男の覚悟のほどが試される 「でんきくらげ」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷【昭和文豪愛欲大決戦2】より


由美(渥美マリ)は19才の洋裁学校へ通う平凡な娘だった。女手一つで育てあげた母親のトミ(根岸明美)にとって、由美は何ものにもかえがたい宝であった。だが、トミの愛人吉村(玉川良一)が由美を犯したことによって、親子の運命は変わる。逆上したトミは吉村を包丁で刺殺し、刑務所に入ることになった。由美は生活のため、母親が働いていた場末のバーを手伝うようになった。由美に目をつけ、執拗に追い回すやくざの風間(木村元)から彼女を救ったのは、銀座の高級クラブのマネージャー野沢(川津祐介)だった。野沢は由美を銀座のクラブに誘い、彼女は水を得た魚のように、着実に得意客をふやしていった。ところが、クラブのママが由美と店の客とのポーカーを警察に密告したことにより、由美は賭博現行犯で逮捕されてしまう。



パンクフロイドのブログ-でんきくらげ1


監督:増村保造

脚本:石松愛弘 増村保造

原作:遠山雅之

撮影:小林節雄

美術:渡辺竹三郎

音楽:林光

出演:渥美マリ 川津祐介 根岸明美 西村晃 中原早苗 玉川良一

197051日公開


由美は母親の愛人に犯され、それを知った母は愛人を刺殺し、刑務所へ入ります。一人ぼっちになった由美は、母と同じホステスの仕事に就き、野沢の協力を得てのし上がって行きます。ホステスには男からの誘惑が多く、男好きな母親の哀れな姿を見てきている彼女は、容易に体を許しません。博打に強い由美は、彼女の体を手に入れようとする男に対して、ポーカー勝負を挑みます。勝てば一晩数十万円を巻き上げ、負ければ潔く客と寝ます。そんな由美のやり方が評判を呼び、店の客は彼女を指名するようになります。


面白くないのは、常連客を由美に取られた店の女の子と、店で博打をすることに目を瞑らなければならない店のママ(真山知子)です。店でポーカーをやり辛くなった由美は、店外で客と会い野沢の立会いの下、ポーカー勝負をします。ところが、野沢の愛人でもあるクラブのママからの密告により、彼女は賭博現行犯で逮捕されてしまいます。元弁護士の野沢の機転で釈放されたものの、店に戻ることは難しく、由美は野沢と一緒にクラブのオーナーの加田(西村晃)と会うことになります。母親思いの由実を気に入った加田は、月100万円の手当てで2号になることを持ちかけますが、野沢を愛している由美は逡巡します。


渥美マリが常に男に覚悟のほどを求める映画です。ホステスの仕事を始めたばかりの由美は、客から求婚されます。彼女は男の愛情を確かめるため、母親が入所している刑務所に行き、彼と面会させようとします。ところが、男は煮え切らない態度を示し、由美を失望させます。もし、これが野沢だったら、即座に母親と会うでしょうが、そんな彼でさえも、オーナーの提案を由美から相談されると、躊躇ってしまいます。野沢は加田の金に手をつけ、弁護士資格を剥奪された時に、加田に世話になった恩義があり、彼を裏切ることはできません。恩人の要望を拒めない野沢は、由美に加田の愛人になることを進言します。


様々なしがらみを抱えている男は、女のストレートな愛を受け止めきれない面を持ちます。由美からすれば「私はすべてを捨てて、あなたを愛することはできるわ。でも、あなたは愛のためにすべてを捨てることはできて?」という気持ちでしょう。由美への愛は、常に代償を伴うのです。


加田の急死によって、財産分与の問題が持ち上がり、野沢は彼女のために尽力します。それでも由実は彼に対して非情な決断を下します。身ごもった子供を犠牲にしてまでも・・・。なぜならば、由実が加田の愛人になることを止めなかった時点で、野沢を見限ったからです。愛に関して由美の態度はブレません。常にALL OR NOTHINGです。自分が相手に全てを捧げる代わりに、相手にも同じ要求をします。由美の金に対する執着は「銭ゲバ」の蒲郡風太郎並みですが、その根底には母親への愛があり、母親のための金さえも男への愛のために捨てる覚悟を持っています。男たちが彼女に太刀打ちできないのは必然でしょう。