麻薬Gメンの苦悩とヤク中の女の哀れな末路 「白い粉の恐怖」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

一役入魂 映画俳優 三國連太郎 より

 

 

製作:東映

監督:村山新治

脚本:舟橋和郎

原作:栗山信也

撮影:星島一郎

美術:中村修一郎

音楽:林光

出演:三國連太郎 中原ひとみ 今井俊二(今井健二) 大村文武

        曽根晴美 岩崎加根子 春丘典子 山茶花究 河野秋武 永田靖

1960年9月4日公開

 

川井組の麻薬密売人の井本(曽根晴美)と宮川(潮健児)を押さえるために、厚生省麻薬取締官たちが一台のトラックに待機していました。取締官の須川(三國連太郎)は、情報提供者の朝鮮人の金山(山茶花究)を囮に使い、密売現場に踏み込みます。宮川と麻薬中毒の売春婦ユリ子(中原ひとみ)を捕らえたものの、主犯の井本は姿を消していました。ユリ子は妊娠を理由に釈放を求め、須川はユリ子に捜査への協力に含みを持たせて釈放します。

 

翌日、井本は麻薬取締官が現場を踏み込んだことを怪しみ、金山を暴力で締めあげます。新宿にいられなくなった金山は、須川に大阪へ行くことを伝え、最後の情報として、つるやという飲み屋に売人の出入があることを告げます。須川はユリ子の客を装い、つるやに行くものの、井本は須川の正体を怪しみ、取引現場を押さえることができませんでした。そのため、ユリ子までも井本に怪しまれるようになります。

 

須川は彼女を千葉にある麻薬の更生病院に入れ、麻薬から足を洗わせようとします。その甲斐もあり、ユリ子の禁断症状は癒えました。ユリ子は須川を慕うようになり、彼のために再び囮の仕事を始めます。彼女はパチンコ店の店主の田口(大村文武)が、大口の密売をしているのを知り、田口の周辺を探るものの、次第に孤独感に襲われ、再び麻薬の誘惑に負けてしまいます。

 

一方須川は、田口と太陽商事の社長佐伯(永田靖)とのつながりを突きとめ、部下の桜井(今井俊二)と共に大和製薬会社の社員に偽装し、ユリ子の手引きによって田口と麻薬取引の交渉にこぎつけ、さらに田口から佐伯へとわたりをつけます。用心深い佐伯の目を潜りながら、取締官たちはようやく料亭で麻薬の取引が行われるまで準備を進めます。その間須川は、ユリ子が再び薬を打っているのに気づきます。須川は彼女の身を案じ、組織を一斉検挙するまで、彼女を自分の家に保護しようとします。

 

やがて料亭で取引が行われ、須川は佐伯に手錠をかけます。更に佐伯邸では、内部が麻薬密造工場になっていて、意外なことに大阪に飛んだはずの金山までもいました。囮として協力したことのある金山ですが、現行犯として逮捕せざるを得ません。しかし、田口だけが逮捕を免れ、行方知れずになっていました。その頃、ユリ子は須川の妻滋子(岩崎加根子)と折り合いが悪くなっていて、須川の家をとび出していました。須川はユリ子を探すため、奔走するのですが・・・。

 

本作は現行犯でしか逮捕できない麻薬取締官の苦悩と、彼らの捜査に協力した挙句にボロボロになる女性の哀しみが描かれています。原作者の栗山信也は厚生省の麻薬取締官の捜査主任の上、脚本の舟橋和郎は麻薬取締官に同行し捜査に立ち会った経験もあります。また、監督の村山新治は「警視庁物語」シリーズを手掛けているため、刑事と麻薬取締官の違いはあれど、捜査過程の描写は手慣れたもの。したがって、麻薬の取引現場における臨場感もビンビンに伝わってきます。

 

麻薬取締官に協力するヤク中の売春婦を中原ひとみが演じており、清純派の彼女にしては蓮っ葉な役柄は珍しいです。ユリ子は須川に好意を抱いているものの、彼は妻子持ちであるため、残念ながら男女の関係には成り得ません。須川ができるだけ彼女に対して世話や保護をしようと思っても、限界があるのは否めません。その寂しさゆえに、ユリ子は再び麻薬に手を出すきっかけに・・・。

 

大きな取引を控え、須川は安全のために、ユリ子を自宅に匿おうとしても、奥さんからしてみれば、突然赤の他人を連れて来られても困ろうというもの。しかも、ヤク中の売春婦と聞いては、猶更子供の教育上にもよろしくなく、互いにギクシャクした関係になるのは必然と言えます。後にユリ子が隠し持っていた麻薬を、須川の自宅で打っていたことが判明するのですが、好きな男の家に閉じ込められ、妻と向き合って生活しなければならないとなれば、気まずい雰囲気の中で次第にストレスが溜まるのも無理からぬこと。麻薬に溺れ家を飛び出すのも自然な流れでしょう。

 

麻薬取締官の中には三國連太郎の他に、今井俊二、中村是好、須藤健、河野秋武、浜田寅彦など、なかなか渋いメンツを揃えています。須川は囮捜査による一斉検挙を目論んでおり、その準備段階になかなか見応えがあります。敵も用心深く、取引前に相手のことを調べ上げようとしており、そのことを踏まえながら、麻薬Gメンも民間の製薬会社に協力してもらい、身許がバレないように工作します。謂わば狐と狸の化かし合いの様相を呈しており、こうした細部に気を配ると、俄然話にもリアリティが増してきます。こうした下準備をしたおかげで、三か所で一気に同時検挙する場面に迫力が増します。しかし、一味の一人を取り逃がしたことが、後々須川に悔恨をもたらすことに・・・。

 

本作は麻薬の怖ろしさを知らしめるには格好のテキストとなっていて、禁断症状の中原ひとみや、スパイ役の山茶花究の描写は勿論、三國と岩崎加根子が箸で被害者の骨を拾おうとしても、ボロボロに崩れてしまう描写に、目に見えぬ麻薬の恐怖を潜ませています。余談になりますが、劇中ユリ子が須川のことをスーさんと呼んでいるのに、思わずニヤリとしてしまいました。言うまでもなく、約30年後に「釣りバカ日誌」でスーさんこと鈴木一之助を演じていたのが、他ならぬ三國連太郎でしたから。