長岡弘樹 「教場」 | パンクフロイドのブログ

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宮坂定、楠本しのぶ、鳥羽暢照、日下部准、由良求久、都築熠太はそれぞれの事情を抱え、警察学校に入学した。しかし、そこは警察官を育てる場所ではなく、警察官に相応しくない人物を篩いにかける特殊な場所だった。初任科第98期短期過程の学生たちは、担任教官の風間公親の許、ある者は学校を去り、ある者は人間として成長していく。厳しい訓練を経た彼らは、晴れて卒業式を迎えることができるのか?


警察学校に入学した6人の生徒を軸にして、卒業までに様々な出来事を描いています。6人の生徒たちはそれぞれ問題を抱えており、新しく赴任してきた風間公親教官を通じて、問題に対して解決もしくは折り合いをつけて行きます。


【第1話:職質】

宮坂定は同期の平田和道の父親に命を助けてもらったことがきっかけで、刑事になろうとしていました。一方、平田は父親が巡査部長であり、周囲からの勧めもありビルの監理会社を辞め転職してきました。二人はいずれも初任科の生徒たちからは落ちこぼれと見なされていましたが、風間は宮坂が優秀な能力を隠していると見抜きます。風間は宮坂が劣等生の振りをしているのを不問に臥す代わりに、学校内や寮で起きていることを逐一報告することを宮坂に義務づけます。宮坂は外出した生徒が入浴剤を持ち込んだ件、便器用の洗剤が1本無くなっている件のような些細な事まで律儀に報告しますが、その些事が後に宮坂の身に起きる重大な出来事に大きく関わってきます。ある日宮坂は、平田から逮捕術の練習相手になってくれと頼まれるのですが・・・。


【第2話:牢問】

取調べの講義を聴いている楠本しのぶは、眠気と戦っていました。彼女は眠気が吹き飛ぶことを期待して、取調べの実演に名乗りを上げます。飲酒運転をして逃げた被疑者を取り調べるという設定で、刑事役をしのぶ、被疑者を友人の岸川沙織が務めます。しのぶは巧みな取調べを行ない服部教官から賞賛されますが、その直後沙織が倒れてしまいます。沙織は心配顔のしのぶに、最近脅迫状が届いていることを打ち明けます。しかし、その手紙はしのぶが出していたのです。彼女は婚約者を轢き逃げされ、殺した犯人をつきとめるため、警察学校に入校したのです。すると、同期の沙織が見せた写真に、轢き逃げした弁柄色のワンボックスカーが写っており、しのぶは彼女が犯人だと目星をつけます。やがて、しのぶは練習用のパトカーを清掃中に、何者かによって命の危険に曝されます。


【第3話:蟻穴】

警察学校は日記の提出が義務づけられています。虚偽の記載が見つかった場合は、即退校となるほど厳しい処分が下されます。白バイ警官を目指している鳥羽暢照は、水難救助の訓練中に稲辺隆と私語を交わした罰として、鬼教官の貞方から理不尽な制裁を加えられます。訓練中に命がけで稲辺を救うものの、彼にとって致命的な代償を払わされます。ある日、鳥羽は教官の須賀から呼び出され、無断外出した犯人を見つけるための尋問を受けます。当日、鳥羽は図書室で稲辺を見ているのですが、なぜか稲辺のアリバイを否定する証言をします。そのため、稲辺は犯人と見なされ、須賀から過酷な体罰を受けます。その結果、鳥羽は稲辺から人生を左右するほどの意趣返しをされてしまいます。果たして鳥羽が嘘をついてまで守りたかったものは何だったのでしょうか?


【第4話:調達】

元プロボクサーで妻子のいる日下部准は、警察の中で少しでも仕事がしやすく、昇進も望めるポストに就きたいと願っていました。そのため、警官人生に大きな影響を及ぼす警察学校の成績を気にしていましたが、学科の成績は芳しくありません。彼は同期の樫村巧美の学校内での調達行為を見逃す代わりに、彼の人脈と情報を利用して教官に好印象を与える工作をします。その頃校内施設において、故意と思われる小火が発生し、学校側は生徒たちに心当たりのある者は名乗り出るよう呼びかけていました。学校側の締めつけは厳しく、起床時間が1時間早められ、土日の外出が禁止されるのも時間の問題でした。生徒たちは仲間の違反を指摘したがり、教官への報告も辞さない日下部を疎ましく思っており、徐々に彼をスケープゴートに仕立てる雰囲気になります。ある日風間は、日下部と樫村に練習交番で酩酊者の保護のシミュレーションをやらせるのですが・・・。


【第5話:異物】

由良求久は警察学校の中で仲間を作らず浮いた存在でした。公用四輪の運転技術講習会の準備も安岡学に任せきりで、自分はその間施設内の床屋に行き、髪を短く切ってもらっています。彼は幼い頃、近所の老人がスズメバチに刺され、アナフィラキーショックで死亡したのを目の当たりにして、そのことがトラウマになっていました。由良は蜂を異常に恐れており、練習パトカーの運転中に、車内に蜂が紛れ込んでいたためパニックに陥ります。運転を誤った結果、由良は風間を轢いてしまい重傷を負わせます。由良は日頃の仕返しに安岡が蜂を仕込んだと思い込み、深夜の警邏中に彼を用具小屋に閉じ込めてしまいます。由良は風間に敬意を抱いていますが、その現場を風間に見つかり、バツの悪い思いをします。風間は彼のトラウマを克服するため、ショック療法を施します。


【第6話:背水】

卒業間近になり、都築熠太は級長の日下部から無理矢理、卒業文集編纂委員の仕事を押しつけられます。都築は優秀な生徒で卒業試験は全科目とも難なくクリアできていました。残りの拳銃試験と職務質問コンテストで優秀な成績を挙げれば、総代として答辞を読む名誉も与えられる可能性があります。しかし、それは同時にプレシャーとなって、彼の体に変調をきたすのです。風間は心の不安を抱え体調不良の都築に対して、彼に欠けている“度胸”をつけさせるため、敢えて自分を追い詰める状況を作り出します。


警察小説も巷に溢れ、そろそろタネが尽きたかと思われましたが、意表を突く形で読者に示されました。警察学校を舞台にした物語でありますから、厳密に言えば警察小説とは言えないかもしれませんが、まだやりようによっては新たな可能性の余地が残っていると思わせてくれます。担任教官となる風間が探偵役となって、学校内で起きる事件や生徒の問題を解決していくのですが、印象としては柳広司のD機関シリーズに近いものがあります。ミステリーとしても良くできており、特に第3話での日記を挿入した手法に必然性がある点、警察学校ならではの盲点をついた動機など見事なものです。



教場/長岡 弘樹

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それにしても、警察学校での生活がこちらの想像していたものとは違い、遥かに厳しいことには驚かされました。普通、これだけ篩いにかけられて選抜された警官ならば、不祥事など起きないはずなのですが、やはり現場の声が反映されない警察の制度自体に問題があるのでしょうね。