レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -449ページ目

成穂堂、目頭を熱くする

久しぶりに仕事オフ。

朝の惰眠を貪っていると、車屋Mさんから電話が入り、

おお~という出合いものがあったので、仕入れちゃいましたとの事。

「ええ~『仕入れちゃいました』という事は、Mさん買っちゃったのですか?」

と、僕はすっとんきょうな声で聞いた。

「はい、買っちゃいました」

Mさんの満面の笑顔でしゃべっている様子が手に取るように分かる。

「また、大胆な。兎に角、そちらに伺います」と、僕は言った。

「まだ手元に実車は届いていないのです。画像は見て頂けますが・・・」

「何にしても何かしら手続きがあるでしょう」

「そうですね。それじゃ廃車の手続きをしちゃいますか。

今からKENさんちに伺いましょうか?」

「いえいえ、今日は出掛けますので、帰りに寄ります」


商売をしていると20日~月末までは、あちこちの支払いで忙しない。

本来なら19日に処理すべきものが、

ネットバンクの電子証明書更新を忘れていて処理ができず、

銀行窓口で手続きをしないといけない。

それから長男のスーツを買いにいかなくちゃいけない。

長男はすでにスタンバっている。


何とか午前中はダラダラしてやろうと思っていたのに・・・



話はちょこっと隣の線路を走るが、

今時、入学式はスーツを着るらしい。それも黒。

僕の時代はどうだったのだろう?

全く覚えていないがやはりスーツだったのだろうか?

どうもそんな右へ習えみたいな風ではなかったような気がする。

みんな、おおらかでタフだった。


いかん、長男のスーツのことであった。

手っ取り早く済ませてしまおうと思い、

銀行の用事を済ませ大手チェーン店に向かった。

店内に入ると、僕たち親子3人を見つけてスタッフさんが

すべるようにやってきた。

あれがムーンウォークというやつであろうか・・・

まさに鴨ねぎにしかみえないのであろう。

こちらが言いだすまでもなく

「ご入学式用のスーツですね。

今ですと、スーツ代金に1万円をプラスされると

フレッシャーズ8点セットにできちゃいます。

格安で全てが揃っちゃうのですよ。

これを買わずして何をかいわんやです」

と、がまの油売りのごとくとぅとぅとおっしゃる。

だいたいあちこちの店をまわるのが嫌な僕は、

「それでお願いします。見繕ってやって下さい」と。

家内も頷いている。

「まるでTVの通販番組のようでんな」と、僕は家内に言った。

家内は横目でちらっと僕を見て

「いらない事言わないの。車で待っててもらっていいわよ」

「おいらは爆弾か。じゃ、となりのハンバーガー屋にでも行ってるわ」

と言う事で、何だかんだと1時間ほどかかって、一式を購入したようだ。


さて、話は戻って車屋Mさんの所へ行くと、

整備のAさんが首から吊るしたタオルに手をやりながら

「KENさんお久しぶりです。車、買い替えですってね」と。


気配に気づいたMさんが事務所の大きなガラス窓の向こうから

早く入ってきなはれと、手招きをしていた。

事務所に入ると、

「社長!いや、KENさん、やりましたよ。特上品ですよ。いやあ、参ったですよ」

と、興奮気味にその詳細と画像をみせてくれた。

「そうですか、そうですか、やりましたか」と、僕も書類を覗き込んだ。

「ねっ、ねっ、内外装共評価4.5/5でしょ。かなり質はいいですよ」

「いいですね。これでいきますか」

Mさんが家内をみて

「KENさん、絶対に質がよくなくちゃイヤだというでしょ。

何でもいいと言いながら、絶対良くないんですよね。

ある意味、絶対に妥協しない。

心得ていますよ、そのあたりの事は」と、笑っている。

「本当に子供のような人ですみません」と家内も笑っている。

僕は「いやあ、この車で充分満足ですよ。

でも、僕が断ったらとか、思いっきり分割でしか払えない。

でもローン審査は通りません。

なんて言う事になっていたらどうしていたのです?」と、聞いてみた。

「あはは、この車を転売すれば100%利益がでますよ。

でも、KENさんがほしいと言わはって審査が通らなかったら僕が立て替えますよ。

あとはボチボチお支払い下さい」

「Mさんの店が立て替える?」

「はい、KENさんですから」

「本気ですか」

「勿論です」

僕は、無性に嬉しかった。

そして、少し目頭が熱くなる自分を感じた。

この世知辛い世の中に、こういう店もあるのだ。

昔ながらの甘い商売と言われればそうであろうが、

Mさんの所は親子二代が運営する繁盛店だ。

結構遠方のお得意さんを抱えているというのにも頷ける。


僕も、人と人の繋がりを大切にした懐の大きい商売ができるだろうか。


「勉強はからっきしダメさ。あれもこれも知らないし分からない。
だけど人を愛する事は知っている。
この世が愛で溢れているなら、きっとすばらしい世界がくるだろう」
超訳だが古き時代のこのシンガーはそんな風な事を歌っている。



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