「ハリーおじさんの悪夢」「ラブ・ハッピー」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

映画史上の名作 15 より

 

ハリーおじさんの悪夢

 

 

製作年:1945年

製作:アメリカ

監督:ロバート・シオドマク

脚本:ステッペン・ロングストリート

撮影:ポール・アイヴァノ

音楽:ハンス・サルター

出演:ジョージ・サンダース ジェラルディン・フィッツジェラルド

        エラ・レインズ サラ・オールグッド

 

ハリー・クインシー(ジョージ・サンダーズ)は、コリントスの小さな町の織物工場で、デザイナーとして働いている人当りの良い中年男性です。ハリーより若い工場の従業員は、彼を「ハリーおじさん」と呼んでいます。ハリーは独身者で、妹のレティー(ジェラルディン・フィッツジェラルド)と姉のヘスター(モイナ・マッギル)と一緒に大きな屋敷に暮らしています。レティーは美人ですが、いつも身体の不調を訴え、1日中部屋に引きこもっています。一方、ヘスターは未亡人で、気難しい性格の持ち主です。クインシー一家は名家として知られていましたが、不況によって財産が失われていき、ハリーの収入だけが頼りの状態でした。

 

ある日、若い女性デボラ(エラ・レインズ)がニューヨークの支社から工場を視察に訪れます。デボラはニューヨーク出身ということもあり、非常に洗練された物腰で、たちまちハリーは彼女に魅了されます。デボラもハリーに好意を持ち、やがて二人は恋に落ちます。その後、彼女がコリントスに転勤してきたことよって、兄妹の関係にひびが入り出します。ハリーがデボラとの結婚を口にすると、ヘスターは二人を祝福し、弟夫婦を屋敷に住まわせ、自分とレティーは別の家に引っ越そうと提案します。その提案に対しレティーは難色を示し、あらゆる物件にケチをつけ、ハリーとデボラとの結婚はずっと先延ばしの状態となります。

 

業を煮やしたデボラは、ハリーに駆け落ちを持ちかけ、ある日曜日に、列車でニューヨークまで行き、そのまま結婚する段取りをつけます。ところが、教会で礼拝をしている最中にレティーが倒れて、病院に担ぎ込まれたことで、彼らの計画は台無しになります。デボラはハリーに、レティーを取るか、自分を取るか選択を迫ります。彼は妹の容態を心配するあまり、病院に行くことを選び、二人は別れる羽目になります。間の悪いことに、デボラが以前から彼女に言い寄っていた同僚とニューヨークで結婚するという噂を聞くと、ハリーは裏切られた思いで尚一層落ち込みます。しかも、レティーが仮病を使って、引き留め工作を図ったことを知るに及び、妹に対して殺意さえ覚えます。

 

ハリーはレティーが以前飼い犬を安楽死させるために、毒薬を購入したことを思い出し、ある夜、彼女のココアの中に毒薬を入れます。ところが、ヘスターが誤って毒薬を入れたココアを飲んでしまい急死します。家政婦が姉妹の口論していた現場を目撃したことを証言したため、レティーが姉を毒殺した疑いが一気に高まります。動機のある容疑者が見つかったことによって、ハリーはヘスターの死をレティーの犯行にすり替えようと企みます。地元の人々はレティーの犯行に間違いないと思っており、陪審員も同じ意見が大勢を占めた結果、レティーは有罪を宣告されます。

 

妹の兄への異常な愛情から兄の結婚が破談となり、兄は妹を恨んだ末毒殺を図ろうとするものの、誤って姉を殺してしまい妹に嫌疑がかかる犯罪劇。結果として、ハリーは違った形でレティーへの復讐を果たしますが、ヘスターを殺してしまった罪に苛まれ、犯行を告白します。ところが、周囲は彼の話を信じようとせず、レティーも敢えて兄の罪を被り、刑を受け入れます。

 

この後、急転直下の展開があり、あっという間に状況が激変するのです。このヒネリ自体は、映画でよく使われる手で目新しくはありませんが、後味の悪さは雲散霧消されます。主役はハリーなのですが、レティーに存在感があり、物語が彼女中心に回っているような錯覚すら起こします。映画の導入部の時点では、むしろ小うるさい姉のヘスターのほうが、第一印象は悪く映るのですが、話が進むにつれて、レティーの病んだ本性が露わになります。

 

