(つづき)
50年代までマダガスカルはフランス領だった。人々がペタンクをしているのをよく見かけた。首都のアンタナナリボには古いルノーやシトロエンがタクシーとして走っている。私は丸っこい形をしたキャンバストップのシトロエンが気に入り、タクシーでアンタナナリボを乗り回した。
1970年代から80年代にかけてはソ連と関係が深かった。
僕は、その名残らしきものを見た。アンタナナリボの街で、僕は他の国でもそうするように書店に行ったのだが、この書店はソ連式の書店だった。
レニングラードでこんな書店で本を買ったことがある。
店員に欲しい本を言うと値段を書いた紙をくれ、それを会計に持っていきお金を払う方式だ。
マラガシ語版の「星の王子さま」を買った。星の王子さまは世界で250以上の言語に翻訳されている。その数は聖書に次いで2番目に多い。僕はこの作品のコレクションを持っている。
アンタナナリボに戻った後、アンツィラベという街に向かった。
そこへはタクシーブルースという乗り物で行った。タクシーブルースとはフランス語で田舎のタクシーという意味のミニバスだ。ただし、目的地まで2昼夜も3昼夜もかけて走るタクシーブルースもある。
乗り場には様々な行先のタクシーブルースがたくさん停まっていた。
乗り場に着くと、屈強な客引きがやってきて、ブルーのマツダを指さして乗るように言った。タクシーブルースには時刻表はなく、客が満員になったら出発するという仕組みだ。まだ僕の他に客はいなかった。
ぬかるんだ土の上をいろいろな物を売る人が行ったり来たりしている。ある人は頭の上にバゲットの入ったかごを載せて、ある人は「ビスケットにキャンディー」と言いながら、ある人はサッカーボール、カレンダー、地球儀まで売っている。
満席になり出発をした。
快い道のりだった。田園風景が美しい。車内にはマダガスカルの歌謡曲が流れている。どれも長調でのびやかな感じのメロディーだ。
最初、マダガスカルの運転手たちは荒っぽい運転をするのでないかと心配していたが、そんなことはなかった。
アンツィラベには日が暮れてから到着した。タクシーブルースの乗り場にはシクロが待っていた。ホテルに送迎を頼んでいたのだ。スコールが降っていて、車夫は雨合羽を着ていた。
(つづく)