中年の教授が美少年を収集する話かと思っていると・・・湊かなえ「人間標本」を読んで | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
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榊史朗は小学生の頃に画家である父親の榊一朗から受けた影響で、蝶を標本することに異様な情熱を燃やしていました。やがて彼は、蝶の分野において権威と呼ばれるようになり、教授の職も得ます。ところが、史朗は蝶の収集が昂じて、次第に蝶のような美しい少年たちを集めた“人間標本”を作りたいという願望が強くなります。

 

そんな折、一之瀬留美から個展の案内状が送られてきます。留美は史朗が小学生の頃、史朗の父親が彼女の母親の肖像画を描いたことで知り合っていました。留美は画家になっており、史朗は彼女の絵の色使いに魅せられます。それはあたかも蝶の目を通したかのようで、留美だけが感じ得る色彩感覚でした。

 

また、彼女は後進育成のための絵画教室を開いており、史朗の中学生の息子・至にも夏休みに開催される絵画教室の合宿の招待状が届きます。史朗は至と合宿に参加する中学生5人を車で合宿が行われる場所まで連れていきます。そこはかつて史朗が子供の頃に家族と住んでいた屋敷でした。ところが、合宿中に病気を抱えていた留美の容態が悪化したため、彼女は娘の杏奈と病院に行き、史朗は少年たちを車で自宅まで送り届けることになります。

 

彼は少年たちを送り届けた後も、彼らをどの蝶に見立て、どんな形で標本し、どの構図で撮影することをイメージするのに留まらず、標本にするまでの観察日記を記録することまで考えます。そして、史朗は後日少年たちを呼び出し、人間標本の計画を実行しようとするのですが・・・。

 

ここからは感想です

 

イヤミスの女王、湊かなえの久しぶりのミステリーの新刊は、新境地を開いたような問題作でした。それまでも著者は、読者に対してイヤ~な気分にさせられるミステリーを書いてきましたが、この新作は読んでいくうちに視覚に訴えかける不快感を伴ってきます。特に中学生の少年を標本の対象にしていることが、猶更おぞましさを増長します。

 

ただし、中年の大学教授が少年の標本を作製したい衝動に駆られ、それを実行する話かと思って読んでいくと、そんな単純な話ではないことが明らかになってきます。史朗とは別に、彼の息子の至も父親と同じ願望を抱いていることが記されているからです。更に終盤には、留美の娘の杏奈が史朗の面会に来ることで、真相がもうひと捻り加えられています。

 

同じ殺人衝動をテーマにした「殺戮にいたる病」は最後のドンデン返しが見事でしたが、本書も同様に真相の意外性が大きな驚きをもたらします。ボタンの掛け違いから生じた悲劇は、正にイヤミスの女王に相応しい内容でした。