レティーの近親相姦に近い兄に対する独占欲は、デボラの登場により更に悪化します。引っ越し先の物件を悉く却下し、デボラがハリーと一緒に暮らせない状況を作るばかりでなく、二人が駆け落ちしようとする寸前に、仮病を使ってハリーを引き留める工作までします。そのことが原因で、デボラはハリーの許を去る羽目になります。姉のヘスターは妹にたびたび意見をするものの、レティーは聴く耳を持っていません。姉妹の口論を目にした家政婦の証言が、レティーのヘスター殺害の裏付けになってしまうのですから、自業自得とも言えます。

 

もしヒネリを加えず、レティーが刑に服すエンディングにしたら、彼女の存在感は更に増すこととなります。レティーが塀の中にいたとしても、ハリーは彼女から逃れられた訳ではなく、むしろ姉妹への罪の意識からおそらく結婚できないと思われます。それこそ正にレティーの思うツボで、例えハリーと離れていても、“悪い虫”がつく怖れはありません。そう考えると、ハリーへの愛のために罪を被ったと思えたレティーが、兄を永久に独占するために、深慮遠謀の末、がんじがらめに追い込んだ悪女に見えてきます。

 

 

ラブ・ハッピー

 

 

製作年:1949年

製作:アメリカ

監督:デヴィッド・ミラー

脚本:ベン・ヘクト フランク・タシュリン マック・ヘノフ

撮影:ウィリアム・C・メラー

音楽:ポール・スミス

出演:ハーポ・マルクス チコ・マルクス グルーチョ・マルクス

        イロナ・マッセイ マリリン・モンロー

 

私立探偵サム・グルニオン (グルーチョ・マルクス)は11年の間、大変価値のあるロマノフ王朝のダイヤの首飾りを捜していました。一方、貧乏劇団の一員のハーポ(ハーポ・マルクス)は、劇団員の食料の調達に出かける毎日です。彼は高級食料品店の前で、店から出てきた客の荷物を車まで運び、チップをもらうついでに、籠から食料品をよれよれのコートに入れて盗んでいます。

 

そんなある日、ハーポはひょんな事から食料の配達員と共に、高級食料品店の地下の倉庫について行き、地下にある食料品と一緒に、店長のレフティ(メルヴィル・クーパー)が持っていたイワシの缶詰を失敬します。ところが、そのイワシの缶詰にはロマノフ王朝のダイヤの首飾りが隠されており、ボスのイグリチ夫人(アイロナ・マッシー)は、ハーポを見つけ出し首飾りを取り戻すよう命じます。

 

ハーポの所属する劇団は、「ラブ・ハッピー」というミュージカルを上演しようとしていますが、資金繰りに行き詰まり中止の危機に追い込まれていました。失業中の芸人ファウスティノ(チコ・マルクス)の機転により、危機は一時的に回避されますが、一座の座長であるマイク・ジョンソン(ポール・バレンタイン)は、スポンサーを見つける必要に迫られます。ダンサーでマイクの恋人でもあるマギー (ベラ・エレン)も、彼の力になりたいと願っていました。

 

やがて、イグリチ夫人とその一味はハーポを捕えて、首飾りの在処を吐かせようと拷問を行ないますが、彼は一言も言葉を発しないため拉致があきません。ようやく一味は、ハーポがチコにかけた電話を盗み聞きして、首飾りを入れたイワシの缶詰が一座の公演する劇場にあることが分かります。イグリチ夫人はマイクに出資を持ちかけ、その交渉の隙に仲間が劇場のあらゆる場所を探す手筈になります。

 

ところが、マギーはマイクとイグリチ夫人の仲を勘違いし悲しみに暮れます。ハーポはそんな彼女をセントラル・パークに連れて行き、ハープを奏でて慰めます。更にイワシの缶詰の中から見つけた首飾りを贈り、マギーを喜ばせます。ところが、マギーが劇場に戻ると、イグリチ夫人の仲間たちが彼女の身に着けている首飾りを目に留め監禁してしまいます。

 

一切セリフを喋らないハーポ・マルクスが大活躍するコメディ。マルクス兄弟が一緒に出演した最後の作品でもあります。何でも入ってしまうハーポのコートのポケットは、まるでドラエもんのよう。序盤はこのポケットのギャグで笑いをとります。言葉を発しないハーポが、電話でチコに状況を伝えようとするシュールなギャグや、身振り手振りでマギーが捕えられていることを知らせようとし、チコもハーポに対応するおかしさなど、ハーポの特徴を生かした笑いが随所に散りばめられています。マリリン・モンローの出演は、ほんの僅かな時間ですが華があるため目を惹きます。