レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -862ページ目

心のささえ方

夕方、常連サトルが、ふうふう言いながらやってきた。


「今日はチョコッとましだけど、やっぱり暑いわ」とタオルで顔をふきながら笑った。


僕は「暑いわりには、少し太ったような気がするけど」と、頭のてっぺんからつま先までスキャンしながら言った。


サトルが「仕事やめた。これ以上いたら死ぬ。自身ある」とおかしなイントネーションで言った。


「仕事やめた?どうしてやめた?これからどうやって生活する?」と僕。


「分からん。死ぬよりまし。来月から、仕事さがす」


「今月は探さないか?生活、大丈夫か?お金、あるか?」


「少し、退職金ある。今月、大丈夫。でも来月、ちょっぴり不安」


「ちょっぴり不安、いけない。すぐ探せ」


「いやだ。少しゆっくりする。大事なことね。じゃ、あなた所で働くか」


「ダメ、ダメ。あなた、来る。店、つぶれる。間違いない。私、困る」


いつのまにか、おかしなイントネーションがうつっている。

どうもサトルとしゃべっていると調子がくるう。



サトルは機械工学を専門とする職業。


恐ろしく拘束時間が長く、去年、職場でぶっ倒れて救急車の世話になった。


2週間の療養で退院したけど、げっそりと痩せていた。




訳の分からないまま就職して、がむしゃらに働く。


ある日、ふと自分は何をやっているんだろう?と立ち止まる。


いつの間にか日々のノルマに追いかけられて、恐怖観念の中で生きている自分に気づき、愕然とする。


だめだと思いながらも、先が見えない。


大体、楽しいから頑張れるんだし、好きだから苦しくても諦めないんだ。


明日は明日の風が吹く。同じ生きるなら、やりたいことをやる、ということで、30歳前にして僕は退職を決意した。


決して会社に絶望したわけではない。仕事仲間にも恵まれていた。


ただ、僕は僕の手で、一から何かを起こしたかった。


結婚が決まった直後のことだった。


今にして思えば、家族、親戚、友達、誰もそれをとめなかった。


家内も「私、会社辞めないから大丈夫よ。思うようにやってみたら」と言ってくれた。


なんて無謀な集団なんだろう。。。


きっと「心の支え。信じるもの」があるんだろうね。だから、生き方がぶれないのかな。


すごいことだと思う。


「心の支え」と言えば、久しぶりに加藤諦三の本を読んだ。


自分を見つめたい時に読むと、感じる所が多い。



僕はサトルに「ゆっくりしいな。時間はたっぷりある。今度、うまいものでも食べにいこうぜ」と言った。



そう、時間はたっぷりある。



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