シネマヴェーラ渋谷
抗争と流血 東映実録路線の時代 より
やくざ戦争 日本の首領
製作:東映
監督:中島貞夫
脚本:高田宏冶
原作:飯干晃一
撮影:増田敏雄
美術:井川徳道
音楽:黛敏郎 伊部晴美
出演:鶴田浩二 松方弘樹 成田三樹夫 梅宮辰夫 千葉真一 菅原文太
高橋悦史 地井武男 渡瀬恒彦 成瀬正孝 佐分利信
1977年1月22日公開
新興企業グループの専務・島原(西村晃)は、西日本最大の組織を誇る中島組を訪れ、会長の佐倉(佐分利信)に、社長(高橋昌也)のスキャンダル問題の解決を依頼します。その見返りとして、中島組に対して継続的に献金できる組織の設立を約束します。
佐倉はやくざとして万全な地位を築く一方、家庭では二人の娘のことで頭を悩ましていました。長女の登志子(二宮さよ子)は青年医師・一宮恭夫(高橋悦史)と恋仲でしたが、一宮の両親がやくざの娘である登志子との結婚に難色を示していました。また、次女の真樹子(折原真紀)は奔放な性格で男遊びも激しく、中島組の三下である日暮(尾藤イサオ)ともデキていました。
佐倉は登志子を島原の養女にすることで、一宮との結婚にこぎつけます。結婚式には党人派の小野伴水(神田隆)や右翼の大物の大山規久夫(内田朝雄)も出席し、盛大に宴が開かれました。一方、結婚式の裏側では、中島組の若頭・辰巳(鶴田浩二)が指揮を執り、辰巳の意図を受けた部隊が岐阜の柳ケ瀬を皮切りに、勢力を東へ拡大して行きます。
その頃、大山は佐倉に政治結社結成の協力を要請しますが、やくざであることを自負する佐倉が拒絶したことで暗雲が立ち込めます。折しも石見(菅原文太)の組織が中島組の東京進出を阻もうとしている上に、組織暴力壊滅を目指す警察権力も、中島組に対して厳しい締めつけを行ないます。更に日暮が中島組の幹部・松枝(松方弘樹)に殺されたことで、真樹子が自棄を起こして麻薬トラブルを起こし、メディアも中島に対して一斉に非難の声を上げます。
やがて、中島組幹部・迫田(千葉真一)の石見への殺人未遂に対する逮捕で、中島組傘下の各組は追いつめられ、次々と解散声明を発表します。佐倉の腹心である辰巳も、自身の持病の心臓疾患の悪化と考え合わせ、佐倉を救い得る唯一の道は解散しかないと判断し、解散声明を発表しようとしますが・・・。
「ゴッドファーザー」へのオマージュが所々に散りばめられた、東映オールスターキャストの実録ものです。山口組の田岡組長をモデルにしたとも言われ、やくざと家庭人の両面を佐分利信が重厚に演じています。やくざと言えど、上に立つ者が人心掌握に長けていないと、部下がついて来ないのは一般社会と同じ。その点、佐倉は飴と鞭の使い方を熟知しており、一宮の両親がやくざと縁組になるのを嫌っていることを知ると、名より実を取るやり方で娘を送り出しています。
その一方で、中島組に長年貢献してきた迫田に破門状を突きつける非情さを見せます。千葉ちゃんは今回も武闘派やくざの迫田を演じており、「仁義なき戦い 広島死闘編」における大友勝利役が、如何にキャリアの節目であり、その後の役にも大きく影響しているかを改めて感じさせます。鶴田浩二の我慢芝居は、その千葉ちゃんとの面会時で大いに発揮されます。迫田の気持ちが痛いほど分かりながらも、会長の意向を伝えなければならない苦悩を滲ませ、この時点で解散声明の腹を括ったと思わせます。一方文太さんは、中島組に対する敵役となっており、久々に松竹時代を彷彿させる憎らしい芝居が見られます。市原悦子が鶴田浩二の女房役と言うのも、なかなか新鮮な組み合わせでした。
終盤重要なキーパーソンとなるのが、高橋悦史演じる一宮。中島組傘下の組長が、次々と警察の軍門に下る中、自ら手を汚し、肝の据わった行動によって、佐倉からファミリーの一員として認められます。娘婿とは言え、堅気の彼が極道顔負けの行動を起こす理由は、登志子との結婚に恩義を感じているからであり、その伏線は前半のうちから撒かれています。個人的には火野正平の女を演じた絵夢が、本職の歌を聴かせる上に、刺青の入った体で鶴田浩二とベッドシーンまでこなしており、えらく得をした気分になりました。
