不可解な間取りの真相は? 雨穴「変な家」を読んで | パンクフロイドのブログ

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オカルト専門のフリーライターの“私”は、知人の松岡から一軒家を購入する相談を受けます。その家には謎の空間があり、気味が悪いので迷っていると言います。私は大手建築事務所に勤める設計士の栗原に家の間取図を見てもらいます。すると、栗原からは謎の空間の他にも、不可解な設計がされていることを教えられます。

 

二重扉、窓のない子供部屋、二つの浴室等々。そこから栗原は、この家が殺人のために作られた家ではないかと疑問を呈します。更に、以前に住んでいた住人が、子供を使って殺人代行をしている殺し屋夫婦である可能性も・・・。あまりにも突飛な発想に二の句を継げなくなりますが、この家の近くの雑木林で左手首のない男性の遺体が発見されたニュースを耳にすると現実味を帯びてきます。

 

私はこの家のことが忘れられず、栗原の推測を交えた記事にすることによって情報が集まるのを期待します。やがて、宮江柚希と名乗る若い女性が私に連絡をしてきます。彼女の夫の宮江恭一は、3年前の9月に「知り合いの家に行ってくる」と出かけたきり行方不明となっていました。

 

また、数か月前に埼玉県内の山中で遺体が発見され、その遺体に左手がなかったことから、私の記事と結び付け、夫が出かけた家の住人に殺されたかもしれないと思い、連絡をしてきたのでした。柚希は夫が出かけたかもしれない家を捜すため、不動産に売りに出された物件を虱潰しに調べ上げ、有力な物件を見つけ出していました。

 

その家は火事で全焼し、現在は更地になっていましたが、間取図だけは手に入れており、私は再び栗原に検証してもらいます。すると、栗原は三角部屋が何らかの理由で増設されたこと、庭の下には死体を置くための地下室があった可能性があることを指摘します。私は柚希と待ち合わせする合間に件の家を見に行き、隣に住む主婦から片淵という名字の夫婦と子供が住んでいたこと、浩人という幼子の他に夫婦の寝室の窓にもう一人見知らぬ子供が見えた証言を得ます。

 

柚希に会う前に、私は栗原のアパートに行き、彼から二人の子供のうち監禁している子供は夫婦の実の子供ではないこと、夫婦は何者かに殺人を強いられている可能性を示唆されます。更に、栗原は私に地方紙の記事を見せ、被害者の宮江恭一に結婚歴がないことを言います。私は柚希に会って、真意を糺します。すると、彼女は本名が片淵柚希で、あの家の住人の片淵綾乃の妹であることを打ち明けた上で、身の上話を語り出します。

 

姉の綾乃は柚希が10歳の夏に家から突然いなくなり、両親に尋ねても「今日からうちの子じゃなくなった」と要領を得ない返事しか貰えませんでした。その綾乃から突然1通の手紙が、一人暮らしをした柚希の元に届けられます。彼女は既に慶太という男性と結婚しており、片淵姓のままで籍を入れていました。しかし、突然家からいなくなったことについては語ろうとしませんでした。

 

やがて、夫婦に浩人が誕生し、柚希は東京に引っ越した一家の新居に招かれます。ただし、新居であるにも関わらず、二階は修理中で上がれないと言われ、姉夫婦がずっと何かに怯えていることに不安を抱きます。それから2か月後、柚希は綾乃と音信不通になります。電話をかけても繋がらず、LINEも未読のままで、東京の家に行っても、もぬけの殻。絶縁状態の母に会いに行っても何も話してくれず、以前姉が住んでいた埼玉の家は更地になっていて途方に暮れていました。

 

そんな時に私の記事を読んだ柚希が、藁にもすがる想いで私に接触してきたのです。彼女の話を聞いた私は、子供の頃の綾乃の失踪がすべての発端になっていると思い、栗原を交えて、彼女の子供の頃に起きた実家の話を聞くのですが・・・。

 

ここからは感想です。

 

1年以上前に読んでいて、来年の3月に映画が公開されるようなので、記事に取り上げてみました。ミステリーと言うよりはホラーに近い物語です。特に間取図の不可解な個所から、じわじわと不穏な空気を醸し出す演出は鳥肌が立ちますし、間取図を軸にして展開する構成も目の付け所が良いです。更に柚希の子供の頃の話に移ると、横溝正史の小説に見られる田舎の旧家に纏わるおどろおどろしい雰囲気が漂い出す辺りも堪りません。

 

真相はかなり荒唐無稽で、昭和30年代ならばまだしも、今どきの話としては苦しい部分も見受けられます。それでも話の続きを読みたい気にさせるのは、娯楽小説としては美点であり、随所に間取図を挟み込むのも親切設計で読みやすいです。良くも悪くもテレビで話題になって、映画化されるのも腑に落ちる小説でしたね。