは父親からの呪縛からなかなか逃れられない反面、別の世界を見てみたい欲求も強く持ち合わせています。ただし、父親への反抗に対する罪の意識もあることから、これらの感情が入り交じっていて、既にこの時点で、彼が精神的におかしくなる下地は作られていたようにも思います。

 

デヴィッドは父親の反対を押し切って、英国の王立音楽院に入学し、発表会で難曲中の難曲と言われるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏し、聴衆から拍手喝采を浴びます。ところが、その演奏の反動により精神的におかしくなり、精神病院に収容される羽目になります。その病院ではピアノに触れることを禁じられていましたが、デヴィッドのファンだった老婦人が救いの手を差し伸べます。彼は老婦人の尽力で病院を退院し、再びピアノに触れる機会が与えられます。

 

演奏家はライヴで思うような演奏ができ、聴衆が演奏を楽しみ満足する姿を目にすることによって、喜びを見出します。デヴィッドがシルヴィアの働く店で心地良くピアノを弾く姿を見ると、父親のくびきや演奏のプレッシャーから解き放たれ、漸く音楽家としての幸福を手に入れたように映りました。