政権内部の軋轢の裏にあるものは・・・「KCIA 南山の部長たち」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

KICA 南山の部長たち 公式サイト

 

チラシより

1979年10月26日、大韓民国大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称:KCIA)部長キム・ギュピョンが大統領を射殺した。大統領に次ぐ強大な権力と情報を握っていたとも言われるKCIAのトップがなぜ?さかのぼること40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクが亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発する証言を行った。更には回顧録を執筆中だともいう。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長は、アメリカに渡り、かつての友人でもある裏切り者ヨンガクに接触する。それが、やがて自らの運命をも狂わせる哀しき暗闘の幕開けとも知らず・・・。

 

製作:韓国

監督:ウ・ミンホ

脚本:イ・ジミン ウ・ミンホ

原作:キム・チュンシク

撮影:コ・ラクソン

美術:チョ・ファソン

音楽:チョ・ヨンウク

出演:イ・ビョンホン イ・ソンミン クァク・ドウォン イ・ヒジュン キム・ソジン

2021年1月22日公開

 

主人公のキム情報部長(イ・ビョンホン)はパク大統領(イ・ソンミン)の命令に忠実に従いながらも、誤った政道を糺そうとします。彼は友人であり元情報部長のパク(クァク・ドウォン)を殺すという汚れ仕事も辞さなかったのに、大統領が暗に指示した暗殺が国家のためでも怨恨でもなく、別の目的にあったことが判明すると、キムが大統領に見切りをつけたことも頷けます。

 

大統領は老獪な政治家であり、重要な局面を迎えると、キムのみならず、キムと対立するクァク・サンチョン警護室長(イ・ヒジュン)やかつてのパクにも、お前に任せるという狡い指示を出しています。一見信頼しているように思わせるのですが、裏を返せばケツ持ちはしないからと言うメッセージの意味にも取れ、失敗すれば詰め腹を切らせる気満々。

 

こうした状況下で、側近のキムが大統領暗殺に踏み切るまでを、丹念な描写で話を進めていきます。キム部長とクァク室長との確執から、同じ政権中枢にいながら、相手の足を引っ張り跪かせようとするなど、裏で暗闘する箇所に見応えがあり、常にマウントを取ろうとする姿勢に、権力者のイヤらしさも垣間見えます。

 

本作は大統領暗殺、暴動、米国からの圧力等、諸々の事件や事象は事実に基づいて描かれる一方で、政権内部で起きたことはあくまでフィクションの体が為されています。ただし、ラストの本人写真やニュース映像を目にすると、フィクションの部分も妙に生々しく感じられます。

 

理想に燃えて軍事クーデターを起こして政権を握ったにも関わらず、ひとたび権力の座に就くと腐敗塗れになる構図は、ジョージ・オーウェルの「動物農場」を始めとする様々な物語でよく見られます。韓国の抱える問題のひとつには大統領に権力が集中し過ぎる傾向があり、最近でも国と国で決めた条約を、最高裁が大統領に忖度して覆す判決を出しています。

 

その弊害は結局自分に撥ね返り、彼の国の大統領の末路は暗殺、自死、牢獄行きの3パターンで、まともな余生が送れていません。北朝鮮に擦り寄る文在寅政権時に、赤化を食い止める一方で民主化を弾圧した朴正煕を批判する映画が製作されたのも、色々と裏読みしたくなります。製作陣が現政権に阿ったのでないことを切に願います。