日本の黒幕
製作:東映
監督:降旗康男
脚本:高田宏冶
撮影:中島徹
美術:井川徳道
音楽:鏑木創
出演:佐分利信 田村正和 狩場勉 松尾嘉代 江波杏子 梅宮辰夫
田中邦衛 成田三樹夫 高橋悦史 曽我廼家明蝶
1979年10月27日公開
平山総裁(金田龍之介)は航空機の売り込みに絡み、外為法違反などで東京地検と国税局の家宅捜査を受けていました。また彼を支援する山岡邦盟(佐分利信)も同じ容疑で捜査を受け、山岡邸の周囲は、左翼の抗議団体、右翼団体、マスコミ、彼らを取り締まる警察などでごったがえしていました。その騒ぎに乗じて、一人の少年(狩場勉)が邸内に忍び込み、山岡めがけて短刀を突きつけようとします。しかし、少年の不自由な足がもつれ、書生の今泉(田村正和)らに取り押さえられてしまいます。山岡はこの少年を、一光と名付け今泉に預けます。
数日後、航空機の売り込みに関与したと思われる大和物産常務取締役の佐竹(有島淳平)が本社屋上から飛び降り自殺をします。一方、大和物産副社長の朝倉(内藤武敏)は、降りかかる火の粉を払うため、小河内(曽我廼家明蝶)率いる関西協進連合と組んで、山岡と平山の追い落としを画策します。ところが、朝倉が小河内、伊藤前首相(佐々木孝丸)と密談を交わした夜、朝倉のボディガードが狙撃され、翌朝には朝倉も殺されます。
その頃、山岡に対する地検の捜査も進み、山岡一派の竜崎(田中邦衛)に司法取引を持ちかけるなど切り崩しにかかります。やがて、平山が総裁辞職をすることで、小河内や伊藤と取引をしたことを知らされ、山岡は国会の証人喚問に応じることを決意します。一方、山岡の娘・雅子(松尾嘉代)は、父親からある秘密を告げられ衝撃を受けます。
殺人容疑で警察に拘束されていた今泉は、右翼組織から山岡の暗殺を阻止した正当防衛が認められて釈放されます。山岡宅に戻った今泉は、雅子から一緒に山岡のもとから逃げるよう言われますが、彼女の願いを受け入れることはできませんでした。そして、山岡が国会の証人喚問に出席する朝、一光の部屋で雅子が死体となって発見されます。
こちらはロッキード事件をそこかしこに匂わせ、政界、官界、財界、裏社会を巻き込んでの抗争劇の様相を呈しています。フィクサー役は内田朝雄のおハコですが、佐分利信が演じると更に闇の部分を感じさせ一段と重厚感が増します。山岡を中心に話が進められる一方、ホモソーシャルな雰囲気も濃厚に漂ってきます。
一番強く感じられるのは、今泉と一光の関係で、雅子がしきりに引き離そうとするのも、女の直感で二人が危険な関係に発展する兆候を嗅いだからに他なりません。また、山岡と今泉との間にも、師弟以上の雰囲気を感じさせるものの、後に同性愛とは別の意味で濃厚な関係だったことが明らかになります。意外なのは戦時中に山岡の部下だった渋谷(有島一郎)と山岡にも、BL的要素が見られる点で、渋谷が山岡宅を訪れた際に見せる山岡の行為は、上官と部下の関係以上のものを想像させます。「狂い咲きサンダーロード」に見られるように、右翼思考の組織には同性愛に発展しやすい体質や土壌があるのではないかと、思わず推察したくなりますねぇ。
佐分利信に対抗する組織の長が曽我廼家明蝶というのも適任で、配下の成田三樹夫の食えないキャラクターも実にいい味を出しています。尾藤イサオは本作や「やくざ戦争 日本の首領」でも散々な目に遭わされ、田沼正和は師に殉ずる弟子である一方、山岡の娘とデキており、後にその関係が二人を苦しめることに・・・。普通に描けば、疑獄事件に絡めた人間ドラマになるはずが、BL感が濃厚に漂う上に、アブノーマルな面を加えたことによって、そちらの方に目が行ってしまいました。私としては決して嫌いではないですけどね。