厚顔無恥な示談屋の父親と気弱な事故係の息子が対照的な「示談屋」を観て | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

飛んだり駆けたり停まったり 人生は乗り物だ! より

 

製作:日活

監督:井田探

脚本・原作:安藤日出男

撮影:萩原泉

美術:柳生一夫

音楽:山本丈晴

出演:川地民夫 杉村春子 小沢栄太郎 藤村有弘 久里千春 小池朝雄

1963年10月30日公開

 

笠原源吉(小沢栄太郎)は交通事故専門の示談屋で、女房のはつ(杉村春子)が悪質な商売をする夫を嫌って逃げ出したため、源吉は息子の茂(川地民夫)と一緒に暮らしています。茂は全日交通の事故対応係で、仕事が自分に不向きなこともあって、憂鬱な毎日を送っていました。

 

そんな折、モデルの住友マリ(松本典子)が全日交通のトラックに撥ねられ、彼女の顔半分には生々しい傷痕が残りました。会社がマリの過失を理由に、示談金を値切ろうとすることに対して、茂は激しい同情と責任を感じていました。そんな事もあって、茂は父親の職業を嫌っていました。しかし、源吉はそんな繊細な息子を気に留めず、事故現場に飛んで行くのでした。

 

一方、源吉の商売敵の宍倉(朝雄)は、トラックとルノーの事故現場に行くと、すぐに加害者のトラック運転手井上(井田武)から委任状を取って、被害者河合(土方弘)の入っている佃病院に向かいます。すると、既に源吉が乗り込んでいて、事務長の大沢(下元勉)を抱きこみ、宍倉を病院から追い返してしまいます。

 

その頃、茂は何度も被害者のマリと会ううちに、彼女を愛するようになります。それを知った源吉は息子の甘さにお灸を据えるためと、病院からの情報を得る目的も重なって、佃病院の事務員の和江(久里千春)が大沢からセクハラを受けていることを利用し、茂の部屋に寝泊りさせるようにします。

 

そんなある日、マリが急死します。頭の骨にヒビが入っていたのを、医師が見過ごしたのが原因でした。茂はマリを失った哀しみのあまり、ついつい和江の誘惑にのってしまいます。しかし、その和江も大沢の世話になって歌手になるのだと言い出し、茂から去ろうとします。そんな茂は彼女を追ったところ・・・。

 

自動車の事故を巡って、小沢栄太郎と小池朝雄が丁々発止と渡り合う喜劇だったら、見応え十分だったと思いますが、映画を観ると社会保障の不備や事故を起こした際の大企業の冷徹な対応ばかりが印象に残りました。とは言え、灰汁の強い役者同士の芝居は、自然と目が惹きつけられます。被害者もしくは事故を起こした加害者の代理人として、示談交渉することで双方の落としどころを探ると言うより、相手からより多くの金をふんだくるか、あるいは相手の要求金額を如何に抑え込むかの攻防は見ものでした。

 

源吉や宍倉の商売は個人や零細企業を対象とした隙間産業であり、大手の保険会社では賄いきれない分、誰かがやらねばならない仕事でもあります。その隙間に食い込むため、源吉も宍倉もエゲつないやり方で飯のタネにします。源吉に限って言えば、病院の事務長を抱き込むことで、事故患者が病院に担ぎ込まれた時点で連絡が入り、すぐに駆けつけて代理人として売り込む態勢を築き上げています。

 

厚かましさが取り柄の源吉にくらべ、息子の茂は気弱な性格をしており、上司の重田(佐野浅夫)から尻を叩かれながら不向きな仕事を続け、神経をすり減らしています。企業利益より被害者に寄り添う茂を演じる川地民夫は、繊細過ぎるキャラクターが東映作品における不良とは違う魅力を引き出しています。歌手志望の病院の事務の女の子から誘惑され、あっさり軍門に下るばかりか、その娘があっさり別れようとするのを追いかけるところなど女馴れしていないことが明白。おまけに、追いかけようとした挙句、思いがけぬ目に遭ってしまうのですから・・・。

 

源吉は息子に起きた事を知らされ茫然自失となります。せめて息子の勤めていた会社に掛け合って、金を引き出そうとしますが、塩対応されます。阿漕な商売をしてきたしっぺ返しのようにも思え、因果応報の演出はなかなか巧みです。

 

それでも、茂に起きた悲劇によって、源吉は図らずも別れた妻と再会を果たします。家を出た彼女をなじる源吉に対し、女房は彼の知らなかった事実を突きつけます。女房役の杉村春子は、終盤にほんの顔見世程度の出演ながら、さすがの存在感を示します。女房の語った事実は、源吉を完全に打ちのめします。それでも間近で事故が起きると、すぐ様現場に向かうラストは、湿っぽく終わらなかったのが良かったです。