新宿武蔵野館
製作:フランス
監督:アラン・レネ
脚本:ホルヘ・センプラン
撮影:サッシャ・ヴィエルニー
音楽:ステファン・ソンダイム
出演:ジャン・ポール・ベルモンド シャルル・ボワイエ
フランソワ・ペリエ アニー・デュプレー
1975年5月3日公開
1930年のはじめ、レオン・トロツキーはスターリンとの権力争いに敗れて、安住の地を求めてフランスに亡命してきました。その頃、アレクサンドル・スタビスキー(ジャン・ポール・ベルモンド)は、クラリッジ・ホテルの一室で、友人であり共同経営者でもあるラオール男爵(シャルル・ボワイエ)、弁護士のボレリ(フランソワ・ペリエ)と共にお茶を飲みながら、国際的な実業家として大きく踏み出そうとしていました。また、スタビスキーの妻アルレッテ(アニー・デュプレー)は、贅沢さを自然に身につけ、ゴーシャスなムードを漂わせています。
やがて、スタビスキーの身辺が慌ただしくなります。検察官のボニー(クロード・リシュ)が彼の前歴を調べ廻った末、スタビスキーの発行した公債が偽公債だったことが分かります。更に、息のかかったバイヨンヌ市の市立銀行の行員が逮捕され、偽公債の発行を認めたことから事態が急変します。スタビスキーはボレリからその報告をうけ、ベリクール議員を使って急場を乗り切ろうとします。これに対し、ボレリと男爵は国外への逃亡を勧めます。しかし、ベリクールの裏切りに遭い、捲土重来を期してスイスの山荘に逃れたスタビスキーの元に、警察が忍び寄ってきます。そして・・・。
本編が始まる前に、本作が実話に基づいていることを告げた上で、創作された部分も含まれていると但し書きを入れてあります。この映画のモデルになったスタビスキー事件は、フランスで起きた疑獄事件で、スタビスキーが自身の設立した信用金庫を使って詐欺行為をし、政府の要人が関わっていたことから、右派による左翼政権打倒の口実にされ、フランス政界に混乱を巻き起こしました。ソ連からフランスに亡命したトロツキーをこの映画に登場させたのも、当時のフランスの社会情勢を説明する狙いがあったと思われます。
主人公はあらゆることに金を使い、豪勢な暮らしを享受します。彼の側近はスタビスキーの浪費癖や政界へのばら撒き等を注意し節約するよう諫めますが、スタビスキーの返答が振るっています。「一度でも金をケチれば世間は不審に思うだろう。したがって、財政が苦しくなっても今まで通り使い続けねばならない」という詐欺師に見られる謎理論。高い金利を売り文句にして預金者を増やしても、自転車操業にしかならず、結局は破綻した地方銀行と同じように、スタビスキーも資金繰りが苦しくなって破滅の道を突き進んでいきます。
ただし、警察や検察が彼を検挙すれば、政界のみならず自分たちにも火の粉がかかるため、事は慎重に運ばねばなりません。スタビスキーもその辺の事情が分かっているだけに、この状況を逆手にとって強気の姿勢を崩そうとしません。それでも、結局スタビスキーは死でもって罪を償い、その死の真相も闇に葬られたまま幕引きとなります。個人的には、当時の映画誌「ロードショー」のグラビアで目にしていた長身のアニー・デュプレーが1930年代の衣装を身に纏った姿に惹かれました。