誘拐事件を察知した刑事が秘密裡に人質を取り戻そうとする「東海道非常警戒」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

復活!玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:山田達雄

脚本:宮川一郎 藤島次郎

撮影:河崎喜久三

美術:岩武仙史

音楽:橋本力

出演:宇津井健 小畑絹子 伊達正三郎 御木本伸介 中村虎彦 若宮隆二 高宮敬二

1960年12月10日公開

 

刑事の山内一郎(宇津井健)は、記事のネタを探す週刊トップ社の川島京子(小畑絹子)に付きまとわれ、妹の結婚式の帰りの列車でも隣り合わせで座る羽目になりました。その車中で鉄道公安官の高木(伊達正三郎)を交えた雑談中に、東山産業の社長令嬢美智子(中西杏子)が兎唇の男と一緒に横浜駅で下車していく姿を目に留めます。

 

ところが、東京駅まで迎えに行った女中の千代(大原永子)は、一向に美智子が現れないため鉄道公安室に届け出ます。その後、東山社長(中村虎彦)に娘を誘拐した旨の電話がかかってきます。一方、美智子の行方が分らなくなったことから、山内と高木は誘拐の可能性を考え、高木の恋人安子(瀬戸麗子)が、東山家に探りに行きます。

 

安子は高木の連絡先を女中の千代に渡し辞去します。すると、高木に千代から直接会って話がしたいと連絡があり、三人は約束の場所で待機します。ところが、千代はフォードに轢き殺されてしまいます。山内から事情を訊いた上司は、ひき逃げではなく殺人容疑で捜査を開始します。

 

その頃、東山家に誘拐犯から再度電話がかかってきます。東山は秘書の村井(高宮敬二)と相談して、警察には知らせずに身代金の受け渡し場所に出向きます。山内も秘かに東山を尾行し、犯人グループが身代金の受け渡し場所に現れるのを待ちますが、スクープを狙った京子のため犯人に逃げられてしまいます。東山家の動きが犯人に把握されていることから、山内は内部に手引する者があると見て、貸しのある京子にあることを頼むのですが・・・。

 

本作は刑事と鉄道公安官が誘拐事件を察知し、そこにスクープを物にようとする女性記者が絡むサスペンス映画です。東海道新幹線がまだ開通しておらず、神戸-東京間を特急こだまが走っていた時代のせいか、緊迫する場面でもどことなくのどかに感じてしまいます。犯人一味が逆探知を気にせず電話をかける辺りも、黒澤明の「天国と地獄」以前の時代の作品であることを感じさせます。

 

山内と懇意の高木は、当初添え物に過ぎないと思っていましたが、話が進むうちに結構重要な役回りをしていました。高木には恋人がいるのですが、彼女には水商売の仕事に就いているほど生活に余裕がなく、彼自身も現在の仕事は好きなのに薄給のため転職を考えています。高度経済成長期にあるにも関わらず、こうした設定は野村芳太郎監督の「張込み」の影響も多少あるかもしれません。また、恋人同士の背景を活かして、最後にビシッと高木の決意で締める辺りも、映画版の「張込み」を思い浮かべたくなります。

 

ただし、「張込み」ほどの名作にならなかったのは、細部の詰めが甘い点にあります。京子がある人物のメモ帳を入手したにも関わらず、山内がそのメモ帳に書かれていた意味を見抜けなかったのは、別の目的で捜していたため多少同乗の余地があるにせよ、電話番号であることは容易に想像がつく筈。せめて、電話先の住所を調べて確認にいくくらいの配慮は欲しかったです。また、事件の黒幕が人質とその父親に顔を見られたにも関わらず、生かしたまま逃走するのも話の前後を考えると不自然さが目立ちます。

 

その一方で、おやっと興味を抱いたのが、犯人グループの男二人が、自衛隊の制服を着て列車で逃走を図った点。昨今は共〇党辺りが自衛隊のイベントにいちゃもんをつけることが少なからずあり(私の地元でも中止に追い込まれました)、交通機関を利用する際も制服着用を自粛する傾向にあります。この映画が公開された頃は、そんな批判は寄せられなかったのだろうか?とふと思ってしまいました。

 

誘拐犯の黒幕は誰なのか?という点では、終盤まで興味を持たせますが、東山家の内部事情に通じている者が大きく関わっていることを考えれば、自ずと容疑者は絞られていきます。それよりもこの映画では、同じ貧しい境遇にある者の行動によって明暗が分かれる点に、作り手の意図が感じられました。金のために犯罪に走る者もいれば、貧しくとも好きな道で恋人と手を携えて暮らす決意をする者もあり、宇津井健が台詞で説明してしまった点だけが無粋でした。