「死んでもいい」「八月の濡れた砂」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

相米慎二を育てた男

プロデューサー 伊地智啓の仕事 より


死んでもいい


死んでもいい


製作:アルゴプロジェクト サントリー

監督・脚本:石井隆

原作:西村望

撮影:佐々木原保彦

美術:細石照美

音楽:安川午朗

出演:大竹しのぶ 永瀬正敏 室田日出男 奥村公延 田中忍

    賀田裕子 小形雄二 清水美子 岩松了 竹中直人

1992年10月10日公開


気ままな旅を続けていた信(永瀬正敏)は地方都市の駅に降り立ち、突然の雨の中で傘をさす名美(大竹しのぶ)と出会います。信は名美に惹かれるまま、彼女が働く地元の不動産屋を訪れ、社長の土屋英樹(室田日出男)にアパートを借りたい旨を突然申し出ます。名美に案内された古いアパートで、信は彼女が英樹の妻であることを知ります。職のない信は英樹に頼み込み、彼の不動産屋で働くことになります


どしゃ降りの夕方、名美が帰りの遅い信を探しにいくと、信はモデルルームにいました。信は自分の思いを抑えきれず、モデルルームの一室で名美を犯してしまいます。その後、今度は名美が信をベッドに誘い、二人は再び肌を合わせます。その時、突然英樹の声が響きます。名美はベランダに身を隠し、信はその場を取り繕い、英樹に二人の仲を知られることだけは免れます


数日後の社員旅行の夜、酔い潰れた英樹が目を覚ますと、隣に寝ているはずの名美がいなくなっていました。英樹はホテルを探し回った挙句、大浴場で名美と信が湯に浸かっているのを見つけ、信をクビにしてしまいます。やがて夏になり、名美は工場で働く信を訪ねます。名美は信に自分の生い立ちを語り、夫が多額の保険に入っていることまで喋ります。信は保険金のことを聞くと、英樹を殺害することを切り出します。そして、二人は連れ込み宿で一夜を過ごすのです


後日、信は名美の手伝う布地屋を訪れ、雨の夜に英樹の殺害を決行すると伝えますが、折悪しく英樹に見つかり名美を連れ戻されます。英樹は夫婦仲を取り戻すため、一流ホテルのスィートルームで宿泊することを名美に話します。宿泊前日の夜、信は英樹を殺害しにやってきますが、名美はドアを開けませんでした。しかし、名美は意図せずに、翌日の晩夫婦揃ってホテルに泊まることを教えてしまいます


信が名美と最初に出会うシーンがいいです。どしゃぶりの雨の中、女子高生が駅の中に駆け込むのと入れ違いに、信が舗道を渡ろうとします。その際にイヤホーンを耳に着け音楽を聴いていたために、名美に気づかずにぶつかります。その出会いを、スローモーションを交えながら、正に“運命の出会い”として演出します。名美が去った後に、舗道に虹が浮かぶ描写も、一目で恋に落ちた瞬間を映し出しています


物語自体は、ジェームズ・M・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」を巧みにアレンジしており、「郵便配達」では人妻が風来坊の男を犯罪に引き込むのに対し、「死んでもいい」は人妻が狂気を秘めた男に流されるまま身を任せてしまいます。本作が「郵便配達」の単なる焼き直しになっていないのは、室田日出男が演じた英樹の存在が大きいです。妻の浮気現場を二度も目にしながら、名美を許した上で、夫婦の絆を取り戻そうとする姿が胸を打ちます。妻の様子に無頓着なお人好しの男という点では、「人妻集団暴行致死事件」の心臓の弱い妻に尽くす夫と重なります


石井隆監督は、信が名美の後をついて行く背後からのショット、連れ込み宿から川辺を眺める構図、二度目に浮気が発覚する現場での布の使い方など、視覚に訴える場面で冴えを見せる一方で、ポケベルの呼び出し音、固定電話のベル、隣の部屋から漏れてくるあえぎ声など、音を意識させる演出も目立ちます


正直、大竹しのぶの濡れ場にはあまり期待していませんでしたが、女の情念が迸る濃厚な描写だったのは、嬉しい驚きでした。ほんの一瞬ですが乳首も見え、最近の女優と違い、70年代を経てきた女優の肝っ玉を感じさせました。“名美”にこだわる石井隆だからこそ、リアルな濡れ場ができたとも言えます。どちらか一人の男に決められない優柔不断さが、運命に抗えない女のようにも見え、私なぞはその部分に惹かれてしまいます


夫の優しさに打たれ、夫婦生活をやり直そうとした途端、急転直下に訪れる惨劇によって、名美の不幸な女としての哀れさが際立ってきます。血まみれのまま、浴室で仁王立ちする英樹に、一瞬別の展開を期待してしまいましたが、もしやられる相手が違っていたら、石井監督はどのように着地させたでしょうか?



