陽光が降り注ぐ中での悪夢 「ミッドサマー」を観て | パンクフロイドのブログ

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ミッドサマー 公式サイト

 

チラシより

家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

 

製作:アメリカ

監督・脚本:アリ・アスター

撮影:パヴェウ・ポコジェルスキ

美術:ヘンリック・スベンソン

音楽:ボビー・クルリック

出演:フローレンス・ピュー ジャック・レイナー ウィル・ポールスター ビョルン・アンドレセン

2020年2月21日公開

 

ダニーが恋人やその友人たちと夏至祭に参加するまでの経緯は、スウェーデン到着後に起きる登場人たちの様々な思惑が絡み合って、巧みな伏線となっています。ダニーは家族を失い、精神的に不安定な状態にあります。恋人のクリスチャンは、家族の件で後遺症の残るダニーを少々疎ましく思いながらも、家族の不幸に遭った彼女を見捨てられず、ズルズル関係が続いていました。

 

ダニーと少し距離を置きたいクリスチャンは、友人たちのスウェーデン旅行に便乗します。ところが、旅行計画がダニーに知られると、彼女も同行することになります。スウェーデンに到着した一行は、目的地まで車で移動するのですが、この移動シーンはカメラを逆さまにして撮っただけなのに、まるで異世界に導かれていくように絶大な効果を上げています。また、劇中にはしばしば空撮や真上からのショットが使われ、神の視点を意識していると思われます。

 

ダニーたちは村の人々の奇妙な行動や風習に戸惑いながらも、徐々に彼らの生活を受け入れていきます。クリスチャンの友人の一人であるペレはこの村の出身で、外部と村の人々の橋渡しの役目を果たします。彼は何かとダニーを気遣い、彼女に気があるのでは?と思わせます。ところが、ペレの最終目的が明らかになると、そう言うことだったのかと腑に落ちてきます。

 

旅行者たちが村に馴染んできた頃、ショッキングな儀式を見せられます。この儀式は到底外部の人間には受け入れがたいものであったにも関わらず、クリスチャンは彼らの慣習を理解しようと努めます。受け入れがたいのは、あくまでアメリカ人の基準であり、村の人々は彼らなりに長い間培ってきた生活があり、その中から生まれた風習を認めてあげてもいいのではないかというロジックなのでしょう。確かに文明の衝突は、しばしば価値観の違いから起きています。そこから、どこまで相手の価値観を許容できるのかという問題にも繋がってきます。

 

村でアメリカ人たちと知り合ったカップルは、この儀式を看過できず、村から出て行こうとします。ところが、女の知らないうちに相手の男がいなくなったことから、次第に不穏な空気が漂い始めます。これをきっかけに、クリスチャンたちのグループも一人また一人と姿を消し、今までボンヤリとした恐怖が、具体的なホラーとなって表れてきます。

 

この映画の肝の部分のひとつには、家族を失ったダニーの喪失感と孤独があります。この二つを埋め合わせるには、クリスチャンのサポートが必要なのですが、生憎と既に彼の心は彼女から離れており、同情のみで付き合っている状態。彼の友人たちも彼女を気の毒に思っても、クリスチャンを差し置いて深入りをしようとはしません。

 

ところが、救い主は意外なところから現れます。村の実態を知ったダニーにとって、関わりを持ちたくないのに、その相手は彼女の感情と“同化”することによって、ダニーは救いを得られるのです。この点はクリスチャンとその友人たちにはできなかったものです。こうした一体化は、クリスチャン絡みでも見られ、正直こちらは笑ってしまいました。

 

前作の「ヘレディタリー 継承」で一躍注目されたアリ・アスター監督は、この最新作でも相変わらず尖がっていて、攻めの姿勢が窺えます。白夜の北欧で、暗闇と相性の良いホラーは成立しづらいと思っていましたが、それを逆手にとって、陽光の下でも怖ろしく見せる点がお見事でした。「ミッドサマー」はディレクターズ・カット版も公開されていますが、こちらだけでお腹いっぱいになりました。