倦怠期の夫婦に訪れる不倫合戦 「別れぬ理由」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

映画を生きた男 追悼・津川雅彦 より

 

 

製作:東映

監督:降旗康男

脚本:那須真知子

原作:渡辺淳一

撮影:木村大作

美術:今保太郎

音楽:羽田健太郎

出演:三田佳子 南條玲子 古尾谷雅人 今陽子 平尾昌晃

      真夏竜吾 伊織祐未 矢生有里 津川雅彦

1987年11月14日公開

 

速水修平(津川雅彦)は大手の病院で外科医長を務め、妻・房子(三田佳子)、高校生の娘・弘美(湊広子)と家庭を築いていました。しかし、房子は雑誌記者をしている関係で夜遅く帰宅することも珍しくなく、弘美も寮生活で週末に帰宅に帰る程度で、互いにすれ違いの生活が続いています。おまけに修平は、月に何度か人妻の岡部葉子(南條玲子)と浮気をしており、一見平穏な家庭生活も危うい土台の上に成り立っていました。

 

そんなある夜、修平が帰宅すると、耳慣れぬ男からの電話があり、にわかに房子への不倫疑惑が高まります。事実、房子は年下のカメラマン・松永(古尾谷雅人)と取材を重ねるうちに、互いに惹かれ合っていました。更に、自宅まで送った松永と房子の親密な現場を目撃もしたため、修平は心穏やかでなくなります。ある晩、修平は妻を試すつもりで彼女をディナーショウに誘った後、ラブホテルに連れ込み愛し合います。彼は激しく乱れる妻の姿に、驚きを禁じ得ませんでした。

 

そんな折、修平は学会の出張にかこつけて、葉子と札幌に不倫旅行に出かけます。一方、房子は長崎に取材に行っており、夫の宿泊予定のホテルに電話をしますが、連絡が取れずにいました。房子は夫の浮気を確信し、取材に同行した松永と一夜を共にしてしまいます。しかし、彼女は自責の念に駆られ、娘と羽田まで夫を出迎えに行きますが、折悪しく修平が葉子と一緒にいる現場を目にします。

 

弘美は寮に戻り、夫婦は帰宅した後、初めてお互いの不満を爆発させます。翌朝、修平は房子と口も聞かずに出かけ、その夜同僚に抱えられ泥酔状態で帰ってきます。羽田の一件以来、修平と葉子の関係は薄れ、房子もまた松永と会うことを避けるようになっていました。ところが、しばらくして葉子から修平へ友人の診察依頼の電話がくると、再び浮気の虫が頭をもたげ始めます。一方、房子は松永に別れ話を切り出そうとするのですが・・・。

 

子供の頃に、津川雅彦が悪辣な手を使って大谷直子をモノにするテレビドラマ(タイトルは憶えていません)を見て以来、ある時期まで津川雅彦=女たらしのイメージがありました。したがって、彼の追悼特集には、子供の頃の記憶と重ねながら観るのが相応しく、私にとっては「別れぬ理由」と「ひとひらの雪」は格好の2本立て上映でした。

 

渡辺淳一の小説の映画化なので、ストーリーより津川雅彦による女たらしの描写と女優の脱ぎに興味を持って観ました。この映画における津川は、脱獄三部作の松方弘樹を彷彿とさせる“懲りないバカ”。隙のないプレイボーイだと鼻につきますが、適度にマヌケな部分があると、モテない野郎どもは感情移入がしやすくなります。修平が女をホテルに連れ込んだ際のはしゃぎっぷりを見ると、女に卑猥な言葉を言わせようとする男の子供っぽさに通じるものがあり、男ってヤツは・・・と苦笑したくなります。

 

ヒロインの三田佳子の濡れ場は、肌をギリギリまで露出はするものの、絶対にビーチクを見せないよう配慮しています。でも、これは想定内。その分、修平の愛人役の南條玲子が裸身を晒しています。南條玲子と言えば、橋本忍の怪作「幻の湖」でトルコ嬢を演じており、彼女の代表作となっています。本作ではそこまでの活躍はしないものの、艶っぽい人妻役が嵌っています。

 

降旗康男監督に官能映画は、あまり相性が良いとは思えず、津川と南條がベッドでじゃれ合うシーンも、エロい気分になるより失笑したくなります。房子と松永の不倫にしても、夫の浮気への腹いせの意味はあるのでしょうが、真剣にのめり込んでいくとなると、とってつけたような違和感があります。いっその事、修平のマヌケな部分を前面に押し出した艶笑劇にすれば、面白くなったかもしれません。

 

でも、渡辺センセイの原作をそこまで改変してしまうと、センセイの本来の味が失われてしまいますしねぇ・・・。終盤に修平と房子が、狸と狐の化かし合いのような、本音と建前を分けた会話が交わされる場面があり、この調子で全編が貫かれていたら、相手の手の内を知りながら結婚生活を続ける仮面夫婦の実態が、より深まったのにと残念に思います。