刑事が被疑者に惹かれた末に・・・「別れる決心」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

別れる決心 公式サイト

 

公式サイトより

男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレは捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった・・・・・・。

 

製作:韓国

監督:パク・チャヌク

脚本:チョン・ソギョン パク・チャヌク

撮影:キム・ジヨン

美術:リュ・ソンヒ

音楽:チョ・ウンヨク

出演:タン・ウェイ パク・ヘイル イ・ジョンヒョン コ・ギョンピョ

2023年2月17日公開

 

釜山の警察署に勤めるヘジュンは、男が山頂から転落死した件を担当し、被害者の妻のソレを事情聴取します。ソレは中国人のため韓国語でのコミュニケーションが上手く取れず、時折スマホの翻訳機能を使って意思を伝えようとします。ヘジュンはソレの取り調べの際に彼女が笑ったことに違和感を覚えます。

 

やがて、検死結果から被害者の爪に本人以外のDNAが検出され、ソレのものであることが明らかになります。ただし、彼女には事故当時アリバイが確認されており、彼女の祖父が抗日戦線の功労者であったことから、警察内では事故死の方向に傾いていきます。それでも、ヘジュンはソレの住むマンションの前で張込みをして監視を続けます。

 

しかし、ヘジュンは上司から未解決の事件を捜査するよう急かされたこともあり、彼女の監視を打ち切ります。ヘジュンの部下のスワンは彼の判断に不満で、ソレが中国に帰れない事実を突きつけます。やがて、スワンが酔った勢いでソレの部屋を荒らし、ヘジュンが部下の不始末を処理したことで、ヘジュンとソレは急速に親しくなります。

 

不眠症のヘジュンに、ソレは未解決事件の被害者の悲鳴が聴こえて眠れないのだろうと自分の意見を述べます。ヘジュンはソレの言葉から、未解決事件の容疑者の居場所を推測し、屋根の上に追い詰めるものの、目の前で飛び降りて死んだためショックを受けます。ソレは不眠症のヘジュンを心配し、彼の家を訪ねると、壁に貼ってあった未解決事件の写真を剝がして燃やし、彼を寝かしつけようとします。ただし、ヘジュンはソレの写真だけは残しておきたいと伝え、彼女も彼の望むようにします。

 

そんな折、ソレは介護に行く予定の老婆のところに行けなくなり、ヘジュンが彼女の代わりに面倒を見ることになります。ところが、老婆のふと発した言葉をきっかけに、ソレの事故当日のアリバイが怪しくなり、夫が亡くなった日に彼女も山頂に向かったのではないかと疑い始めます。彼はソレの行動を実際に辿り、自分の捜査が間違っていたことに気づきます。ヘジュンはソレの犯行の証拠を示す携帯をソレに渡した上で、見つからない場所に捨てるよう忠告し、彼女のもとを去ります。

 

その後、ヘジュンは妻の勤務する原子力発電所のあるイポ市に異動します。一方、ソレも再婚し新たな生活を始めていました。しかし、再婚した夫は詐欺を働き、被害者の息子サンチョルから母親が死んだら殺すと脅されています。資金繰りに窮し、借金取りから追われていた彼は、妻のソレを伴いイポ市に移り住みます。そんなある日、ヘジュン夫婦とソレ夫婦が市場でばったり出くわすのです・・・。

 

本作は、転落死した男の妻を調べるうちに、彼女に惹かれ深みに嵌っていく刑事の苦悩が描かれています。容疑者のソレを演じるタン・ウェイは、妻のいる刑事がクラっとなるのも無理はないほど、美形でそこはかとない儚さを身に纏っています。

 

ヘジュンとソレは喫煙者であり、パートナーから煙草を吸うのを嫌がられている共通点があり、健康志向の妻から色々と注文をつけられるヘジュンと、母国に帰れない事情があり、韓国人の夫と暮らさねばならぬソレは、制約を受ける点では籠の中の小鳥状態であり、互いにシンパシーを抱くのは必然とも思えます。

 

ヘジュンは未解決事件の被害者に対して、事件を解決できていないことへの罪の意識に苛まれ、眠ることができず仕事中毒になっています。その一方で、彼はソレがそばにいると感じる時だけ、眠りに就くことができます。彼女の監視中に車の中で寝落ちしたり、警察署に到着した際に警察車両でヘジュンとソレが手錠の繋がっている状態で眠っていたことが判ったりと、妻と居るよりソレを身近に感じている時のほうが安心感を得られることを物語っています。

 

ソレから安心感を得られる一方で、ヘジュンはソレによる夫殺しの疑念も消えません。最初の夫の死のみならず、またしても彼女の周辺で不審死が起きたことによって、更にソレへの疑惑が深まっていきます。様々な疑問を呈しながら、終盤にかけて一気呵成に彼女の真意が明らかになる展開は目が釘付けされます。

 

ほぼ予備知識のないまま鑑賞したせいか、細かい部分で分かりづらいところがありました。例えば、ヘジュンとソレの逢引き場所。未解決事件の写真が壁に貼られていることから、ヘジュンの自宅に間違いはないのですが、そうなると奥さんは・・・と言う考えが浮かび、後に夫婦は別居生活を送っていたのかと漸く腑に落ちると言った具合に。また、ヘジュンとソレが一緒にいる場面が、しばしばヘジュンの想像であることもあり、余計に観ていて疲れを感じてしまいます。

 

本作はジャンルとしてはフィルムノワールの範疇に入るのでしょうが、かなりメロドラマ色が濃いため、ソレの周辺で起きる真相よりも、彼女がヘジュンに抱く想いに興味が湧いてきます。即ち、ヘジュンへの愛は本心からくるものなのか、それとも刑事の立場にある彼を利用しようとしているだけなのか?その答えは、映画を最後まで観てのお楽しみになりますが、刑事と被疑者の関係からくる切なさと共に、異国の地で暮らさねば女の哀しみがひしひしと伝わってきます。

 

二人の濡れ場はなく、接吻すらも控えめで、大人の純愛を貫いた恋愛ものを見ているようでした。それでも、ソレの最後のけじめの取り方だけは、韓国ノワールらしさが表れていました。パク・チャヌクは前作の「お嬢さん」が構成の妙で面白く見せたのに対し、こちらは刑事と被疑者による駆け引きが魅力的でした。