「白昼の決闘」「海女の化物屋敷」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

新東宝のディープな世界 より

 

白昼の決闘

 

製作:新東宝 藤本プロ

監督:佐伯清

脚本:八住利雄

原作:入江徳郎 扇谷正造

撮影:鈴木博

美術:中古智

音楽:早坂文雄

出演:池部良 杉葉子 田崎潤 岸旗江 小沢栄 菅井一郎 山村聰 河津清三郎

1950年3月7日公開

 

村島伍一(池部良)は、新婚2日目にして朝陽新聞の地方支局に転勤してきました。地方も東京同様に住宅難で、妻の千絵(杉葉子)と一緒に暮らすこともままならず、彼女が会いにやってきても、多忙なため満足に二人で過ごすことが出来ません。丁度その頃、伍一は中央新聞の相坂三平(田崎潤)と特ダネ合戦を繰り広げており、何故か伍一の特ダネ記事が三平の書いた記事と被っていました。三平は千絵の父の天沼喬吉(小沢栄)の下で働いていたことがあり、情報を得るためには手段を選ばずと仕込まれていました。

 

三平と飲み明かした翌朝、帰宅した伍一は、千絵から友達の冬木俊子(岸旗江)が電話交換手であることと、三平とつき合っているらしいことを聞かされ、情報が漏れていたことを察知します。彼は一計を案じ、支局長の井田(河津清三郎)と協力して偽の情報を流し、その結果、三平も俊子もその町にはいられなくなります。

 

それから1年後、伍一は東京の本社に転勤し、千絵と社員寮で所帯を持つことができました。千絵の父・喬吉は、東京で引揚者の救済のために化粧品会社を立ち上げ運営していました。ある日、伍一が喬吉と食事をしている際に、三平と再会します。喬吉はかつての部下と旧交を温めますが、伍一にはわだかまりがありました。

 

その頃伍一は、雨の中子供たちにレインコートを渡して去って行った女の取材をしていました。ところが、彼女が親の仕送りのために売春しており、それを苦に自殺したことを知ると、記事にするのをあきらめます。しかし、三平は伍一と喬吉の食事の席での会話を盗み聴きし、スキャンダラスに煽る記事を書いてしまいます。

 

その上、喬吉の化粧品会社の労働争議の件では、記事にするのを待ってくれと頼まれたにも関わらず、労使を決裂させる記事を書き、小学校の教員になっていた俊子が児童の事故を救えなかった件に関しても強引な取材を行ないます。やがて、喬吉の化粧品会社の工場が不慮の火災で焼失し、現場に居合わせた喬吉はショックのあまりおかしくなります。三平は非情にも、その喬吉の姿をカメラに収めようとします。三平の人の心を踏みにじる振る舞いに、伍一は気持ちを抑えられなくなり・・・。

 

スタッフは一流どころで、出演者も名の知れた俳優ばかり。山村聰、浦辺粂子、伊藤雄之助の大物俳優も、ほんの顔見世程度の出演で贅沢な使い方をしています。取り上げる題材も、マスメディアの在り方を問う硬派な社会派ドラマで、(私のイメージする)新東宝のいかがわしさとはかけ離れています。この辺の事情は、東宝のプロデューサー藤本真澄の藤本プロダクションが、製作に関わっているからでしょう。

 

主役の池部良は好演ですが、何といっても見どころは、田崎潤演じる悪徳記者。恋人が電話交換手という立場を利用して、ライバル紙の記者のスクープを横取りするという、ジャーナリストにあるまじき行為をします。そのことがバレて職を失っても、三流紙で特ダネをモノにしてのし上がろうとします。かつての恋人や上司に対しても容赦なく、記事のためには取材対象者が苦しもうと意に介しません。

 

映画は終始ジャーナリストの姿勢を巡って、伍一と三平が対峙する構図を貫いており、八住利雄によるシナリオは、一分の隙もないほどがっちり構築されています。三平はもちろんのこと、ジャーナリストとして矜持のある伍一ですら、前半はライバルを蹴落とすことに夢中になって、妻の親友でもある俊子が影響を受けることにまで頭が回っていません。

 

それでも、記者として未熟な部分を持つ伍一が、社会的な弱者を取材していくうちに、本来の新聞報道に目覚めていく話の進め方が効いています。惜しむらくは、伍一と三平の最後の対決が尻すぼみに終わった点で、急所を外してとどめを刺さなかったモヤモヤ感が残りました。

 

 

海女の化物屋敷

 

製作:新東宝

監督:曲谷守平

脚本:杉本彰 赤司直

撮影:岡戸嘉外

美術:宇寿山武夫

音楽:長瀬貞夫

出演:三原葉子 菅原文太 瀬戸麗子 山村邦子 万里昌代 沼田曜一 国方伝

1959年7月17日公開

 

恭子(三原葉子)は親友の青山由美(瀬戸麗子)から、亡霊に呪い殺されそうなので助けてほしいという報せを受け、青磯海岸の海女集落へ行きます。青山家は代々真珠の採れる青磯の漁場を仕切る資産家でした。由美の父が自殺したあと、母親の狂死、姉の家出、兄の遭難、兄嫁の変死と不幸が続き、由美は荒れた屋敷に使用人と暮らしていました。また、海洋大学の教授という水木博士(沼田曜一)と助手の日比野(国方伝)が、近海の漁場調査のためと称して、青山家に身を寄せており、他にも兄嫁の妹の加代(万里昌代)が由美の相談相手となっていました。

 

一方、恭子には恋人の野々宮刑事(菅原文太)がいます。彼は東京で起きた殺人事件を捜査しており、被害者の胃の中から黒真珠が出てきたことから青磯へ赴き、その真珠が青山家のものと同一であることを確認します。被害者は家出した由美の姉ではなかったものの、野々宮は被害者とつき合っていた木村という男が、水木ではないかと疑いを抱きます。更に一連の亡霊騒動が、東京の殺人事件とも関連があると確信します。

 

やがて、2年前に迷宮入りした殺人事件の被害者が、由美の姉だったことが判明。野々宮は青磯の住職から、地震で海底に埋れた青山家の墓地に、財宝が隠されている事実を知らされます。彼は海に潜り、青山家の墓地の位置を調べようとします。その頃、水木、日比野、加代たちは恭子と由美を拉致して、由美に財宝のありかを案内させようとしていました。

 

いちおう幽霊は出てくるものの、人為的であることは一目瞭然。怪奇映画、スリラー映画というよりは、推理に重きを置いた映画です。ただし、そこは新東宝なのでエロといかがわしさという味つけがされています。三原葉子は海女にこそなりませんが、水着姿や下着姿を見せてくれ、万里昌代のキャットファイトもあります。モデル体型の文太兄は水着が映えるし、沼田曜一の変質狂とも言えるイヤらしさも役者の持ち味を生かしています。後半の海底の洞穴の描写は、江戸川乱歩の「孤島の鬼」をちょっぴり連想させます。悪人の最期は先祖を媒介にした実に皮肉な落とし方をしていて、欲に駆られた自業自得の感があってすっきりした終わり方をします。