レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -496ページ目

暗闇にうごめく影

廊下を物音も立てずに移動する影がある。

間を置かず「ひぃ~~~」と暗闇を引き裂く声が。

声の主は家内である。

そして、影の正体は二男である。

親子で学芸会の練習かと思いきや、

そうでもない。

家内が「電気もつけずに何やってるのよ!

3秒は心臓が止まったわよ」

と、怒っている。

二男は至って冷静で

「電気つけると、もったいないし」と。

ことの発端は1週間程前に遡る。

二男がスクワット以外に

足腰を鍛える方法はないかと訊ねるので、

独特な足運びを教えた。

なるべく姿勢を低くし、背をピンと張って、

カメレオンの如く移動する。

太極拳の基本となる足運びだ。

僕は、かつて剣道と並行して、

少林寺拳法と太極拳という

武道三昧の日々を送っていた時期がある。

(結構な年月と言ってもいいかも知れない)

太極拳は、その神秘的な雰囲気と

呼吸に惹かれて始めた。

始めてみると、それは見た目と違い、

かなりの筋力としなやかな体が必要である事に驚いた。

勿論、年齢なりの動きでよいのだが、

(ご経験者、現役の方を差し置いて偉そうだが)

今日明日で様になるようなものではない。


二男にその足運びを教えたら、

思惑とは違い、うまくバランスが取れないようだ。

僕は「そんなものだ。

ふらつきがなくなってきたら、手の動きを教えてしんぜよう」

と、分かった風な事を言った。

以来、二男は日々コツコツと練習をしている。

そして、二男が部屋に消えていったあと、

僕が足運びを練習している。

勿論、酔っ払いの如くよろけ倒している。

かつて、楊式太極拳を引き継ぐ者と騒がれたのがウソのようである。




ウソです。すみません、ちょっと言ってみたかった。




当時は、全脚が可能なほど、体も柔軟だった。
それなりの筋力もあった。

これは、本当である。


「今はその面影は全くない」と、

腰に手をあて頷く僕である。


二男は一度決心した事はやり通すほうだ。

多分、太極拳も教える事になる。

しかし、余計なことを言ってしまった。

墓穴を掘るとは、正にこの事だ。

物事は分相応か、控え目くらいに言いなさいと、いう事だね。