レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -830ページ目

不動産屋K(後編)

怪訝な顔で、覗き込むと、そこには


「企画書~あなたも明日から大学講師」と書かれてあった。


Kさんは「どないや。面白いやろ。


どうやれば大学講師になれるかという、マニュアルや。


これを売ろうと思ってんねん。まず、僕が大学講師になるさかい」


僕は「なるったって、どうやってなるんですか。どこが社会貢献ですか。


先日は、『コ○ミを凌げ!遊○王カード偽造大作戦』っていう、


間違いなくお縄になる企画だったし。


また胡散臭い企画やないですか」と。


そこへ、奥さんが


「お世話になります。また、主人がくだらん話しをしまして。


いつものように適当に聞き流して下さいね。コーヒー、ここに置きますね」


と、苦笑いしながら応接間に入ってきた。


Kさんは、頭をぽりぽり掻いて「ええ企画やと思うんやけどな」と。


Kさんがプリントアウトした何人ものプロフィールを僕にみせて、


「なっ、見てみいな。大学の先生って言ったて、こんなんやで。僕にも可能性あるやろ」と。


「確かにレベルの差は随分あるのでしょうね。


ねえKさん、ぺりかん社っていう出版社がありますねん。

ここが『なるにはBOOKS』というシリーズを出しているんですわ。


すでにかなりのタイトルを出しているはずですが、


取りあえず、ここに売り込んでみたらどうです?


だめですよ。知り合いはいませんよ」


と、僕はデンジャラスゾーンに足を踏み入れないように、注意深く返答した。


あかん。厄介な時に顔を出してしまった。


「ぺりかん社ねえ。KENさんの知り合いに大学の先生はおらんの」


と、Kさんがニコニコ顔で言った。


「ん~、遠縁に一人ともう一人従弟がいますけど。みなまともな先生でっせ」と、僕。


「ほぉ~、なんていう名前。どのこ大学?」


と、くつろぎながらKさん。


「○○大学と○○大学。名前でっか。従弟は○○という古風な名前で・・・」


しまった。まともに答えてしまった。


ゆる~い顔にのせられた・・・あかん・・・


Kさんは「ネットで調べてみよや」


と言って、応接間にあるパソコンデスクにむかって、


すでに検索をはじめていた。


そしてアッと言う間に


「おった、おった、この人か。え~?これkenさんちゃうの。


kenさんやがな。えっ?え、え~!そないな仕事もしとったんかいな」



何だか、ややこしいことになってきた。



「ちゃう、ちゃう。よう見て下さいよ。確かに似てるけど、


僕のほうが目がキリッとしてるでしょ。


それに髪の毛も断然僕の方がウェーブがきれい。


僕のほうが身長もあるし、すらっとしているでしょ」


身長については画像では比べようがないけど強調しておきたかった。


「ん~、ほんまやな。別人や。焦るなあ。入れ替わっても分からんで」


と、感心するKさん。


確かに、従弟と僕は子どもの頃からよく似ていた。


今も、笑うくらい似ている。


「前は、関東のほうにおってんな。おお~、この大学知ってる。


今は、こっちに戻ってるんか。


何にしても、公務員っちゅうことか。


今の大学、あまり聞かん名前やな。そんな大学、あったっけ?」


「ありますよ、昔から」


と、コーヒーを飲みながら僕。


このあたりで引き上げないと、


どこまで引きずり込まれるか分かったものではない。


僕は「ご馳走様、又来ますわ」


と奥にいる奥さんに言った。


「ウソ~。今から、話しは佳境に入るのに」


と言う、Kさんを振り切って僕はドアに向かった。


「ねえ、ねえ、その従弟さんに会えないかなあ。遠縁の先生の方でもOKよ」


と、諦めないKさん。


「会えません。会ってどうするんですか。


それより、本業の不動産屋をしっかりね。


息子さんは学校の先生でしょ。まともな親でなくっちゃね」


そう言って、僕はドアを開けた。


Kさんは「ねえねえ、ええ企画やと思えへん?興味あったら連絡して~」


とまだ言っている。


明日になれば、きっと違う企画書を書いているに違いない。


つまりは、企画書づくりは、Kさんの趣味。


時として、今日のように、僕みたいな犠牲者が出る。


だけど、企画も数を打てば当たることもある。


時として、その発想は常人を陵駕する。


涼しい顔で「こないだ言うとった話しな、ちょっと仕事になってん。


この車ももらってん。新車やで」と、言うこともある。


「えっ!くるまっ!もらった?うそやろ~!」と、こちらがびっくりする。


この人、時と場所が違えば、


とんでもなく面白いことをやる人かも知れないと、ゾクっとする時がある。