若尾文子の暴走ぶりが面白い 「千羽鶴」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷【昭和文豪愛欲大決戦2】より


三谷菊治(平幹二郎)は、生前父がよく通ったというお茶席を見たいと思い、栗本ちか子(京マチ子)のお茶会に出席する。お茶席には、太田夫人(若尾文子)、文子(梓英子)の母娘も来ていた。父親がこよなく愛した太田夫人は、久しぶりに会う菊治に感慨深げだったが、逆に父の愛に満たされなかったちか子は、お見合い相手として自分の弟子の稲村ゆき子(南美川洋子)を菊治に紹介した。お茶会の帰途、太田夫人は父親の面影を残す菊治に、心を乱した。太田夫人は菊治を求め、菊治は文子から交際を絶つように懇願されながらも、太田夫人から離れることが出来なかった。



パンクフロイドのブログ-千羽鶴1


監督:増村保造

脚本:新藤兼人

原作:川端康成

撮影:小林節雄

美術:下河原友雄

音楽:林光

出演:平幹二郎 若尾文子 京マチ子 梓英子 船越英二 北林谷栄

1969419日公開


川端康成の原作である「千羽鶴」は過去に吉村公三郎監督の手で映画化されています。吉村監督版 では、菊治を森雅之 ちか子を杉村春子、太田夫人を木暮実千代が演じており、増村監督版では、菊治を平幹二郎、ちか子を京マチ子、太田夫人を若尾文子が演じています。一見、役どころをしっかり抑えた配役になっているのですが、若尾文子の暴走によって、同じ新藤兼人脚本の作品であるにも関わらず、吉村公三郎の「千羽鶴」とは全く違う様相を呈してきます。


とにかく彼女の泣き崩れる乱れぶりが凄まじく、こちらは失笑してしまいそうになります。人によってはギャグにしか見えないでしょう。他の役者がまともな演技をすればするほど、若尾が浮いた形になるのです。あきらかに若尾の過剰な演技は物語を乱していますが、一概には否定できません。菊治が太田夫人に魅入られたように、観客も若尾文子の妖しさの虜になってしまうのです。彼女の吹っ切れた演技が面白く、次第に画面から目が離せなくなってきます。


吉村版同様、物語は中盤まで同じ展開で進んでいきます。ただし、吉村版が太田夫人の自殺でほぼ物語が終わっているのに対し、増村版は太田夫人の娘・文子を巻き込んだ形で進んでいきます。太田夫人が菊治に、彼の父親を投影したように、菊治は太田夫人の死後、文子に太田夫人の面影を見るのです。そして、二人は一夜の関係を持ち、文子は彼の元から去って行きます。


映画の構成としては、増村版のほうがより味わい深くなっており、私の好みです。たとえば、吉村版では太田夫人の形見の茶碗をちか子が割るのに対し、増村版では菊治が割ることにも、その違いは表れています。その一方、若尾文子が退場したことにより、それ以降の物語は射精後に似た虚脱感に包まれます。それは、この映画での若尾文子の存在が、諸刃の剣であったことを証明しています。