原作のエッセンスが生かされた怪作 「お嬢さん」を観て | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

TOHOシネマズ系の映画館は

1日と14日しか割引が効かず

その日を逃すとなかなか足を運べません。

本作も公開が終わった時点で

2本立てに期待するしかないと思っていましたが

運よく会員割引の効くシネマート新宿で

遅ればせながら公開されたので助かりました。

シネマート新宿は公開が終わった作品を

後追いで上映してくれますので非常に重宝しています。

 

お嬢さん 公式サイト

 

 

公式サイトより

舞台は1939年の朝鮮半島。支配的な叔父と、膨大な蔵書に囲まれた豪邸から一歩も出ずに暮らす華族令嬢・秀子(キム・ミニ)のもとへ、新しいメイドの少女スッキ(キム・テリ)がやってくる。実は詐欺師一味に育てられた孤児のスッキは、秀子の莫大な財産を狙う詐欺師(ハ・ジョンウ)の手先だった。詐欺師は「伯爵」を名乗り、スッキの力を借りて秀子を誘惑し、日本で結婚した後、財産を奪う計画だ。スッキはメイドとして屋敷に入り込むことに成功するが、秀子お嬢様に使えているうちに、美しく純真で孤独な秀子に惹かれていく。そして秀子も献身的なスッキに心を開いていく・・・そして物語の幕開けから60分、我々は予想だにしなかった展開に目を見張ることとなる――。

 

製作:韓国

監督:パク・チャヌク

脚本:チョン・ソギョン パク・チャヌク

原作:サラ・ウォーターズ

撮影:チョン・ジョンフン

美術:リュ・ソンヒ

音楽:チョ・ヨンウク

出演:キム・ミニ キム・テリ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン キム・ヘスク ムン・ソリ

2017年3月3日公開

 

サラ・ウォーターズ原作の「荊の城」は昔読んだことがあり、滅法面白かったです。本作は日本統治下における朝鮮人の日本や日本人に対する複雑な感情が入り混じる上に、韓国映画特有の毒っ気のある描写があるため、他国では見られない怪作になっています。

 

映画は三部構成になっており、第一部では詐欺師一味のスッキの視点で、彼女が侍女として上月家に潜入して、秀子と藤原伯爵の仲を取り持ち、秀子の財産を根こそぎ奪おうと実行する過程が描かれます。しかし、スッキはあまりにも無垢な秀子と接するうちに彼女に想いを寄せるようになり、本来の任務とお嬢様を守りたい本心との葛藤に揺れます。そして、第一部の終わり頃には、アッ!と思わせる仕掛けが用意されており、この後の展開から目が離せなくなります。

 

第二部では秀子の現在に至る境遇を回想形式で見せると同時に、彼女の視点から見たスッキと藤原伯爵の行動が描かれます。朗読会における変態チックな描写も然ることながら、秀子の口から発せられる四文字言葉が、日本人からすると何とも気恥ずかしく、居心地の悪さを覚えます。また、秀子の視点で見ると、スッキの視点から見た事象の数々が、全く別の意味を持ってくる点など、映画好きには堪らない演出がされています。また、第二部では藤原伯爵の預かり知らぬ計画が秘かに進行されていて、更に興味をそそる話の流れになっています。

 

第三部では藤原伯爵の視点から、用意周到に計画された犯罪が、どのように変質していき、思いもよらぬ結末に至ったかが描かれます。韓国のノワール映画には珍しいほど、裁かれるべき人物に然るべき罰が下される爽快感があり、スッキと秀子の“純愛”が貫かれて終わるのも気持ちよいです。

 

一見キワモノと思わせながら、伏線の張り方や回収に長けていて、ミステリーとしては極めて正攻法な演出に則っています。もちろん、この映画の売り物のひとつであるエロティックな面もバッチリ。キム・ミニもキム・テリも肌を出し惜しみせずに、カラミのシーンまでこなしていて、ポルノ作品としても十分イケています。また、登場人物が真面目にやればやるほど、そこはかとないユーモアが漂い、サスペンスと笑いのバランスも上手くとれています。

 

秀子の財産を奪う犯罪計画は順調に進んでいるように見えても、スッキ、秀子、藤原伯爵は互いに異なる思惑を胸に秘め、見えない所で別の計画が進んでいく面白さがあり、嘘にまみれた言葉の中にも、かけがえのない真実が含まれており、その真実を言葉にすることによって、相手の心を揺さぶり変化を起こしていく展開にため息が出ます。ハリウッド製の「イノセント・ガーデン」で封じ込められた表現を、一気に爆発させたかのようなパク・チャヌク監督に拍手です。