極秘裏に研究された細菌を浴びたテロリストが列車に乗り込んで・・・「カサンドラ・クロス」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:イタリア イギリス

監督:ジョルジ・パン・コスマトス

脚本:ロバート・カッツ トム・マンキーウィッツ ジョルジ・パン・コスマトス

撮影:エンニオ・グァルニエリ

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

出演:バート・ランカスター ソフィア・ローレン リチャード・ハリス マーティン・シーン

         エヴァ・ガードナー イングリッド・チューリン リー・ストラスバーグ

         O・J・シンプソン

1976年12月18日公開

 

ジュネーブにある国際保健機構に、3人のスウェーデンのテロリストが潜入し、米国セクションの爆破を試みます。しかし、ガードマンと銃撃戦になり、その中の一人が極秘裏に研究された病原菌に感染したまま逃亡し、ストックホルム行きの大陸横断列車に乗り込みます。

 

米国陸軍大佐のマッケンジー(バート・ランカスター)は自国のセクションが襲撃されると知るや、国際保健機構の主任医師エレナ(イッブリット・チューリン)と共に事態の収拾を図ります。そして、テロリストの一味が大陸横断列車に潜んでいる情報を得ると、乗客の中から著名な神経外科医のチェンバレン(リチャード・ハリス)を見つけ出し、彼に列車内を捜索させ、感染したテロリストを見つけ出して隔離しようとします。

 

その一方で、マッケンジーは列車をニュルンベルクで停車させ、防護服に身を包んだ米国兵士を乗り込ませた上で列車を密封させ、ポーランドのヤノフにある収容施設へと向かわせます。しかし、その途中には崩落の危険性のあるカサンドラ大鉄橋がありました・・・。

 

かなり昔にテレビ放映された時に一度観たきりで、劇場鑑賞するのは今回が初めて。それでもあらすじを憶えているのは、当時購入していた『ロードショー』を読んでいたおかげかもしれません。その『ロードショー』のジョルジ・パス・コスマトスへのインタビューでは、彼がフランシス・コッポラの信奉者であったと記憶しています。ただし、この映画を観る限りでは、尊敬する巨匠の域にまで全然達していないのは些か残念でもあります。

 

その反面、ソフィア・ローレン、バート・ランカスター、エヴァ・ガードナー、アリダ・ヴァリ等の盛りの過ぎたベテランスターを集めたオールスター映画として観るとなかなか渋い人選で、その中に若いツバメ役のマーティン・シーンや乗客の一員に女性に人気だったレイ・ラブロックが混じっている辺りも個人的にはツボでした。できれば、若手女優の中に名の通った美人がいれば申し分ありませんでした。

 

それはともかく、死に至る細菌に感染したテロリストが、大陸横断列車に乗り込む設定自体、いくらでも面白く転がるにも関わらず、それを活かしきれていないのが勿体ないですね。神父と思われたハリー(O・J・シンプソン)が実は・・・というくだりも、それ必要?と思うし、ナバロ(マーティン・シーン)が登山家という設定は、終盤に多少活かされていたとは言え、彼の正体を知るとその落差が腑に落ちてこないし、最後にあんなにあっさり処理されるのもちょっとねぇ・・・。主人公が列車を切り離そうとするクライマックスも、自力ではなく、結局一人の犠牲によって救われるのも不満が残ります。そもそも国際機関の施設の中で、米国が秘かに細菌を培養していること自体荒唐無稽で笑ってしまいます。

 

こういった具合にサスペンス映画としては、不備の部分が散見される一方で、戦後の欧州が一人勝ち状態の米国に複雑な感情を持っているという視点で見ると、彼の国に対する秘かな反発具合が透けて見えて興味深かったです。細菌に感染した乗客を列車に閉じ込め、ポーランドに送り込んで殺めようとするくだりは、ナチスがユダヤ人を強制収容所に送って亡き者にした過去を連想させます。米国の横暴な遣り口に対してナチスの蛮行を重ねるような印象操作を感じさせ、米国主導のパクス・アメリカーナへの意地悪な見方も垣間見えます。

 

今回再見するまでは、割とハッピーエンド寄りの結末の印象がありましたが、改めて観ると、上層部に命じられ苦渋の決断をしたマッケンジー大佐と、彼を黙認した国際保健機構の主任医師のエレナに、米国がどのような処置をするのかを示唆するラストは、なかなか怖いものがありました。サスペンスとしてはイマイチでも、スリラー要素のある陰謀劇として捉えると、それなりに面白く観ることができました。