腰が定まらないアントワーヌの恋の行方は?「逃げ去る恋」を観て | パンクフロイドのブログ

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角川シネマ有楽町

生誕90周年上映 フランソワ・トリュフォーの冒険 より

 

製作年:1978年

製作:フランス

監督:フランソワ・トリュフォー

脚本:マリー・フランス・ピジェ ジャン・オーレル

         シュザンヌ・シフマン フランソワ・トリュフォー

撮影:ネストール・アルメンドロス

美術:ジャン・ピエール・コユ・スヴェルコ

音楽:ジョルジュ・ドリュー

出演:ジャン・ピエール・レオ マリー・フランス・ピジェ クロード・ジャド

         ダニ ドロテ ダニエル・メスギッシュ ジュリアン・ベルトー ロージー・ヴァルト

1982年4月10日公開

 

アントワーヌ(ジャン・ピエール・レオ)は印刷工場で働きながら、自分の恋愛体験を小説にまとめ出版していました。彼にはレコード店に勤める恋人のサビーヌ(ドロテ)がいますが、妻子のことが障害となって二人の恋愛に影を落としています。それでも、長らく別居を続けていた妻のクリスティーヌ(クロード・ジャド)と協議離婚の交渉に入り、妻が息子のアルフォンスを引き取り、養育費はアントワーヌが払うことで離婚が成立します。アントワーヌは息子が合宿に行くため、駅まで見送りに来ます。その際に、彼は反対ホームの列車に乗る昔の恋人コレット(マリー・フランス・ピジェ)を見かけ、思わず飛び乗ってしまうのですが・・・。

 

1作目から4作目までの「ドワネルもの」の映像を巧く使い回ししつつ、続編となる話を進行しながら、シリーズの集大成となる構成になっています。4作目の「家庭」で元の鞘に収まったかのように思えたアントワーヌとクリスティーヌの夫婦でしたが、お互い同意の上で離婚して別れる羽目になります。

 

離婚が成立した直後、元カノで現在は判事をしているコレットが、協議離婚第一号のインタビューを受けるアントワーヌを目にします。凡百の監督ならば、すぐに二人を再会させてしまうでしょうが、トリュフォーは観客を焦らすかのように、昔の恋人たちのすれ違いを何度か演出します。アントワーヌと付き合っているサビーヌは、ある人物を介してコレットとも多少関係があるにも関わらず、当初は二人ともそのことを知らず、こうした人間模様の綾が話を面白くしています。

 

息子を見送りに出かけたアントワーヌは、寝台列車に乗るコレットを漸く見かけ、衝動的に列車に飛び乗ります。この辺りも、後先考えずに気の向くままに行動するアントワーヌの性格が表れています。彼は車掌を通してコレットを呼び出すのですが、彼女はてっきり現在付き合っている書店主が自分を追いかけてきたと思い、喜び勇んで食堂車まで行きます。

 

しかし、自分を呼んだのが元カレと分かり当てが外れます。それでも、がっかりした気持ちをおくびにも出さないところが、大人の女性を感じさせ、未だに子供っぽいアントワーヌとは対照的。コレットは積もる話もあり、アントワーヌを自分の寝台室に誘います。ところが、アントワーヌを寝台室に引き入れる際に、見知らぬ男から娼婦と間違われたことから、段々雲行きが怪しくなります。

 

コレットからすると、アントワーヌが書いた小説の中で自分自身を美化している点も気に入らず、とうとう喧嘩にまで発展します。その際に、コレットがアントワーヌに対して「自分本位」と投げつけた言葉が非常に的を射ていて、彼が女性とトラブルを引き起こす要因を的確に表しています。しかも、2作目の「アントワーヌとコレット」の映像から彼の自己チュウの様子を持ち出してくるので、説得力を持ちます。アントワーヌはコレットと諍いをした際に大切な写真を落すのですが、この写真が終盤に向けての伏線となります。

 

結局、彼は列車を無理矢理止めて降りてしまいます。そんなアントワーヌは息子を見送る前にも、サビーヌとちょっとしたいざこざがあり、失くした写真の件もあって修復を図ろうとしますが、彼女は息子を会わせようとしない彼の煮え切らない態度に愛想を尽かします。

 

相変わらず女性とのトラブルの絶えないアントワーヌですが、その間にも母親の浮気相手だった男に連れられ、母親の墓参りをします。この男は1作目の「大人は判ってくれない」でアントワーヌの母と路チュウした相手。母親はその男だけでなく、何人も愛人が居たようで、アントワーヌの女にだらしない点は母親の血を引いているのかもしれません。母親の浮気相手だった男と良好な関係を保つのも然ることながら、自分の母親の墓の場所を知らなかった点にも、アントワーヌのポンコツ具合が窺えます。

 

コレットの手元にある写真が、果たしてアントワーヌに届くのかが終盤の興味の焦点となり、サビーヌとの恋の行方と絡まり、洒落た解決の仕方をしています。女からすればクラッとなる演出の仕方で、女たらしのアントワーヌの面目躍如と言えます。ただし、懲りないバカの彼のことですから、果たしてハッピーエンドかどうかは観る人次第。4作目の「家庭」の終わり方や、映画のタイトルと最後に流れる歌が「逃げ去る恋」なのを鑑みると、どうしても皮肉な物の見方をしてしまいますね(笑)。