戦後の華族の没落を描いた 「安城家の舞踏会」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷【新藤・吉村コラボの全貌】 より


華族の中で名門をうたわれた安城家は、今迄通りの生活をするために全てのものを手放し、今や抵当に入れた家屋敷まで手放す時が来た。華族安城家の最後を記念するために舞踏会を催したが、その舞踏会の裏には安城家最後の様々なあがきがあった。安城家の当主忠彦(滝沢修)は家を抵当にインチキヤミ会社の社長新川(清水将夫)から金を借りていたが、家を手放すことが惜しく新川を招いて最後の哀願をする。しかし、新川は忠彦の要請を拒否しただけでなく、自分の娘曜子(植田曜子)と安城家の長男正彦(森雅之)との婚約も解消すると言い出した。それを立聞きした正彦は、新川を憎むあまりに、何も知らずに正彦を慕う曜子に残忍な復讐をする。



パンクフロイドのブログ-安城家の舞踏会


監督・原作:吉村公三郎

脚本:新藤兼人

撮影:生方敏夫

美術:浜田辰雄

出演:滝沢修 森雅之 原節子 入江たか子

1947927日公開


吉村公三郎のコンビは、数々の映画を発表しており、今回の特集でその全貌の一端を知ることができます。今回の特集の中では「安城家の舞踏会」「わが生涯のかがやける日々」「森の石松」「偽れる盛装」「四十八歳の抵抗」あたりが有名どころですが、あまり知られていない作品にも、掘り出し物があるのではと秘かに期待しています。


本作は戦後の華族の没落を描いた映画です。次女の敦子(原節子)は現状を受け入れ、かつて安城家で運転手をしていた遠山(神田隆)に金を融通してもらい、抵当に入っている屋敷を取り戻し、住み続けようと奔走します。ところが、当主の忠彦と長女の昭子(入江たか子)はプライドが邪魔をして、昔の使用人の世話になることに抵抗があります。遠山は昭子を好いていますが、彼女は華族の娘と昔の使用人という身分違いの恋を受け入れられず、ツレない態度を繰り返します。


一方、長男の正彦はニヒリスティックに構え、華族でなくなることに対しても、投げやりな態度を示します。彼には生娘の婚約者がいますが、使用人の娘ともデキています。女を泣かす役柄にかけては天下一品の森雅之が演じるので、様々な修羅場が繰り広げられます。正彦の婚約者は、屋敷の抵当権を握っている新川の娘・曜子であり、新川は秘かに屋敷を改築し、ダンスホールにする腹づもりがあり、曜子と正彦の婚約も解消させたいと思っています。


新川の腹黒さを知らない忠彦は、屋敷を手放さないように、恥を偲んで頭を下げますが、新川は聞く耳を持ちません。忠彦は新川が安城家の伯爵という地位のためだけで、忠彦と付き合っていたことを思い知らされます。新川の真意を知った忠彦と正彦は、それぞれのやり方で、新川と曜子に報復しようとするのですが・・・。


貴族の没落を描いた映画で思い浮かぶのが、ルキノ・ヴィスコンテイの諸作品。当然、彼の一連の作品と比較してしまいたくなります。たとえば、俯瞰で捉えた男女の舞踏シーンは、なかなか頑張っていますが、「山猫」でのバート・ランカスターとクラウディア・カルディナーレの二人が優雅に踊るような、見せ場となる場面がないのが惜しいところです。


調度品ひとつとっても、ヴィスコンティ映画に出てくる一目で高価なものと判る装飾品は見られません。もしかすると本物の高価なアンティークを使っていたかもしれませんが・・・。ただ、身の回りの物を売って生活している設定なので、屋敷の中に高価なものは残っていないとも解釈できます。紅茶をわざわざワゴンで運ぶ工夫を見せており、没落貴族の高級感を出す匙加減が難しいことは確かです。また、原節子がラグビー選手並みに滝沢修をタックルする珍しい場面があるので、彼女のファンはそこを注目して見るのも面白いでしょう。