刑事たちの地道な捜査が見どころ 「警視庁物語 顔のない女」を観て | パンクフロイドのブログ

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東京国立近代美術館フィルムセンター

逝ける映画人を偲んで 2015-2016 より

 

 

製作:東映

監督:村山新治

脚本:長谷川公之

撮影:高梨昇

美術:北川弘

音楽:富田勲

出演:堀雄二 佐久間良子 今井俊二(今井健二) 南廣 花沢徳衛 加藤嘉

        松本克平 星美智子 小宮光江 高橋とよ 浦里はるみ 沢村貞子

1959年2月18日公開

※赤字が2015-2016に亡くなられた故人です

 

土曜日の午後、荒川土手で女のバラバラ死体が発見されます。死体は胴の部分だけで、後に対岸で両足も見つかります。解剖の結果、被害者は30歳前後の女、死亡推定日は三日前、死体は絞殺後切断されたこと、足の長さから身長は1メートル55センチ、卵巣の手術の跡などが判明します。捜査主任(神田隆)の指揮の下、刑事たちは僅かな手がかりをもとに捜査を開始します。

 

やがて、交番の警察官から、犯行推定時刻に新荒川大橋で不審な車を発見し、橋から男が川に何かを投げ込んでいたという目撃情報が報告されます。林刑事(花沢徳衛)は車のナンバーをもとに、しらみつぶしに車の持ち主を当たっていきます。その後、手と首が発見されるも、腐敗がひどくなかなか身許は割れません。

 

死体の顔から出た義歯と隆鼻用の象牙をたよりに刑事達は歯科と整形外科に足を運びます。その苦労が報われ、被害者を診察した歯科医(加藤嘉)により、バラバラ死体の女はキャバレーの女給・小沢初江と判明します。警察は初江と関係のあった成田(今井俊二)を任意で取り調べを行うものの、彼にはアリバイがありました。

 

次に自動車のナンバーから、車の持ち主である吉岡(杉義一)が捜査線上に浮かびます。ところが、吉岡は張込みをしていた刑事に気づき逃走。その逃走中に事故を起こし、そのまま死亡します。後に吉岡が轢き逃げを起こしていたことが分かり、そのために警察から逃げようとした理由も明らかになります。

 

事件は振り出しに戻るものの、吉岡の妻の証言から、事件当夜夫が仙ちゃんと云う男に車を貸したと云う有力な情報を得ます。刑事たちは仙ちゃんこと米倉仙三(潮健児)の愛人であるキミ子(星美智子)をマークし、容疑者を捕えようとしますが・・・。

 

良く言えばフォーマットがきっちり決まっている、悪く言えばワンパターン。それでも、このシリーズがお気に入りなのは、刑事たちが足で聞き込みを続け、たとえ無駄足に終わろうとも、試行錯誤を繰り返しながら、着実に事件の真相に迫っていく過程に醍醐味があるからです。中学生の頃に、社会派推理小説を貪るように読んだ者としては、捜査が空振りに終わる部分を含めて楽しめるのです。

 

神田隆や山本麟一など普段悪役で鳴らしている役者が、刑事役で犯人を逮捕する点も東映の悪役好きには堪らない魅力。佐久間良子と小宮光江は、この作品では小さな扱いでした。佐久間は今井俊二に勝手に恋人と思われている良家のお嬢様。刑事が聞き込みに来ると、今井が恋人であることをあっさり否定します。

 

今井に関しては若干気の毒に思えるものの、彼も殺された女性をセフレ扱いにしていたのだから自業自得でしょう(笑)。小宮は被害者とは友人関係にありますが、舞台演出家に色目を使うストリッパー役で、踊子たちから反感を買っています。他の作品で重要な役を任されている女優でも、このシリーズではチョイ役しか与えられないのが面白いです。

 

映画は刑事たちの公的な活動が主に描かれますが、ふとした瞬間に私生活が垣間見えるのも、本作の美点のひとつ。冒頭、非番の刑事たちの日常が紹介され、休みの日でも定期的に自分の職場に電話をかけて、事件が起きていないか確認するあたりは、細部のこだわりが見えて好ましいです。また、花沢徳衛演じる刑事が、生まれて来た子供の名前に頭を悩ませた末、これだと決めた名前が容疑者と同じ名前に気づき、大いにクサる様子は思わず笑いを誘います。

 

今まで観て来たこのシリーズの作品は、いずれもハズレがなく、この安定感が長期間に亘って製作を続けられた大きな要因でしょう。まだシリーズの4分の1も観ていませんが、こまめに上映をチェックして、いつかは完全制覇してみたいです。