八月の濡れた砂


八月の濡れた砂


製作:日活

配給:ダイニチ映配

監督:藤田敏八

脚本:大和屋竺 峰尾基三 藤田敏八

撮影:萩原憲治

美術:千葉和彦音楽:むつひろし

出演:村野武範 広瀬昌助 中沢治夫(剛たつひと) 赤塚真人 隅田和世 藤田みどり

    テレサ野田 八木昌子 奈良あけみ 渡辺文雄 地井武男 原田芳雄 山谷初男

1971年8月25日公開


夏の朝、高校生の清(広瀬昌助)が海辺をオートバイで走っていると、オープンカーから放りだされる少女を目にします。少女は不良たちに輪姦されたようで、清は無人の海の家へ彼女を招き入れます。清は家に帰って少女に着せる服を持ってきますが、彼女の姿は既にありませんでした


しばらくして、清が海の家でバイトをしている最中に、若い女がわざとコップを割って、金を置いて立ち去ろうとします。清は女を追いかけ車に同乗します。やがて、女が輪姦された少女・早苗(テレサ野田)の姉・真紀(藤田みどり)と分かります。真紀は清を、妹を輪姦した男の一人と誤解し、警察につきだそうとします。頭に来た清は、人気のない原っぱに車を停め、真紀を犯そうとします。しかし、シフトレバーが壊れたことで我に返り、何もしないまま別れます


清には高校を中退した友人の野上健一郎(村野武範)がおり、二人は気晴らしに健一郎の母雅子(奈良あけみ)の経営するバーに行きます。二人が酒を飲んでいると、そこに亀井亀松(渡辺文雄)が現れます。亀井は雅子と関係を持っており、健一郎は訳知り顔をする亀井を嫌っていました


数日後、清は友人と海岸でブラブラしていると、早苗がいるのを発見。三人で戯れているうちに、早苗は先日彼女を犯した男たちを目に留めます。清と友人は男たちに戦いを挑み、そこに健一郎も加わります。不良たちを痛めつけた上に、彼らのオープンカーを奪い、清たちは早苗の別荘に向かいます。すると別荘の中では、コソ泥(山谷初男)が物色中。男三人はコソ泥を捉え、散々なぶりものにします。そこに真紀が戻ってきて、健一郎に「いつか酷い目に遭うわよ」と警告します


翌日、健一郎は裏通りを歩いていると、突然三人のヤクザに襲われ重傷を負います。清は見舞いにきた亀井の口がすべったことから、ヤクザが亀井の差し金だったことに気づきます。健一郎の傷がいえた頃、彼は清と共に、クラスメイトだった優等生タイプの和子(隅田和世)と修司(中沢治夫)の密会を目撃します。健一郎は修司が無理矢理和子の体を奪おうとする様子を見て、囃し立てた結果、和子はショックで自殺してしまいます


清と健一郎は、崖の上から海に飛び込み、そのまま死んでみようとしますが、結局何もできない日々を過ごします。数日後亀井が雅子と健一郎をヨットに招待するのを利用して、健一郎は二人をヨットから追い出し、清、早苗、真紀を同乗して、沖へ出るのですが・・・


学園紛争が終わり、目的のないまま日々を送る若者たちを描いた、倦怠感の漂う青春映画です。70年代初頭のシラケた気分をこれほど刻み込んでいる映画はあまりなく、当時小学生だった私も、懐かしさと共に感傷に浸ってしまいました。映画が公開された翌年の2月にはあさま山荘事件が起き、鬱屈した思いを抱えた十代が、大人たちに冷めた目を向ける姿勢がひしひしと伝わってきます


主役は広瀬昌助が演じた清なのですが、不良役の村野武範がより鮮烈な印象を残します。渡辺文雄の嫌らしい憎まれ役も十分味わえるし、怪しい日本語を話す神父役の原田芳雄、覗き魔の教師役の地井武男も、普段とは違う役柄が楽しいです。この映画の音楽に関しては、最後に流れる石川セリの主題歌が取り上げられることは多いですが、劇中に流れる音楽全般が私にとっては心地良いです