映画.comより
1969年。妻に逃げられ独身のまま40代を迎えた小説家の矢添克二は、心に空いた穴を埋めるように娼婦の千枝子と体を交え、妻に捨てられた過去を引きずりながら日々をやり過ごしていた。その一方で、誰にも知られたくない自分の秘密にコンプレックスを抱えていることも、彼が恋愛に尻込みする一因となっていた。そんな矢添は、執筆中の恋愛小説の主人公に自分自身を投影して「精神的な愛の可能性」を自問するように探求することを日課にしている。しかしある日、画廊で出会った大学生・瀬川紀子と彼女の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至ったことで、矢添の日常と心は揺れはじめる。
製作:ハピネットファントム・スタジオ
監督・脚本:荒井晴彦
原作:吉行淳之介
撮影:川上晧市 新家子美穂
美術:原田恭明
音楽:下田逸郎
出演:綾野剛 咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 柄本佑 宮下順子 田中麗奈
2025年12月19日公開
「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」のついでに観たとは言え、思っていた以上に苦行を強いられた映画でした。観ようと思った動機は、白黒映画であること、1969年を舞台にしていること、俳優がそこそこ揃っていること、個人的にAV女優(今時はセクシー女優と呼ぶらしい)のMINAMOが一般映画に出演していることなどの興味はありました。
※ここからは作品に対して否定的なことばかりを書いていますのでご注意ください
ただ、荒井晴彦はいい脚本を書くけど、監督としては私と相性が悪いのですよ。まず、主人公の心情を台詞で説明するのが野暮な上に、現実の女子大生と小説の中のB子に関する情事を、矢添の書く小説に重ねて文章で表現するのも、作家らしいと言えばそうかもしれませんが、センスが良いとは思えません。
全編白黒と言う訳ではなく、腹の傷、唇、入れ歯など身体の一部だけカラーパートで表現される箇所もあります。ただし、ここぞというところで使われるならばまだしも、何度も一部色がつく箇所が出てくるため効果が半減しています。
また、1969年を舞台にしている割には、時代の空気感も感じられません。当時の流行歌のゴールデン・カップス「愛する君に」、アン真理子「悲しみは駆け足でやってくる」は劇中で流れますが、「夜明けのスキャット」は由紀さおりでなく山崎ハコのヴァージョン。
病院の待合室でアポロ11号の月面着陸の中継を見る場面がある一方、学園紛争は柄本佑との会話のみで、当時の様子は描かれません。他にも、主人公のキャラクターが嫌な奴過ぎて感情移入できないのはいいとしても、彼の相手となる瀬川紀子も訳の分からぬ振る舞いをするので見ていて疲れて来ます。紀子を演じる咲耶の声や台詞回しが誰かに似ていると思いながら観ていたら、二階堂ふみだと気づきました。
主人公と情を交わす女は岬あかりや田中麗奈も居るのですが、濡れ場は主に咲耶が演じていて、岬あかりは裸とベッドシーンが僅かで、田中麗奈に到っては肌を見せるのは背中くらいで裸すら見せません。この辺りもバランスに欠けています。
それと、矢添が常連客となっている娼館のマダムが、矢添に馴染みの千枝子が居るにも関わらず、しきりに新人の女の子を勧めるのも、風俗店のしきたりや経営者の風俗嬢の管理を考えると解せなかったです。馴染みの客を取られたのがバレたら女の子同士でトラブルになるんじゃないの?
吉行淳之介の原作は未読ですが、ドラマに関しても理屈っぽく、さして見せ場もないため、面白みに欠けると言わざるを得ません。濡れ場がソフトなAV作品と言うのが率直な感想でしたね。











