松方弘樹が梅宮辰夫の代役を務めた「夜の歌謡シリーズ 長崎ブルース」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

OIZUMI 東映現代劇の潮流 2024 より

 

製作:東映

監督:鷹森立一

脚本:舟橋和郎

撮影:星島一郎

美術:北川弘

音楽:伊部晴美

出演:松方弘樹 宮園純子 大原麗子 梅宮辰夫 谷隼人

        藤村有弘 曽根晴美 若水ヤヱ子 青江三奈

1969年4月19日公開

 

ホストクラブのナンバーワン浜崎史郎(松方弘樹)は、初心な水野清志(谷隼人)をスカウトします。清志はテレビタレントを志望していましたが、史郎の甘言に乗りホストにされたばかりか、クラブの競りにかけられた末に、年増の手ほどきで童貞まで失います。このことをきっかけに、清志はホストとしての腕をあげていきます。

 

清志の姉直美(宮園純子)は地元の長崎でホステスをしていましたが、上京した際に弟が水商売をしていることを知り、長崎へ連れ戻そうとします。しかし、清志は高収入の仕事に魅力を感じ、姉の説得に耳を貸そうとしませんでした。

 

直美は史郎にも弟の説得を頼みますが、史郎は今まで付き合ってきた女と違うものを直美に感じ、衝動のあまり無理矢理彼女を犯してしまいます。彼は後から直美に婚約者が居たことを知らされ、深い後悔を味わいます。史郎は直美が失意を抱いて長崎に帰ると、その後を追うように長崎に向かうのですが・・・。

 

『夜の歌謡シリーズ』はいつも梅宮辰夫が主役だった筈なのに、今回に限っては松方弘樹が主演。疑問に思って事前に少しばかり調べてみると、次のようなことが分かりました。梅宮が当時の妻・大門節子の快気祝いに、真鯛を調理していたところ、出刃包丁で左手首を切る大怪我を負ったため、大映に貸し出していた松方弘樹を急遽呼び寄せた経緯があったようです。

 

辰ちゃんの左手のギプスは役柄上ではなく、本当の怪我だったのね。普通ならば映画製作を延期するか、全く出演させなければいいものを、敢えて出演させる辺りは、ただでは転ばない東映の会社の体質が表れています(笑)。特にスケコマシの役で売ってきた辰ちゃんを、女を寝取られたマヌケな役にしてしまうのが非常にウケましたね。この設定だけで観客からすれば既に元は取ったようなもの。

 

しかも、辰ちゃんの役が堅気の被害者かと言うと、そんなことはありません。香港では裏社会と揉めて、ギプスを嵌めるほどの大怪我を負ったという設定ですし、許婚の宮園純子が松方弘樹に手籠めにされたと知るや、彼女にセカンドレイプのような言葉を投げつけますし、宮園と一緒になろうとする松方に手切れ金を要求するわで、相変わらずのろくでなしぶりに嬉しくなります。

 

一方の松方は、いつもの辰ちゃんの役どころとさして変りはないのに、物腰が柔らかな分、女を喰いものにするあくどさは薄まっています。剛腕な辰ちゃんに慣れている者にとっては、そこが物足りないかもしれませんが、両者のキャラクターの違いは楽しめます。

 

主役が一時交替したことで、どうしても松方と梅宮に目が向きがちになる一方、他にも見どころはあります。ホストクラブにおけるホストの競市は、金額が具体的なだけに生々しく映ります。裕福な女たちが一晩に男を買う値段が、50年以上前の10万円だからかなりお高いと言えます。その対象となる谷隼人が童貞の設定の上に、筆下ろしのお相手が若水ヤエ子なのもツボに嵌ります。

 

また、この映画は宮園純子の受難劇と言ってもよく、彼女が徹底的に甚振られることによって、宮園のエロスも引き出だされています。逆に金持ち令嬢の大原麗子は、金に物を言わせる傲慢な振る舞いが宮園とは対照的。その分、終盤に刑事に連行される大原の姿が物悲しく映り哀れを誘います。青江三奈も歌だけでなく、松方や宮園との芝居の絡みも見せてくれるところが、ちょっと得した気分。

 

主人公の自業自得な行為が苦い結末を迎えるパターンのこのシリーズにしては、本作はややパッピーエンド寄り。これも松方弘樹と梅宮辰夫のキャラクターの違いに因るところが大きいかもしれません。