香港警察気鋭の捜査官ドン(ニック・チョン)は、ある犯罪組織に密告者を送り込み内偵させたが、
組織を追い込む寸前で正体がばれてしまい、密告者に瀕死の重傷と再起不能のトラウマを負わせてしまう。
それから1年、ドンは深い罪の意識を背負いながらも、台湾から帰ってきた凶悪犯罪者バーバイの動向を
探ることになり、新たな密告者として出所間近の青年サイグァイ(ニコラス・ツェー)に白羽の矢を立てる。
若くして数々の罪状で投獄されていたサイグァイだが、親の遺した借金のカタに最愛の妹がヤクザに娼婦に
されているという事実を知る。
妹を救い出す金を作るため密告者となる決意を固めたサイグァイは、バーバイと彼の情婦のディーに近づき、
天才的な運転技術を見込まれ、雇われることに成功、組織に潜入する。
彼らからの信頼を得たサイグァイは、そこから得た情報をドンに伝え、警察はバーバイ包囲網を築いてゆく。
だがそれはサイグァイにとって後戻りできない、命を懸けた地獄への道だった。
監督:ダンテ・ラム
脚本:ジャック・ン ホー・マンロン
撮影:ケニー・ツェー
出演・ニコラス・ツェー ニック・チョン グイ・ルンメイ
2011年10月29日公開
銀行強盗を企む犯罪組織に、警察が密告者を潜入させ、その情報をもとに組織を
一網打尽にしようとするのがメインストーリーの部分。
サイドストーリーは、妹を売春組織から抜けさせるため密告者となった青年・サイグァイ、
密告者の正体がばれて、その者を廃人同然にしたことで自責の念に駆られる捜査官・ドン、
犯罪組織のボスの情婦になっている訳ありの女・ディーの物語を絡めて展開されます。
このサイドストーリーが充実しているため、単にクライムヴァイオレンスに留まらず、
非常に切ない物語になっています。
犯罪計画が進められていく中で、サイグァイは情報をドンに伝えていきます。
同時に密告者の存在がばれるかどうかの緊張感も、常に彼は味わわされることになります。
特に二人が密会しているところに、疑り深い仲間が踏み込もうとする場面はスリリングに
描かれています。
金を必要とするサイグァイとボスの子供を妊娠中絶せざるを得なかったディーが、
次第に心を通わせていくところも見どころですが、捜査官のドンの隠された面が徐々に
明らかになっていくところに、この映画の面白さが際立っています。
彼は密告者に対し、一見非情な処置を見せますが、決して捨て駒として使わず、
彼らが生き延びるように手を尽くします。
ドンには浮気したことによって、妻に梅毒を移し子供を産めない体にさせてしまい、
その結果妻が自殺未遂を起こし、別れた過去があります。
ダンテ・ラム監督はこの回想部分を細かいカットの連続と絶妙な編集によって、
わずか1分ほどの時間で観客に理解させてしまいます。
ドンはなぜかダンス教室に通っていて、彼が古いシューズを大切にしているのを見た
受付の女性と親しく口を聞いています。
ドンの意外な一面を見せる演出と思いながら見ていると、この何でもないシーンが
後に続くドン自身の物語と、密接に繋がっていることがわかってきます。
エモーショナルな感情を呼び起こしながらも、所々で抑制された演出が効いているので、
物語全体が非常に引き締まった印象を与えています。
ラストにサイグァイとの約束を果たすため、ドンはある違法行為をします。
そのため、彼にとって望まない結末になります。
この場面を敢えて義務的な処理で見せているため、警察の非情な面が浮き彫りにされます。
ダンテ・ラム監督は必要最小限のセリフと絶妙なカット割の映像で、
登場人物の心理、物語の背景などを表現しています。
アクションも見ごたえがありますが、むしろドラマ部分に監督の力量を感じさせた映画でした。