奔る警官
店の奥でごそごそと作業をしていたら、
出入り口から声がしたような・・・
気のせいかと思い、作業に戻りかけたら
「すみません」という声がした。
声のした方に行ってみると、ずんぐりとした警官が立っていた。
警官が「すいません」と言うのは、どこか違和感がある。
もう少し威厳を持って「たのもう」とか
「ご在宅か」とか言って貰った方が有り難みがある。
まあ、それはそれとして、
古物商に警官が立ち寄る時はろくな事がない。
古物許可証の確認、古物台帳又は買取り票の確認、
若しくは、万引き犯探しなどだ。
暇潰しにふらっと寄ってみましたなんて事は爪から先もない。
何れにしても時間を取られる。
警官は「店前の交差点内に駐車している車は、お宅さんのですか?」
と、思いもよらない事を言った。
「交差点?・・・店の引戸前の車ならうちのですが。
先程、荷物の積込で駐車しましたよ」と、答えた。
「なるほど、そうですか。一応、あそこは交差点内に含まれるんですわ。
先ほど通報がありましてね」
「えっ、交差点内?あそこが」
ここに店を構えて6年目。
一時駐車した回数は数えきれない。
しかも、そんな事で通報されたのは初めてだ。
「まっ、積込が終わったら移動させてくださいな」
と、警官にしては柔らかい対応である。
僕は素直に頷いた。警官は続けた。
「ところで、ここは怪しげな店ですな」
「えっ、怪しいものは扱っていないですよ」と、僕は慌てて言った。
「いやいや、言い方が悪かったですわ。
前々から面白そうな店なんで、一度寄りたいと思ってたんですわ」
と、警官はにっこり笑った。
「うちの店、ご存知なんですか?」
「巡回でこの前はしょっちゅう通りますねん」
それじゃ、車がとまっているのを何度も見ているのだろう。
僕は不器用に笑った。
何も後ろめたい事はないが、
警官と聞くだけで何か重箱の隅をつつかれそうな気がする。
警官は「欲しい本があれば探して貰えますの?」と。
「出来るだけ探しますよ」
と答えたが、どうも調子がでない。
大体、駐禁キップを切りに来たのではないのか?
そんな疑問を抱く間もなく
「『命もいらず、名もいらず』と、いう本を探していますねん。分かります?」
と、警官はすでに職務を離れてしまっている。
「山本兼一さんのですか?」と、僕。
「おっ、知ってますか」
「山岡鉄舟のでしょ」
「よう知ってますな」
「一応、本屋になって長いもんで。多分文庫ならあると思いますよ」
「今、職務中なので、また、休みの日に来ますわ。置いといて下さいな」
と、警官は生真面目に言った。
そして、よたよたとバイクにまたがりあさっての方向に走り去った。
何だかおかしな塩梅だ。
探している本をたずねる事自体、すでに職務ではないだろうから、
わざわざ出直さなくてもいいような気がするが。
まっ、駐禁キップを切られないで良かった。

それから一週間程経った昼過ぎ、二人の警官が足早にやって来た。
一人は先日のずんぐり警官だった。もう一人は乙女警官。
今度は何事か?と、僕は身構えた。
ずんぐり警官は「またこの本探して欲しいんですわ」と言って、
チラシの裏に書いたメモ書きを差し出した。
「それとこの子にあうようなウェディングドレス、手にはいらんかなあ」と。
乙女警官は「もうすぐ結婚するんです」と、はにかんだ。
僕は勢いに押されて「探してみますわ」と言ってしまった。
「頼んます」と言って、警官二人はそそくさとバイクにまたがって消えて行った。
しばらく、僕は何が起こったのか事態が掴めず、
去りゆく警官に手を振っていた。
しかし何だか妙に現実味がない。
どこかに隠しカメラが仕掛けられているのだろうか?
大体があの二人、本物の警官なのだろうか?
今度、派出所をのぞいてみよう。
・・・どうして、この店はこんなにけったいな事ばかり起こるのだ!

