実話を基にした「牯嶺街少年殺人事件」を観て | パンクフロイドのブログ

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牯嶺街少年殺人事件 公式サイト

 

 

公式サイトより

1960年代初頭の台北。建国高校昼間部の受験に失敗して夜間部に通う小四(チャン・チェン)は不良グループ〝小公園“に属する王茂(ワン・チーザン)や飛機(クー・ユールン)らといつもつるんでいた。 小四はある日、怪我をした小明(リサ・ヤン)という少女と保健室で知り合う。彼女は小公園のボス、ハニー(リン・ホンミン)の女で、ハニーは対立するグループ〝217”のボスと、小明を奪いあい、相手を殺して姿を消していた。ハニーの不在で統制力を失った小公園は、今では中山堂を管理する父親の権力を笠に着た滑頭(チャン・ホンユー)が幅を利かせている。小明への淡い恋心を抱く小四だったが、ハニーが突然戻ってきたことをきっかけにグループ同士の対立は激しさを増し、小四たちを巻き込んでいく。

 

製作:台湾

監督:エドワード・ヤン

脚本:ヤン・ホンヤー ヤン・シュンチン ライ・ミンタン エドワード・ヤン

撮影:チャン・ホイゴン

美術:ユー・ウェイエン エドワード・ヤン

音楽:チャン・ホンダ

出演:チャン・チェン リサ・ヤン ワン・チーザン クー・ユールン

        タン・チーガン ジョウ・ホェイクオ

1992年4月25日公開

 

本作は1992年の日本での劇場公開以来、DVD化されることもなく、ほとんど観る機会のない映画でした。ようやく25年ぶりのリバイバル公開となった今回は、4Kレストア・デジタルリマスター版に加え、最初の日本での劇場公開時の3時間8分版ではなく、完成時の当初のバージョンの3時間56分版で上映されています。4時間近い上映時間の上に休憩時間がなかったため、些か長く感じられたものの、少しも飽きることなく魅入られたかのようにスクリーンから目が離せませんでした。

 

監督のエドワード・ヤンは1947年生まれの外省人であり、主人公とちょうど同世代にあたります。したがって、当時を体験した監督の目から見た台湾の状況が描かれています。ただし、映画では戦前の日本統治を体験した本省人と戦後に台湾に入って来た外省人との対立に関して言及する場面はほとんどなく、外省人のコミュニティ内で敵対するグループと抗争する色合いが濃く出ています。

 

また、当時の台湾では共産勢力が入り込まない政策をとっており、集会、結社、言論、報道、学問が規制された中で、少年少女たちが仲間との友情や異性に対する愛情に拠りどころを求める切実さが伝わってきます。社会の中での息苦しさは、思春期の子供たちだけではなく大人も同様で、小四の父親(チャン・クォチュー)が警備総司令部に連行されたのは、中国にいる恩師との関係を疑われたのが原因であり、戦車が道路を通行するのが日常的に見えるのも、戒厳令下の台湾を象徴しています。尚、本作は1961年に16歳の少年が15歳の少女を手に掛けた実際に起きた殺人事件を題材にしており、当時犯人と年の近かったエドワード・ヤンが衝撃を受けたことは想像に難くありません。

 

映画ではハニーの恋人・小明が自分の意志とは関係なく、主人公を始め小四とクラスメートの小虎を狂わせていきます。保健室の医師は彼女のために、具合の悪い母親の便宜を図りますし、中学を退学させられた小公園のメンバーの滑頭も本当は小明が好きなのに、ハニーの報復を怖れ小翠を恋人に代用している始末です。小明は彼女に関わると、男たちに災いを巻き起こすような女であり、ある意味フィルムノワールにおけるファムファタールの役割を果たしています。小明が小四の親友の小馬(タン・チーガン)と親しくなったため、二人の仲に嫉妬した小四が、小馬を刺すつもりで待ち伏せしていたところ、誤って小明を刺殺した痴話事件と解釈できもしますが、この物語の背景にはそんな単純な構図に落とし込めない様々な要素が絡み合っています。

 

友情、恋愛、政治、ノワール、家族ドラマ、学園ドラマ等々、あらゆる要素が詰まった映画であり、全体像を把握できても、一度観ただけでは映画の中で起きている事象をひとうひとつ掘下げて分析するのは至難の業。もしDVDで発売されたら、何度も観直したい気持ちはあるものの、4時間近い作品を自宅で鑑賞するには、おそらく集中力が保てないでしょう。いっそのこと、一期一会の形で凄い映画を観たという思いを残したまま、記憶の片隅に仕舞い込んだほうがいいのかもしれません。いずれにせよ、映画好きならば一度は観ておきたい映画ですね。