機械文明に毒された社会を風刺する「モダン・タイムス」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

角川シネマ有楽町

没後45周年 フォーエバー・チャップリン より

 

製作:アメリカ

監督・脚本・音楽:チャールズ・チャップリン

撮影:ローランド・トサロー アイラ・モーガン

美術:チャールズ・D・ホール ラッセル・スペンサー

出演:チャールズ・チャップリン ポーレット・ゴダード ヘンリー・バーグマン

         アラン・ガルシア スタンリー・J・サンフォード ハンク・マン

         ルイス・ネイソー エドワード・ル・セイント

1938年2月9日公開

 

巨大な製鉄工場で働くチャップリンは、ベルトコンベアーを流れる部品のナットをスパナで締め続けるという単純作業を繰り返していました。やがて彼は単純作業の連続に耐えられなくなり、精神的におかしくなった末に、トラブルを起こして精神病院に送られてしまいます。

 

ようやく退院したものの、チャップリンはトラックから落ちた赤旗を拾い、運転手に返そうと追いかけていくうちに、いつの間にか労働者のデモ隊の先頭に立ってしまい、そのリーダーと間違われて逮捕されます。

 

刑務所に送られた彼は、食事中に囚人の隠した麻薬を飲み込んでラリってしまいます。ところが、その麻薬の効果のおかげで、脱獄囚を撃退し、その功績が認められて放免された上に、造船所の仕事を紹介されます。しかし、ちょっとした間違いから岸に停めてあった船を海に流してしまい再び職を失います。

 

そんな折、チャップリンはポーレット・ゴダードがパンを盗もうとして警察に逮捕される現場に居合わせます。少女は貧しい父子家庭の長女で、父親が死んだため孤児となり、妹たちが施設に送られてしまい、逃げ出して路上生活をしていたのでした。チャップリンは衣食住が保障されている刑務所が恋しくなり、彼女の窃盗の罪をかぶろうとします。

 

しかし、通りがかりの婦人の証言でポーレットも後から護送車に乗せられます。ところが、その護送車が横転したため、二人は外へ投げ出され、そのまま逃亡します。彼は少女と意気投合し、二人はうち捨てられた郊外のあばら屋で暮らすようになります。チャップリンは生きる目標ができて働き出しますが、勤め始めたばかりの製粉工場はストライキで閉鎖。

 

百貨店の夜警の仕事でも、昔の刑務所仲間と共に泥酔したあげく、売り場で寝込んでしまって解雇されます。その後も、工場の技師の助手の仕事も上手くいきません。その一方で、ポーレットはダンスの才能を見込まれてレストランで働き始めます。彼女の推薦でチャーリーもウェイターの職を得るのですが・・・。

 

序盤の工場における場面から、機械文明に対する痛烈な風刺になっています。オートメーション化されたシステムで、チャップリンがスパナでナットを締める作業を繰り返すうちに、その動作が止まらなくなる描写は、滑稽であると同時に笑いを超えた残酷さがあります。ただし、全てアクションで表現されているため、社会派に付きものの説教臭さがないのが実にいいです。

 

世界恐慌を背景にしていることも、この映画にひと役買っています。米国はニューディール政策に舵を切ったものの、失業者は街に溢れ、労使紛争は絶え間なく行われる情勢。鉄材を運ぶトラックから危険を知らせる赤旗が落ち、チャップリンがその旗を拾い、たまたまデモの先頭に立ったため、デモを先導する共産主義者と間違われて刑務所送りになるくだりは、笑えると同時に思想の自由を奪う怖さもあります。後年、彼が米国政府から共産主義者と見做され、ハリウッドを追われることを思うと、象徴的な演出だったように思います。

 

社会風刺の一方で、チャップリンの個人芸を楽しめる映画でもあります。夜警として雇われたチャップリンが、百貨店閉店後にポーレットを連れ込みつつ、店内をローラースケートで滑る場面も然ることながら、ポーレットの口利きでウェイターとして雇われた際に、目的の客になかなか料理を運ぶことのできない様が絶品。更に、ウェイターとして見切りをつけられ、歌手として登場した際に、歌詞の書かれたカフスが飛び、即興で身振り手振りを交えて「ティティナ」を歌い出す可笑しさは芸人の面目躍如たる場面となっています。

 

また、ダメンズ、懲りないバカという観点からすると、チャップリンは最高の逸材でもあります。とにかく、彼が演じる役は失敗ばかりしている男で、一種の社会の落後者であります。その一方で、時折余所からのとばっちりで割りを食うこともあるから、やらかしをしても憎めない、愛されキャラの役割を果たしています。こうしたことを含めて、チャップリンは我々観客に親近感を抱かせます。

 

とにかく、この映画では次から次へと繰り出されるギャグの応酬に圧倒されます。序盤の工場場面における機械を駆使したアクションは勿論、個人的には停泊中の船の止め板を外したために、船が進水してしまうギャクがお気に入りでした。最後に名曲「スマイル」を流しながら、チャップリンとポーレットが後ろ姿で歩き去るシーンは、正に放浪紳士のイメージ通りの締め方でした。