復員兵が酒の密売に手を染めた結果・・・「彼奴は顔役だ」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

ラオール・ウォルシュ・レトロスペクティブ ウオルシュを観て死ね! より

 

製作年:1939年

製作:アメリカ

監督:ラオール・ウォルシュ

脚本:ジェリー・ウォルド リチャード・マッコレイ ロバート・ロッセン

原作:マーク・ヘリンジャー

撮影:アーネスト・ホーラー

美術:マックス・パーカー

音楽:レオ・F・フォーブステイン

出演:ジェームズ・キャグニー ハンフリー・ボガート プリシラ・レイン ジェフリー・リン

1955年9月16日公開

 

第一次大戦も終局に近いフランス戦線で、3人の米兵が出会います。彼らは帰還後にそれぞれ人生設計がありました。エディ(ジェームズ・キャグニー)は自動車整備工として再就職し、ハリー(ハンフリー・ボガート)は酒場に戻り、ロイド(ジェフリー・リン)は顧問弁護士の道を歩もうとします。中でもエディは、いつも慰問文を送ってくれるジーンという女性に会えるのを楽しみにしていました。

 

しかし、エディは復員後に昔の職場を訪ねると,既に他の男が雇われており、不景気の煽りを食らい再就職もままならぬ状態でした。また、旧友のダニー(フランク・マクヒュー)のタクシーで慰問文の主ジーン(プリシラ・レーン)を訪ねると、彼女はまだ10代の高校生だったために失望します。

 

その後、エディはタクシー運転手の口にありつきますが、事情を知らずにナイトクラブに酒を届けたために逮捕されてしまいます。時代は禁酒法の最中で、保釈金を工面できないエディは刑務所行きになるかと思われましたが、ナイトクラブの経営者パナマ・スミス(グラディス・ジョージ)の力添えで刑務所に入るのは免れます。

 

これを機にエディは、密造酒の製造でたちまち一財産を作り上げ、かつての戦友ロイドを顧問弁護士に迎え、美しく成長したジーンをパナマのナイトクラブへ世話をします。エディはジーンに想いを寄せますが、彼女はロイドと恋仲になります。また、エディは一時ハリーと手を組んだものの、彼と袂を分かつ羽目になります。折しも大恐慌となり、エディは再び無一文になります。

 

それから5年が経ち、再びタクシー運転手になったエディは、偶然ジーンを乗せます。彼女はロイドと結婚し、一児を設けていました。ところが、ロイドがハリーを告発しようとしたことから、彼の家族が脅迫を受けます。ジーンはエディに救いを求めるのですが・・・。

 

※ネタバレを書いていますので、未見の方はご注意ください

 

エディは不運が重なって裏稼業の道に入りはしましたが、元々備えていた善良さを最後まで失いません。彼はジーンとロイドがデキていることを知ったとしても、ロイドを一発殴って終わりにさせています。二人には散々金銭面で面倒を見てきてあげただけに、裏切られて腸が煮えくり返る想いにも関わらず赦しを与えています。

 

エディにはどこか悪党になり切れない純情な面があるのです。尤も、彼も少女の頃のジーンに対して深い関係にならずとも、ある程度ツバをつけておけば良かったものを、慰問文に添えられていた写真と違うことに腹を立てその場を立ち去ったために、逃した魚は大きかったという羽目になります。

 

しかも、その後に落ちぶれ果てたエディがタクシー運転手に舞い戻り、ジーンを乗せる場面があるだけに切なくなります。ジーンを演じていたプリシラ・レインは、「毒薬と老嬢」では然程注目しませんでしたが、この映画の彼女は滅茶苦茶可愛い。エディが彼女の尻を追いかけたくなるのも解りますわ。

 

エディが甘さを見せるのに対し、ハリーはどこまでも冷徹な対応に徹します。大恐慌によってすぐに金を必要とするエディに対し、二束三文で資産を買い叩くような恥辱を与えます。この映画に限らず、ボギーが悪役を演じると場が引き締まる感じがします。ハリーとは逆に、落ちぶれたエディを見捨てず、彼を支えようとするのがパナマ。彼女の献身さが胸に沁みます。

 

最後はエディがジーンとロイドを護るためハリーを始末し、自身もハリーの手下に殺されます。パナマがエディを看取る際、警察官から誰だと尋ねられ、「昔顔役だった男よ」と答えて幕を引く結末も余韻が残ります。原題の「狂騒の20年代」の通り、裏稼業の物語と同時に、第一次世界大戦後から禁酒法を経て、1929年の大恐慌、禁酒法の廃止による影響と言った具合に、時代の変遷も描かれます。その時代の流れの中で、エディの浮き沈みする人生模様が見ものでした。