シネマヴェーラ渋谷
蓮實重彦コレクション ハリウッド映画史講義特集 より
製作年:1949年
製作:アメリカ
監督:ダグラス・サーク
脚本:ヘレン・ドィッチュ サミュエル・フラー
撮影:チャールズ・ロートン・Jr
音楽:ジョージ・ダニング
出演:コーネル・ワイルド パトリシア・ナイト ジョン・バラグレイ エスター・ミンチオッティ
殺人罪で5年間服役していたジェニー・マーシュ(パトリシア・ナイト)は、仮釈放で出所します。彼女は身なりを整えてから、保護観察官のグリフ・マラット(コーネル・ワイド)の事務所に行きます。グリフは一目見てジェニーの美しさに心を奪われるものの、彼女の情夫であるハリー・ウェッソン(ジョン・バラグレイ)がつきまといます。ジェニーはハリーのために人殺しをしましたが、5年間彼女を待ってくれた義理もあり、グリフの愛を素直に受け入れることはできませんでした。
ハリーはジェニーをグリフの監視下から逃れさせるために、サンフランシスコに移管させる工作をしようとします。しかし、保護観察中の規則は厳格で、規則を破れば再び刑務所に逆戻りする危険は高いのです。グリフはハリーの誘惑から遠ざけるため、ジェニーを自宅で雇うことにします。グリフの母親や弟と接するうちに、ジェニーは家庭の温かさを知り、グリフの求婚を受け入れます。
しかし、保護観察中の結婚は禁止事項に入っているため、二人の結婚は身内だけの秘密になります。一方、ジェニーの心変わりに気づいたハリーは、彼女をホテルに呼び出し復縁を迫ります。ハリーはグリフに電話をかけ、二人の結婚をばらすと脅している最中、電話を受けたグリフの受話器から銃声が聞こえてきます。
※結末に触れていますのでご注意ください
映画の冒頭、ジェニーがハリウッド通りを闊歩する足の部分だけを見せ、スタイリッシュな演出に物語への期待が膨らみます。彼女は洋装店で着飾ってから、グリフの事務所に行くのですが、グリフは出所したばかりの女が高い洋服を買えるのに不審を抱き、その金がハリーから出ていることに気づくと、腐れ縁が続いていることを苦々しく思います。
それもこれも、グリフがジェニーを一目惚れしたことから来ており、保護観察中の注意事項を説明する際に、彼女への強い態度に表れてしまいます。保護観察官は、公的な仕事でありながら私情の入る余地が多く、本作のグリフは善人だから良いものの、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」のリスベット・サランデルのように、酷い目に遭わされる危険性も孕んでいます。
ジェニーは仮釈放の身でありながら、前科者であったことが災いして、なかなか職にありつけません。グリフは窮余の一策として、彼女を自分の家の家政婦にしてしまいます。人によっては職権乱用の見方もできますが、彼の母親が盲目で人の手を必要としており、悪い虫(ハリー)がつかないように、自分の監視しやすい環境に置けることもあり、一石二鳥の効果と言えます。ところが、ハリーはジェニーを再びモノにしようと、あらゆる手を使って彼女と接触しようと試み、ジェニーの結婚の意志が固いと見るや、卑劣な手を使って二人の仲を裂こうとします。
予定調和の展開ながら、メロドラマの要素を取り入れつつ、グリフとジェニーが窮地に追い込まれていく様子を、ダグラス・サークはキレのある演出で描いていきます。二人がメキシコ国境を越えようと逃亡してからが、やや冗長に感じつつも、いつ二人の存在がバレてもおかしくないように、適度なサスペンスを盛り込んであるので、退屈することはありません。二人がこれ以上隠れて暮らすのは無理と判断したくだりも、実は周囲には彼らの正体が分かっていなく、何の影響もなかったことが明らかにされる箇所などは、皮肉が効いていて面白いです。
ただし、結末は完全に腰砕け。ハリーの証言によって、二人は救われるのですが、散々あくどいことをしておきながら、死の淵を彷徨ったことで改心する話の流れは、いかにもご都合主義。ジェニーの逃亡も、保護観察官が同行していたことで、お咎めなしというオチも何だかなぁ・・・。チラシの解説によれば、ラストはスタジオが勝手に脚本を書き換えて撮ったとの事。見方を変えれば、画竜点睛を欠くという諺が、これほどぴったり嵌る作品もないということでしょうか。