劣等感の塊の妾腹の子が世継ぎになったために・・・「伊達騒動 風雲六十二万石」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

東映ビッグスタア大行進 痛快!時代劇まつり より

 

製作:東映

監督:佐伯清

脚本:棚田吾郎 佐伯清

原作:沙羅双樹

撮影:三木滋人

美術:桂長四郎

音楽:清瀬保二

出演:大友柳太朗 木村功 河内桃子 雪代敬子 波島進 織田政雄 山形勲 薄田研二 大河内傳次郎

1959年6月23日公開

 

伊達政宗の死後、綱宗(木村功)が藩主を継ぎますが、妾腹の子ゆえに長い間嫡男として認められなかったために、酒色に憂さを晴らしていました。また、吉原の花魁高尾太夫(雪代敬子)に執心しており、彼女の情人の島田重三郎(高橋昌也)とも揉め事を起こしていました。江戸詰総奉行・原田甲斐(大友柳太朗)は綱宗に忠義を尽くすものの、国元の伊達藩士の不満は高まるばかりでした。

 

折も折、綱宗放埓の噂に幕閣は千代田城外濠改修工事を仙台藩に申しつけます。甲斐は綱宗の行状に心をいためつつ、一方では改修の難工事に日夜苦労を重ねていました。甲斐は事態を打開するため、高尾太夫を身請けして、綱宗と添い遂げさせようとします。しかし、高尾太夫は屋形船の祝宴の席で、綱宗の要求を撥ねつけたために、綱宗は彼女を殺してしまいます。

 

このことを知った甲斐は、綱宗の隠居を決断し、幼君・亀千代に後を継がせるよう取り計らいます。綱宗は甲斐が裏切ったと思い込み、様子を窺いに来た重臣の白河主殿(沢村宗之助)を刃にかけます。甲斐は綱宗の不忠者の罵言に耐えつつ若君を縛ります。外濠工事は、藩祖公の遺した多大な軍備金を費い果して完成しましたが、窮迫した藩財政建直しのため藩士の俸給を一割削減することになり、非難の声は甲斐に集ります。

 

また、国家老・伊達安芸(薄田研二)は、亀千代の後見役・本家直系の伊達兵部(大河内傳次郎)と甲斐が結託して、仙台藩を取り仕切ることを懸念し、藩の動揺を押え、伊達家中の内紛を鎮めるため、甲斐を犠牲にしようと決意し、公儀に悪心二十七カ条の訴状を差出します。甲斐は二十七カ条のことごとく身に覚えはありませんでしたが、藩を救い、藩士とその家族を守るため、老中筆頭・酒井雅楽頭(山形勲)の屋敷に赴きます。

 

分不相応な者が主君になったばかりに、家臣に次々に悲劇が降りかかる様を、佐伯清監督はじっくり腰を据えて重厚な時代劇に仕上げています。綱宗は先代の政宗公が名君であった上に、妾腹の子である劣等感に苛まれ、そのことが短気と僻みっぽさに繋がっています。江戸屋敷にいる原田甲斐と伊佐半左衛門(織田政雄)は、数少ない綱宗の理解者で綱宗に何とか立派な主君になってもらいたいと願っています。

 

ところが、綱宗は花魁の高尾太夫にご執心で金遣いも荒くなっています。おまけに高尾太夫を巡って旗本の島田といざこざを起こし、幕府から目をつけられてしまいます。伊佐は綱宗の行状を諌めようと意見するものの、綱宗の手討ちに遭い、益々家臣たちから不満の声が上がります。更に批判の矛先は甲斐に向かいます。

 

それに対し、国家老の伊達安芸は冷静に物事を判断し家臣に自重を求めます。ただしその安芸でさえも、綱宗の叔父にあたる伊達兵部が綱宗のご乱交にかこつけて藩政を仕切るのではないかと邪推しています。甲斐ほど兵部を信頼している訳ではなく、むしろ反発に近い感情があります。

 

綱宗の吉原通いが目に余るようになると、板倉内膳正(加藤嘉)は、財政に負担のかかる外濠改修工事を仙台藩に担当させるよう、酒井雅楽頭に働きかけます。吉原通いに使う金があるくらいだから、財政は潤っており、金のかかる工事をさせても構わないだろうという理屈です。

 

ただし、それは表向きの理由で、外様大名の仙台藩を弱らせると同時に、酒井と兵部が昵懇の間柄にあり、藩主の不祥事と多額の工事負担で仙台藩を追いつめ、あわよくば老中筆頭の酒井の失脚を狙おうとする思惑も垣間見えます。綱宗の狼藉によって家臣たちが苦境に曝されるだけでなく、こうしたドロドロした人間関係の醜悪さも本作の見どころとなっています。

 

その意味では、甲斐に対する周辺の者たちの嫉妬も相当なもの。甲斐は江戸詰総奉行になるほど有能で才覚のある人物であり、その分嫉み妬みも受けやすい立場にいます。したがって、若君に関する監督不行き届きで責任を取らせようという動きがあってもおかしくはありません。また、熊田甚吾兵衛(原健策)のように後家の織恵(河内桃子)を巡る色恋沙汰から、甲斐を陥れようとする輩も出てきます。

 

甲斐は事態の打開を図ろうと、綱宗と高尾太夫を添い遂げさせようとしますが、最悪の結果を招いてしまいます。高尾太夫の葬儀の際、不良旗本だった島田が出家して、かつての恋人を供養する姿を目にして、甲斐は自分が誤った判断をしたことを悟ります。甲斐はこれ以上若君を庇いきれず、綱宗を隠居させ、幼い亀千代を跡継ぎにしてお家の存続を図ろうとします。

 

しかし、伊達兵部を後見役にすることに異議を唱える安芸は、甲斐を悪者に仕立て公儀に訴え出ます。このままでは、お家お取り潰しの可能性も出てきたため、甲斐は自ら汚名を着ることによって、お家騒動ではなく安芸との私怨による争いであるかのように見せかけることで、お家の安泰を計ろうとするのです。

 

大友柳太郎は本作では従来の明朗快活なキャラを封印して、深謀遠慮に長けた人物を重厚に演じています。大石内蔵助の役を振られても、いつでも準備できていますよと言うくらい、先を見通して行動する姿が似合っています。今回の特集では悪役の多い山形勲ですが、この映画では善人役に徹して、腹黒そうな加藤嘉といい対比になっていました。