パトロール警官が人妻を誘惑した末に・・・「不審者」を観て | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

赤狩り時代のフィルム・ノワール より

 

製作年:1951年

製作:アメリカ

監督:ジョセフ・ロージー

脚本:ヒューゴ・バトラー ダルトン・トランボ(ノン・クレジット)

撮影:アーサー・C・ミラー

音楽:リン・マレー

出演:イヴリン・キース ヴァン・ヘフリン ジョン・マクスウェル キャサリン・ウォーレン

 

深夜放送のDJの夫がいるスーザン(イヴリン・キース)は、浴室で何者かに覗き見られ警察に通報します。パトロール警官ウェブ(ヴァン・ヘフリン)は同僚のバド(ジョン・マクスウェル)と駆けつけますが、すでに不審者は立ち去っていました。同じ夜、ウェブは再びスーザンの家を訪れ、世間話をします。二人が同郷であることを知ると、スーザンもウェブに打ち解け、結婚生活に行き詰まっていることを語ります。

 

その後、ウェブは私服でスーザンを訪問するようになり、二人の仲は益々親密になります。やがて、ウェブは2週間の休暇を取り、スーザンにラス・ヴェガスに旅行に行くことを持ち掛けますが、彼女は夫に疑われるのを怖れ、約束の場所には向かいませんでした。その事に怒ったウェブは、スーザンから電話が来ても無視し続けます。根負けした彼女は、夫に離婚を切り出しても承知してもらえないことをウェブに打ち明けます。

 

そのことを聞いたウェブは、夫婦の自宅の周りに不審者がいるかのように工作し、ジョンに警察に通報するよう仕向けます。そして、ジョンが銃を構えて外に出てきた頃合いを見計らい、不審者と通報者を間違えたかのような状況を作り出して彼を射殺し、ウェブもジョンの銃で撃たれたように偽装します。

 

後日審問会が開かれ、ウェブの行為に正当性があったか裁かれます。以前にもスーザンから警察へ不審者の通報があったこともあり、ウェブは無罪を勝ち取ります。その後、ウェブは警察を辞めスーザンと結婚します。二人が旅行中にモーテルに泊った際に、ウェブはスーザンから妊娠4ヶ月であることを告げられます。そのことを聞いたウェブは狼狽え、誰にも知られない場所で子供を産もうとするのですが・・・。

 

まあまあ面白く観られた犯罪映画ですが、腑に落ちない点が気になるなど細部の面で不満が残りました。スーザンが通報したその日に、再度ウェブを家の中に入れるのは、彼が警官の制服を身に着けていたこともあって、そこは許容範囲としても、後日私服姿のウェブを真夜中に家に入れるのは、夫が不在で寂しいとは言え、いくら何でも警戒感が無さすぎるのでは?

 

また、スーザンの義兄にあたるウィリアムが、弟を射殺したウェブにやけに好意的なのもしっくり来ません。過失致死とは言え、実の弟を撃った警官にそこまで寛容になれるでしょうか?あまつさえ、その警官が未亡人となった義妹と結婚するのを祝福するに至っては、何か裏があるのではないかと勘繰りたくなります(実は真相を知っていて、後でウェブを強請る魂胆があるとか)。でも、実際にはそんなことはなく、単なるお人好し(笑)。

 

他にも逃亡しようとするウェブを、警官が後ろから撃つのも、武器を持たない彼をあの状況でそこまでする必要がある?など、首を傾げたくなる場面が多々見られます。

 

それでも、この映画をある程度面白く観られるのは、ウェブの薄気味悪いキャラクターの計算高い点に興味をそそられるからです。スーザンに離婚を決意させるまでの手練手管も然ることながら、スーザンの夫を殺そうとする動機が、必ずしもスーザンへの愛だけではなく、夫が死亡した際に受け取る遺産に目が眩んだことも否定できません。

 

元々、ウェブは警官に向いていないことを自覚しており、辞める機会を窺っていました。ある意味、夫殺しは踏ん切りをつけるいい機会だったとも言えます。過失致死のお墨付きをもらった上で、自責の念に駆られて警官を退職する理由ができましたしね。

 

また、結婚後にスーザンから妊娠4ヶ月であることを知らされた際には、いち早くその危険性に気づいて先手を取るのも抜け目のなさを感じさせます。ウェブがジョンを撃った件を調査する審問会が、過失致死の判断を下したのも、警官と人妻が赤の他人であることを前提にしたからで、それ以前に二人が不倫関係にあったとなれば話が違ってきます。警官が罪を犯し、結婚後に妻の妊娠が発覚してからの話の流れが、本作の一番の面白さだと思います。

 

最後にこの映画はロバート・アルドリッチが助監督を務めており、クレジットこそないものの、ダルトン・トランボが脚本に参加していたことを付け加えておきます。