「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」を観て | パンクフロイドのブログ

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ともに苦難を乗り越えよう!

オーディトリウム渋谷 【森崎東と十人の女たち】 より


旅回りのダンサー、バーバラ(倍賞美津子)と原発の下請け労働者・宮里(原田芳雄)は、久しぶりの再会を果たす。宮里はバーバラの友人である娼婦のアイコ(上原由恵)を足抜けさせるはずだったが、手ぶらで帰ってきたため、バーバラは宮里が彼女をやくざに引き渡したと誤解し、修学旅行の積立金強奪事件に巻き込まれ、学校をクビになった中学教師の野呂(平田満)を鞄持ちにして、再び旅回りに出る。やがて、アイコのいる美浜に辿り着いた二人はアイコと再会し、安次(泉谷しげる)との結婚を祝福する。しかし、原発事故で被曝した安次が生きていることがバレ、アイコと安次はヤクザたちから追われる身となる。



パンクフロイドのブログ-生きてるうちが花なのよ


製作:キノシタ映画

配給:ATG

監督:森崎東

脚本:近藤昭二 大原清秀 森崎東

撮影:浜田毅

美術:高橋章

音楽:宇崎竜童

出演:倍賞美津子 原田芳雄 平田満 梅宮辰夫 小林トシ江

    小林稔侍 殿山泰司 上原由恵 泉谷しげる

1985511日公開


正(片石隆弘)、タマ枝(竹本幸恵)、和男(久野真平)の落ちこぼれ中学生が修学旅行に行かれないのを根に持って、修学旅行の積立金を強奪した上、教師の野呂を人質に取って逃走するところから物語は始まります。話が進むうちに積立金を奪った動機が、チンピラの子を宿したタマ枝の中絶費用に当てようとしたことがわかってきます。野呂を監禁しておく場所がないため、正は旅回りのダンサーである姉のバーバラの家の物干し台に野呂を縛ったまま立ち去ります。


そこに旅から帰ってきた姉が内縁の夫である宮里とイチャつき出すのです。ところが、バーバラはベッドや布団の中でするよりも、板の間でヤルことを好み、物干し台に出てきて青姦星空を見ながらいたそうとします。やがて二人は野呂に気づき、縄をほどき自由にしてあげます。しかし、学校側は3人の中学生を放校し、被害者である野呂もクビにして、事件をウヤムヤな形で終わらせようとします。


宮里は原発内で危険な作業を請け負う下請け労働者で、バーバラとは沖縄のコザ暴動で知り合い、そのままズルズルと関係が続いていました。ただし、警察から指名手配されている関係上、宮里はバーバラと一緒に暮らすことはままならず、各地の原発を渡り歩いていたのです。バーバラは美浜の娼婦アイコとは友人関係にあり、宮里に足抜けさせるよう頼んでいました。しかし、宮里が手ぶらのまま戻ってきたため、バーバラは宮里がやくざに寝返ってアイコを帰したと思い込み非難します。バーバラは宮里と別れ、鞄持ちの野呂と共にドサ回りの旅に出ます。


やがて二人は美浜に向かい、アイコを連れ戻しに行きます。アイコは無事で、好きだった安次を弔おうとしていました。安次もまた宮里と同じ原発労働者で、作業中に廃液漏れで被爆し、事故隠しの為にボート小屋に監禁されたのでした。だが、安次の墓はカムフラージュ。アイコは安次を死んだように偽装して、原発関係者やヤクザの目から逃れようとしていたのです。彼女は墓から安次を掘り出すと、バーバラと野呂の立会いの元、墓場でささやかな結婚式を挙げます。


しかし、事の真相を知ったヤクザたちは二人の逃亡を見逃すわけにはいきません。殊に原発事故の証人となる安次を生かしておくことは、自分たちの死活問題に関わってきます。ヤクザの戸張(小林稔侍)は海から逃亡しようとする二人を撃ち、宮里にアイコと安次殺しの代人として自首を迫ります。


原発ジプシー、沖縄基地問題、外国人不法就労者など、ヤバい要素が満載のこの映画からは、見て見ぬふりをする日本人の体質への批判が浮き上がってきます。ただし、森崎東はそのことを声高に叫ぶのではなく、群像劇から自然と滲み出てくるような手法を選択しています。従来の作品同様、あくまでも人間がメインとなっているのです。


ここに登場するバーバラ、宮里、アイコ、安次、3人の中学生たちは、いずれも一般社会から弾き出された者たちばかりです。たとえば、宮里はコザ暴動に関わったことで、身元を隠して生きることを余儀なくされます。住民票ひとつ取れないためにまともな仕事にありつけず、やむなく原発の下請け労働者として働かざるを得ません。バーバラは宮里と抱き合っていても、「逢いたいよぉ」とむせび泣きます。そこには基盤を持てない宮里の危うさを本能的に嗅ぎ取る女の情念が描かれています。


日本の様々な問題を炙り出すこの映画は、ごった煮のように材料は統一されていないものの、不思議なエネルギーに満ち溢れています。終盤倍賞美津子演じるバーバラが、ヤクザと癒着する刑事(梅宮辰夫)に向ける銃口の先にあるものは、国家権力なのか?それとも問題を見過ごしてきた国民なのか?祝祭のような日照り雨の中、バーバラが不法就労者のフィリピン女性マリアを逃がす際、アイコの言葉を継承するかのように、「ごはん食べたぁ!」で締めくくるラストが胸をうちます。