マダガスカルに行った。
小学生の時、植物図鑑にバオバブの写真が載っているのを見て、その奇妙な姿に衝撃を受け、ずっとこの樹を見たいと思っていたのだ。
バオバブは、この世界で4番目に広い大きな島の比較的乾燥した西海岸の一部の地域に生育している。
まずマダガスカル航空のプロペラ機に乗り、ムルンダヴァという町まで行った。飛行機の尾翼にはタビビトノキのロゴが描かれている。タビビトノキはクジャクが羽根を広げたような葉をもった、やはり変わった形の植物で、雨の多い島の東部に生育する植物だ。
ムルンダヴァからから車を雇い、バオバブ街道と呼ばれる場所に行った。
平野の中、遠くにバオバブの樹々が見え始めると、まるで別な惑星に来たかのように感じがした。
「星の王子さま」にはバオバブは邪悪な樹で、芽を見つけたら引き抜かなければならないというように書かれている。
実際にはバオバブは有用な樹だ。
若いバオバブの木は、星の王子さまのバラのように守られ、木のまわりには囲いが付けられている。ヤギに芽を食べられてしまわないようにするためだ。バオバブは今では農地の開発や気候変動の影響で絶越の危機に瀕している。
滞在中に、日中、夕暮れ、夜明けと3回もバオバブの樹を見に行った。面白いことに、見慣れてくると、彼らが決して奇妙な樹ではなく、より近く感じられるようになり、武蔵野のケヤキの樹のように見えてくる。ケヤキもバオバブと同じように背が高く、力強い樹だ。
ムルンダヴァは砂嘴の上に位置するのどかな町だった。僕は写真を取りながら散歩をした。この町の人達はシクロプスと呼ばれるシクロをよく使う。客を乗せた2台のシクロプスが競争をするように走っている。
サッカーボールで遊んでいた子供たちの一人に「シノワ?(中国人)」と声をかけられる。「ジャポネ」と答えると、一緒にやろうと彼は手招きをした。
何人かはサンダルを履き、何人かははだしだった。一人はフランスの10番のTシャツを着ている。
ただドリブルとパスをするだけだったが、一人が実況中継をするようにしゃべっている。
僕はだんだんと息が切れてきた。「ファティーゲ?(疲れた)」と聞かれたので、「ファティーゲ、ファティーゲ」と答えた。
彼らと別れたあと、水路の横を通り海辺に向かった。
船大工だろうか、彼が漁に使う舟にペンキを塗っているのを眺めた。
海辺にたたずむ。夕暮れが迫ってきた。海峡の向こうはアフリカ大陸だ。
(つづく)