出入り口から声がしたような・・・
気のせいかと思い、作業に戻りかけたら
「すみません」という声がした。
声のした方に行ってみると、ずんぐりとした警官が立っていた。
警官が「すいません」と言うのは、どこか違和感がある。
もう少し威厳を持って「たのもう」とか
「ご在宅か」とか言って貰った方が有り難みがある。
まあ、それはそれとして、
古物商に警官が立ち寄る時はろくな事がない。
古物許可証の確認、古物台帳又は買取り票の確認、
若しくは、万引き犯探しなどだ。
暇潰しにふらっと寄ってみましたなんて事は爪から先もない。
何れにしても時間を取られる。
警官は「店前の交差点内に駐車している車は、お宅さんのですか?」
と、思いもよらない事を言った。
「交差点?・・・店の引戸前の車ならうちのですが。
先程、荷物の積込で駐車しましたよ」と、答えた。
「なるほど、そうですか。一応、あそこは交差点内に含まれるんですわ。
先ほど通報がありましてね」
「えっ、交差点内?あそこが」
ここに店を構えて6年目。
一時駐車した回数は数えきれない。
しかも、そんな事で通報されたのは初めてだ。
「まっ、積込が終わったら移動させてくださいな」
と、警官にしては柔らかい対応である。
僕は素直に頷いた。警官は続けた。
「ところで、ここは怪しげな店ですな」
「えっ、怪しいものは扱っていないですよ」と、僕は慌てて言った。
「いやいや、言い方が悪かったですわ。
前々から面白そうな店なんで、一度寄りたいと思ってたんですわ」
と、警官はにっこり笑った。
「うちの店、ご存知なんですか?」
「巡回でこの前はしょっちゅう通りますねん」
それじゃ、車がとまっているのを何度も見ているのだろう。
僕は不器用に笑った。
何も後ろめたい事はないが、
警官と聞くだけで何か重箱の隅をつつかれそうな気がする。
警官は「欲しい本があれば探して貰えますの?」と。
「出来るだけ探しますよ」
と答えたが、どうも調子がでない。
大体、駐禁キップを切りに来たのではないのか?
そんな疑問を抱く間もなく
「『命もいらず、名もいらず』と、いう本を探していますねん。分かります?」
と、警官はすでに職務を離れてしまっている。
「山本兼一さんのですか?」と、僕。
「おっ、知ってますか」
「山岡鉄舟のでしょ」
「よう知ってますな」
「一応、本屋になって長いもんで。多分文庫ならあると思いますよ」
「今、職務中なので、また、休みの日に来ますわ。置いといて下さいな」
と、警官は生真面目に言った。
そして、よたよたとバイクにまたがりあさっての方向に走り去った。
何だかおかしな塩梅だ。
探している本をたずねる事自体、すでに職務ではないだろうから、
わざわざ出直さなくてもいいような気がするが。
まっ、駐禁キップを切られないで良かった。

それから一週間程経った昼過ぎ、二人の警官が足早にやって来た。
一人は先日のずんぐり警官だった。もう一人は乙女警官。
今度は何事か?と、僕は身構えた。
ずんぐり警官は「またこの本探して欲しいんですわ」と言って、
チラシの裏に書いたメモ書きを差し出した。
「それとこの子にあうようなウェディングドレス、手にはいらんかなあ」と。
乙女警官は「もうすぐ結婚するんです」と、はにかんだ。
僕は勢いに押されて「探してみますわ」と言ってしまった。
「頼んます」と言って、警官二人はそそくさとバイクにまたがって消えて行った。
しばらく、僕は何が起こったのか事態が掴めず、
去りゆく警官に手を振っていた。
しかし何だか妙に現実味がない。
どこかに隠しカメラが仕掛けられているのだろうか?
大体があの二人、本物の警官なのだろうか?
今度、派出所をのぞいてみよう。
・・・どうして、この店はこんなにけったいな事ばかり起こるのだ!
