レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -432ページ目

怒涛の6月初日

とある日の昼下がり。

静けさを切り裂くような女性の叫び声が・・・

と、いうのではなく、

店入り口から、「KENさ~ん、居る~?」という野太い声がした。

この声、紛れも無くYやんだ。

今日は通常より通販の受注が多く、家内はその対応にアタフタしている。

非常用助っ人もいない。

僕はと言えば、小難しい本の査定をしていた。

そんな日に限ってなぜYやんが・・・

Yやんは10年来の常連さんだ。

何とか往なさなくては。

「飴玉、あげるからまたおいで」

「おおきに。ほんじゃまた。違うて~。

どうやった、この間預けてた古銭。やっぱり、あかんか?」と、Yやん。

「Yやん、ちょっと忙しいねん。結論だけでいいか」と言うと、

Yやんが、にんまりして

「なんぼ?」

僕は「○○円で引き受けるわ」と。

「あんまり値打ちないねんな。そんなもんか」

「そんなもんや。Yやんの持ち込んだ古銭は、ややこしいねん」

「どうややこしいん?」

「あかんて。今、本の査定しているやろ。

それが終わったら、通販の処理が待ってますねん」

「なあ、頼むわ。教えて~な~」と、引き下がらないYやん。

「講釈しだすとなごうなるねん。ほら、お嬢もバタバタしているやろ」

「どこにお嬢がおるねんな」

「聞こえたら、トンカチが飛んでくるで。代金はこれ、講釈は今度。じゃ、また」

流石に、Yやんもしぶしぶ帰って行った。

そこへ、電話が鳴った。

受話器をあげると「KENさん、毎度。面白いものが手に入りましてん。

何に使うのか分からんものがいくつかと木像が一つですねん。

あっ、ついでに着物を2ケース、持って行きますわ。

今から、もって行ってもよろしい?」

「本は?」

「本はおまへん」

「えっ?本はない? ああ~、何にしても今日はあきませんわ。来週にしましょや」

「遅そうなってもええんですけどね」

「今日は、正味あきませんわ。じゃ、電話切りますわ」


どうも僕の店には風変わりな連中が集まるきらいがある。


ところでYやんが店に持ち込んだのは「天保通宝」という古銭だった。

古銭なんて僕には分からないが、

持ち込まれたのがたまたま、天保通宝だった為、

多少の知識があった。

疾走する古本屋!成穂堂〔なるほどう〕店主の苦悩と爆笑の日々-天保通宝表

疾走する古本屋!成穂堂〔なるほどう〕店主の苦悩と爆笑の日々-天保通宝裏


天保通宝は、江戸末期から明治にかけて流通した銭貨だ。

5億枚近く鋳造されてれたという事になっているが、

実際には7億枚はあると言われている。

公鋳銭と言って、天下の管理の下に造られた通貨だ。

・・・と、いうのは建前。

江戸時代には、ご存知のように

各藩内でのみ使用可能な地方貨幣というのがあった。

これにかこつけて、

あちこちの藩が天保通宝を鋳造した。

これを密鋳銭と言い、恐ろしい数量が鋳造されていたらしい。

質は推して知るべくだが、

コレクション品として価値がないかというと、

一概にはそうとも言えない。

師匠から聞いた話では、

千円くらいのものから、目が飛び出るほど高いものもあるらしい。
          
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しかし、障子の向こうから聞いていると古本屋での話ではない。


「うちは古本屋だ」と言うのだが、常連さんは、

こうして何でもかんでも平気で持ち込んでくる。

いっそ便利屋に転身した方がよいのだろうかと思う今日この頃だ。



さて、長男が応援に来てくれたようだ。

こんな時間だが、また仕事に戻る。