結婚報告をしに来た甥が叔母たちの犯罪を目の当たりにして・・・「毒薬と老嬢」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

ザッツ・コメディアンズ・ワンス・モア より

 

製作年:1944年

製作:アメリカ

監督:フランク・キャプラ

脚本:ジュリアス・J・エプスタイン フィル・G・エプステイン

原作:ジョセフ・ケッセルリング

撮影:ソル・ポリート

音楽:マックス・スタイナー

出演:ケーリー・グラント プリシラ・レイン ジョセフィン・ハル

         ジーン・アディア ピーター・ローレ

1948年9月28日公開

 

ハロウィン当日。演劇評論家モーティマー・ブルースター(ケーリー・グラント)は、神父の娘エレーン(プリシラ・レイン)と結婚したばかり。二人は新婚旅行でナイアガラに旅立つ前に、ブルックリンにある叔母の家に結婚報告の挨拶に訪れます。そこには叔母のアビー(ジョセフィン・ハル)とマーサ(ジーン・アディア)に加え、自分のことをルーズヴェルト大統領だと信じている兄のテディ(ジョン・アレクザンダー)が住んでいました。

 

ところが、モーティマーが窓際の椅子の下に見知らぬ男の死体を発見したことから、彼はパニックに襲われます。叔母たちを問いただすと、死体は身寄りのない老人で、可哀想に思い毒入りワインで毒殺したのだと言います。しかも、叔母たちが殺したのは彼だけでなく、これまでに部屋を借りに来た老人たちを殺害し、11体を地下室に埋めていました。

 

モーティマーはこれ以上の殺人を止めさせようと、死体の墓掘りに利用されているテディを療養所へ緊急入院させるべく奔走します。そんなところへもう1人の兄で連続殺人鬼のジョナサン(レイモンド・マッセイ)が整形外科医であるアインスタイン博士(ピーター・ローレ)を伴って、ブルースター家に舞い戻ってきます・・・。

 

本作は元々ブロードウェイで上演した舞台劇だったのを、フランク・キャプラが映画化した作品です。冒頭こそ、ブルックリン・ドジャースの試合風景や結婚登記所でのゴタゴタがあるものの、ほとんどブルースター家の広間で話が展開されます。

 

物騒な話の割にのんびりした雰囲気があるのは、サイコパスな老姉妹の善良さが前面に出ていることが大きいでしょう。とにかくチャーミングなおばあちゃんたちなの。その一方で、孤独な老人を死に至らしめているにも関わらず、宗教の信仰に近い使命感を帯びているせいか、殺人に対して良心の呵責が一切ない点も結構恐ろしいです。

 

モーティマーは叔母たちの犯罪を露知らずに、結婚報告に訪れたのですが、死体を発見したために新婚旅行どころではなくなります。モーティマーを演じるケーリー・グラントは、驚きの事実を知るたびにオーバーなリアクションをし、彼の顔芸も見どころのひとつとなっています。

 

彼は叔母たちの犯罪が露見しないよう、兄のテディを療養所に入院させることで事態の収拾を図ろうとしますが、指名手配中の兄のジョナサンが現れたことにより、更に難題が降りかかってきます。モーティマーが如何にしてこの難題を解決に導くかが、映画の焦点になってきます。

 

舞台ではジョナサン役をボリス・カーロフが演じていたらしいですが、本作のレイモンド・マッセイもボリス・カーロフの顔形に似せ、キャプラによる影を使った演出も、フランケンシュタインの怪物を喚起させるような意図を如実に示しています。

 

本作と舞台ではラストが異なっています。モーティマーが“呪われた一族”から解放されるオチも、ハッピーエンドで気持ち良く終われますが、懲りない老姉妹がやらかす黒い笑いで幕を閉じる原作も、皮肉が効いていて捨てがたいです。一貫性がある点では後者に軍配が上がるかも。

 

いずれにせよ、心温まるドラマを撮ってきたフランク・キャプラの作品のイメージを覆す毒のある映画で、非常識極まる作品を楽しめる者にとってはうってつけと言えます。こうした作品をキャプラが撮ったこと自体に意義があるでしょう。