B612 (後編) | お客さん、終点です(旅日記、たこじぞう)

お客さん、終点です(旅日記、たこじぞう)

よく居眠りをして寝過ごしてしまう旅人の日記。みなさんが旅に出るきっかけになればと思います。(旧題名のたこじぞうは最寄りの駅の名前)

(つづき)

朝食にはクロワッサンが出た。これは今まで食べた中で一番おいしいクロワッサンだった。

ホテルの前にはシクロが停まっていた。運転手はこのあたりをちょっと回って見ないかと手まねで言った。彼は僕を鉄道の駅に連れて行った。マダガスカルの鉄道は20世紀の初めにフランスが建設したものだ。白と赤に塗られた駅舎は瀟洒で、この街のちょっとしたランドマークになっているみたいだった。僕は切に列車で旅をしたかったのだが、この路線は今では旅客列車は走っていないのだった。   

 

 

この街にある産院に行ってみた。ここで働く日本人の女性について読んだことがあったからだ。女子修道会が運営する産院で、寄付をしたいと申し出ると、牧野さんというシスターが案内をしてくれた。

産院は、分娩室、診察室、そして大きな病室からなっている。病室には出産を控えた女性と家族が泊まりこんで、食事は付き添いの家族が作る。

掲げられた黒板には、ポリオの予防接種の日程が書かれている。

かなり遠いとこからも含め、一日に400人以上の子供が接種を受けに来るそうだ。

 

 

マダガスカルの子供たちは、生まれたとき蒙古斑のある子供が多いそうだ。マダガスカルの人々の先祖は1400年ほど前に東南アジアからインド洋を越えてやってきた人たちで、マラガシ語とボルネオ島で話されているある言語との近縁関係が証明されている。また、マダガスカルの人々は米をよく食べ、一人当たりの消費量は日本の2倍だ。

 

最近、日本の外科医の先生が、口蓋口唇裂(みつくち)の手術を無料で行うという通知を行ったところ、100人以上の子供たちが手術を受けに来たそうだ。偏見も根強く、そのような子供が生まれると、家の中に隠して育ててしまうという。

 

 

牧野さんは「援助」の難しさについても話していた、例えば、服や粉ミルクを渡して、次に来るときにその服を子供に着せて来るような人は誠意のある人だけれど、嘘をついてそのまま転売してしまう人も多いという。そのようなことが3回繰り返された場合は、その人は「切ります」。最初はつらかったけれど、そのようにしていると言った。

場合にもよるけれど、全くの無料というのはよくない。

 

日本から学生が実習で来るのだけれど、物を大切に使うようになるとか、帰るころには考え方も変わってゆくそうだ。

 

僕は医療従事者でもないし、信徒でもないのだけれど、牧野さんは会話を僕のレベルに合わせてくださってか、タクシーブルースの上手な乗り方を教えてくれた。

料金の交渉をするときも、タクシーブルースの乗り場まで乗ってきたタクシーの運転手に頼んだりするという。そのとき、電卓の画面を示すのがいいのだそうだ。

僕はフライトアテンダントとして働くので航空券をただにしてほしいと航空会社に交渉したというマザーテレサのエピソードを思い出した。

 

 

帰りのタクシーブルースも満員の客を乗せていた。僕の前には赤ん坊を抱いた母親が座り、隣の客が赤ん坊に微笑みかけていた。

往路と同じように車内にはマダガスカルの歌謡曲が流れているが、それに混じって「ユーアービューティフル」のようなヨーロッパの曲もかかる。

フランス語の歌詞のついた「愛のロマンス」が流れる。すると短調なメロディーに悲しくなったのか、一人の赤ん坊が泣き始める。すると、それにつられてか、乗っていた他の子供たちも泣き始めた。