今年の5月から6月にかけて角川シネマ有楽町で“ロバート・アルトマン 傑作選”と称して、3作品が公開されました。その時には観に行けなかったのですが、そのうちの2作品が早稲田松竹で二本立てとして特集で組まれたので10月になって足を運びました。シニア料金900円で2本観られるのですから随分とお値打ち感がありましたよ。
高田馬場 早稲田松竹
製作:アメリカ
監督:ロバート・アルトマン
脚本:リー・ブラケット
原作:レイモンド・チャンドラー
撮影:ヴィルモス・ジグモンド
音楽:ジョン・ウィリアムス
出演:エリオット・グールド ニーナ・ヴァン・パラント
スターリング・ヘイドン マーク・ライデル
1974年2月23日公開
私立探偵のフィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)は、友人のテリー・レノックス(ジム・バウトン)の訪問を受け、夫婦喧嘩の末、家を飛び出したテリーをメキシコ国境の町まで車で送っていきます。ところが翌朝自宅に戻ると、警察がやって来て、テリーの妻が殺されたことを告げます。
マーロウはテリーを匿った容疑で拘束されますが、3日後にテリーがメキシコの田舎町で自殺したため釈放されます。翌日、マーロウの元に高名な作家ロジャー・ウェイド(スターリング・ヘイドン)の妻アイリーン(ニーナ・ヴァン・パラント)から、行方不明の夫を捜してほしいと依頼が来ます。
マーロウは、高級住宅地のマリブ・コロニーにあるウェイドの家を訪ね、夫人から一枚のメモを渡されます。そのメモには「助けて下さい。ドクターV」と書かれていました。マーロウはヴァーリンジャー博士(ヘンリー・ギブソン)の病院を訪れ、そこで作品が書けなくなって酒に溺れるウェイドの姿を目にします。
マーロウはウェイドを病院から連れ戻して、一件落着かと思いきや、アパートに戻ると、いきなりマーティ(マーク・ライデル)率いるやくざたちに取り囲まれます。彼らはテリーの持ち逃げした35万ドルの行方を追っていて、マーロウとテリーが共犯であると疑っていました。テリーから何も知らされていなかったマーロウは、身の潔白を証明するために、事件の真相を追う羽目になるのですが・・・。
マーロウの飼っているニャンコが映画の冒頭でいい仕事をします。腹を空かせた飼い猫に起こされたマーロウは、深夜の3時にも関わらず、猫ちゃんのお気に入りのカレー缶を買いに行きます。ところが、カレー缶は既に売り切れていたため、通常の猫缶を買い、空になっているカレー缶に移し替えて食べさせようとします。しかし、味にうるさいニャンコは手をつけようとせず、マーロウは天を仰ぐと言った具合に、のっけからマーロウの人柄に惹かれ、本筋へと移っていきます。
マーロウは猫を飼っているせいか、犬との相性が頗る悪いです。犬が車の前に立ち往生したため暫く発進することができず、依頼人の家に行けばしきりと吠えられ、メキシコの田舎町まで出向くと交尾を見せられると言ったように、ロバート・アルトマンは猫好きのマーロウの性格を活かした演出をしています。
この映画におけるマーロウは、原作のイメージとはだいぶ異なるキャラクターになっています。マーロウのイメージに囚われなければ、生活感を滲ませながらトボけたところのあるエリオット・グールドの探偵役は、味があって結構好みです。物語自体は取立てて言うほどのものはなく、クセの強い人物を登場させながら、真相を探っていく従来のハードボイルドの様式を踏襲しています。
最後にマーロウとアイリーンが並木道ですれ違う場面は、キャロル・リードの「第三の男」のラストシーンを少しばかり思わせもしますが、余韻をあまり感じさせないのがエリオット・グールドらしいとも言えます。フィリップ・マーロウを主人公にしたハードボイルドと言うより、エリオット・グールドの特色を活かした探偵映画として楽しむのがよろしいかと思います。