父親が勾留されている者同士が知り合って・・・「くちづけ」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

大映映画 おしゃれ手帖映画祭 より

 

製作:大映

監督:増村保造

脚本:舟橋和郎

原作:川口松太郎

撮影:小原譲治

美術:下河原友雄

音楽:塚原哲夫

出演:川口浩 野添ひとみ 三益愛子 小沢栄太郎 見明凡太朗 村瀬幸子

1957年7月21日公開

 

宮本欽一(川口浩)は小菅の拘置所で、選挙違反で捕まった父(小沢栄太郎)に面会した際、同じく父親が公金横領で拘束されている父親に面会に来た白川章子(野添ひとみ)と知り合います。その日、欽一は友人に借りたオートバイに章子を乗せ江の島に向かいます。欽一は水着をつけた章子を目にして彼女に魅せられます。

 

二人は海浜で思う存分遊びますが、夕闇が迫る頃、章子の知り合いの大沢(若松健)が彼女にちょっかいをかけてきたことから乱闘となり、店から追い出されてしまいます。二人は別の店に移ったものの、欽一が素直に章子に好意を示さなかったため、喧嘩別れに終わります。

 

その翌朝、章子は母(村瀬幸子)が入院している病院に見舞いに行きますが、滞納している入院費を請求されます。しかも父が拘束されたため、健康保険の適用が受けられなくなり、父の保釈金のこともあり、章子は追いつめられます。彼女は大沢に会うと10万円の借金を申込み、その金と引換えに体を求められます。

 

一方、欽一も父の保釈金を工面するため、別れた母親(三益愛子)の住所を突き止め、金の無心をします。母親は息子が価値のある人間になることを担保にして、10万円の小切手を息子に渡します。欽一は母親に説教されむしゃくしゃし、友人たちに小切手を見せびらかしますが、誰も本物とは信じてくれず、失意の内に帰宅します。

 

帰宅した彼は、お手伝いさんから章子が訪ねてきたことを知ります。そして、彼女の書置きから、母親から渡された10万円の小切手の使い道を悟ります。ところが、欽一は章子から渡された住所を記した紙ナプキンを失くしたことに気づきます。彼はどうにかして、章子の住所を思い出そうとするのですが・・・。

 

本作は増村保造の処女作で、川口浩と野添ひとみによる瑞々しさに満ち溢れた若者像に魅せられました。フランスのヌーヴェルヴァーグ一派が中平康の作品に刺激を受けたように、増村も多少触発されたようにも窺える青春映画でした。

 

また、競輪場、海水浴場、海水浴場に付随するローラースケート場等々、昭和30年代前半の風景は、その頃に生まれていない世代にとっては物珍しく、しばしば目が釘づけにされました。ヘルメットなしでのオートバイの運転はこの時代には当たり前とは言え、後部座席の章子の座り方が危なっかしくハラハラさせられます。他にも、陸運局に連絡して簡単に住所を教えてくれるのは、情報開示に厳しい現在ならば考えられないことで、現在と昔では違うことを改めて思い知らされます。

 

デビュー作とは言え、増村監督の演出の成熟さが感じられます。それは、章子の貞操の危機において、欽一がなかなか助けに来られないサスペンスの展開ひとつとっても表れています。

 

欽一は自宅のアパートの住所を記したナプキンを、章子から渡されたものの、母親の住所を知るために公衆電話から陸運局に電話をかけた際、電話帳にナプキンを挿んだまま置き忘れてしまいます。章子に10万円の小切手を渡したくても彼女の住所は思い出せず、一方、章子は大沢から体の要求を迫られていて、観客は双方の状況を把握しているだけに余計にヤキモキさせられます。

 

ラストは欽一と章子のくちづけで締めても良かったのですが、映画はそこをもうひと捻りしてきます。別居していた欽一の母親が息子に理解を示すまでに至るのは後味が良く、三益愛子と川口浩が実の親子関係であることを思うと、よりハッピーエンドな感じが増していました。