いい加減な性格の若者がかつて関係のあった人妻と再会したばかりに・・・「四畳半青春硝子張り」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

Age Of Go!Eiji!! 郷鍈治の祭り より

 

製作:日活

監督:加藤彰

脚本:井戸昌雄

撮影:安藤庄平

美術:川船夏夫

音楽:樋口康雄

出演:原真也 永島暎子 郷鍈治 久米明 河原崎長一郎

         真木洋子 東てる美 岡本麗 秋津令子

1976年8月21日公開

 

陸送の仕事をしている深志(原真也)はスーパーの店員文江(永島暎子)と半同棲の生活を送っていました。ある日、深志の職場に英子(真木洋子)という女性から電話がかかります。深志は郷里の盛岡で、かつて人妻の英子と肉体関係を持った過去がありました。友人の結婚式の参列に上京した英子は、深志の様子を知りたくなり、電話をかけてきたのでした。

 

深志は英子の真意が判らず、酔っ払ったまま電話をかけ、彼女に不快な思いをさせます。英子は深志に会わずに、盛岡に帰ろうとします。一方、深志は浜松に車を届けることを命じられますが、気が変わり上野駅に向かいます。深志は英子と再会し、二人はそのままホテルに行き、肌を重ねます。

 

深志は英子と一緒に車を浜松まで送り届けようとしますが、一旦立ち寄った自宅のアパートで、文江に英子との仲を気づかれてしまいます。そのことによって、英子は罪悪感が芽生え、浜松に行くのに難色を示します。深志はそんな彼女に腹を立て、ラブホテルに英子を残し、浜松に向かおうとします。しかし、ガソリンスタンドに立ち寄ったことで気持ちが落ち着き、ラブホテルに引き返し陸送の仕事をあきらめます。

 

馘が決定的な彼は同僚の佐伯(河原崎長一郎)に仕事を引き継ぎ、引き継いだ場所のレストランの外で、知り合いの杉森(郷鍈治)と些細なことから喧嘩を始めます。見物人の通報により、深志、英子、杉森の三人は警察で調書を取られます。刑事から深志との情事まで探られるのは、英子にとって耐えがたい屈辱でした。やがて、事情聴取を終えて警察から出てきた二人の前に、文江が現れます・・・。

 

映画全体に70年代特有のユルい空気感が漂います。結構なやらかしをしても、周囲がきちんと受け止め、ある程度それを許してくれる寛容さがあり、十代にこの時代を過ごした者にとっては、懐かしさと共にある種の心地良さが感じられました。

 

主人公の深志はかなりいい加減な性格をしているのですが、職場の先輩の佐伯は寛容な態度で接し、恋人の文江も欠点を受け入れてくれます。彼にとっては居心地の良い環境にあり、そのことが深志の“甘え”を増長させているとも思えます。そこにかつて関係を持った人妻の英子から深志に電話がかかってきます。友人の結婚式に上京してきたことを知らされ、深志の心は俄かに騒めきます。

 

二人がどのような経緯で関係を持つようになったのかは、劇中でははっきりと説明されていません。しかし、人妻を演じる真木洋子がえらく艶っぽく、彼女の色香に迷って、深志が無謀な行動をしてしまうのは頷けます。英子にしても盛岡での田舎暮らしは、様々なしがらみに縛られているようで、自由奔放な深志に惹かれるのもある意味納得できます。

 

深志が転々と職場を変えたことと、英子が浮気相手の現在の職場の電話番号を把握していたことを重ね合わせると、彼女が深志の職場に電話をかけてきたのは、単なる気まぐれとは思えず、彼への執着ぶりが窺えます。結婚式に参列した後、そのまま盛岡に帰れば、何事もなく普段の生活に戻れたのに、自ら機会を潰しているようにも見えます。深志が上野駅まで彼女を追いかけていき、一度はすれ違いになりかけます。

 

しかし、英子は深志の姿を目に留め、彼女の方から近づいていきます。二人が連れ込み宿で一戦を交えた後でも、英子はまだ後戻りできる可能性は残されていました。それでも、彼女は決断せぬままズルズルと彼と行動を共にし、やがて文江の取った行動によって破局を迎えます。映画は深志と英子のメロドラマを軸に進められ、次第に文江との三角関係が露わになり、三人が共に傷つく形で終わります。

 

本作は勿論三人の恋愛模様がメインですが、枝葉の部分にあたる杉森とてる代の関係もスパイスの役割を果たして、滋味のある物語になっています。やくざ者の杉森は深志以上のロクデナシで、子持ちで中華料理屋を営んでいるてる代に金をせびりに来ます。そのくせ、やくざ者でありながらどこか人の好さも感じさせ、憎めないところがあります。

 

終盤には深志の色恋にヤキモキする文江のために、ひと肌脱ぐ男気も見せます。杉森がてる代の正式な亭主か、内縁関係にあるのか、別れた旦那かは定かでありませんが、てる代が愛想を尽かしていることだけは判ります。杉森が店に来るたび、彼女がその都度店の電気を消していき、お前なんかに用はないとばかりに追い出そうとするのが笑えます。

 

てる代を演じた東てる美は赤子を背負いながら調理する姿が様になっていて、えらく生活感が滲み出ていました。他にも深志がガス欠となって深夜のガソリンスタンドに立ち寄り、同い年くらいの若者と何気ない遣り取りをする場面も味わい深いものがありました。本作がメロドラマのみならず、青春映画の側面を持つことを改めて感じさせもしました。

 

日活ロマンポルノの範疇には入りませんが、70年代の映画らしく出し惜しみすることなく、女優の裸を存分に味わえます。真木洋子はビーチクを晒しながら濡れ場を演じ、永島暎子も微乳を奥床しく見せます。「女教師」以前の永島を見るのは初めてで、キャピキャピした可愛らしさは新鮮でした。東てる美は生活感のある女に徹したためか、今回裸はなし。

 

英子が全てを清算し、深志と文江が雨降って地固まるような関係を築けたのに、結末は観客を置き去りにするかのように、唐突な感じで幕を閉じます。ただ、その後に切り替わる場面では、何故か「竜二」における夫を見送る永島暎子の姿と重なり合い、物悲しさが漂いました。