心のささえ方
夕方、常連サトルが、ふうふう言いながらやってきた。
「今日はチョコッとましだけど、やっぱり暑いわ」とタオルで顔をふきながら笑った。
僕は「暑いわりには、少し太ったような気がするけど」と、頭のてっぺんからつま先までスキャンしながら言った。
サトルが「仕事やめた。これ以上いたら死ぬ。自身ある」とおかしなイントネーションで言った。
「仕事やめた?どうしてやめた?これからどうやって生活する?」と僕。
「分からん。死ぬよりまし。来月から、仕事さがす」
「今月は探さないか?生活、大丈夫か?お金、あるか?」
「少し、退職金ある。今月、大丈夫。でも来月、ちょっぴり不安」
「ちょっぴり不安、いけない。すぐ探せ」
「いやだ。少しゆっくりする。大事なことね。じゃ、あなた所で働くか」
「ダメ、ダメ。あなた、来る。店、つぶれる。間違いない。私、困る」
いつのまにか、おかしなイントネーションがうつっている。
どうもサトルとしゃべっていると調子がくるう。
サトルは機械工学を専門とする職業。
恐ろしく拘束時間が長く、去年、職場でぶっ倒れて救急車の世話になった。
2週間の療養で退院したけど、げっそりと痩せていた。
訳の分からないまま就職して、がむしゃらに働く。
ある日、ふと自分は何をやっているんだろう?と立ち止まる。
いつの間にか日々のノルマに追いかけられて、恐怖観念の中で生きている自分に気づき、愕然とする。
だめだと思いながらも、先が見えない。
大体、楽しいから頑張れるんだし、好きだから苦しくても諦めないんだ。
明日は明日の風が吹く。同じ生きるなら、やりたいことをやる、ということで、30歳前にして僕は退職を決意した。
決して会社に絶望したわけではない。仕事仲間にも恵まれていた。
ただ、僕は僕の手で、一から何かを起こしたかった。
結婚が決まった直後のことだった。
今にして思えば、家族、親戚、友達、誰もそれをとめなかった。
家内も「私、会社辞めないから大丈夫よ。思うようにやってみたら」と言ってくれた。
なんて無謀な集団なんだろう。。。
きっと「心の支え。信じるもの」があるんだろうね。だから、生き方がぶれないのかな。
すごいことだと思う。
「心の支え」と言えば、久しぶりに加藤諦三の本を読んだ。
自分を見つめたい時に読むと、感じる所が多い。
僕はサトルに「ゆっくりしいな。時間はたっぷりある。今度、うまいものでも食べにいこうぜ」と言った。
そう、時間はたっぷりある。
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