レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -255ページ目

子は親をみて育つのか?

台所にいる家内にツツツ~と、ひょろ長い影が忍び寄った。

「ひええ~」と、天を引き裂くような悲鳴が・・・


・・・あがらない。


ひょろ長い影が言った。

「ねえねえ、おかーさん。今日、就職セミナーに行ってきてんな」

長男である。

「そう」

「ほんでな、セミナーに出る前に蕎麦屋に寄ってん」

「へぇ、何食べたん?美味しかった?」

「ざるそばにしてみてん」

「ほぅ、ざるそば!」

「はいな、こんな暑い日はざるそばが美味しいねんな」

「なるほど」

「落語みたいに、少しだけ汁に蕎麦を浸けるんじゃなく、たっぷり浸けんねん」

「ワサビも入れて」家内が仕草をしながら言った。

「ちょっと鼻につ~んとくるくらいがいいねん」

「確かに」

「なかなか、いける蕎麦屋やったわ」

「蕎麦湯、してもろた?」

「蕎麦湯って?」

「知らないの?美味しいのかどうなのか微妙なやつ」

「ふ~ん」

「何か、私も食べたくなってきたな。ざるそば」

「僕は、天ぷら蕎麦が食べたいな」

長男はそう言って、満足そうにリビングに戻って言った。

その一部始終を見ていた僕は、思わず声なき声で叫んだ。

「お~い、そこかい!」



僕はカウンター越しに家内に言った。

「ねえねえ、R(長男)の話の続きは?」

「へっ?」

「いやいや、蕎麦の話じゃないでしょよ」

「あっ、就活の話だ」

「・・・」

「R~~!」

と気づいた長男が足早にやって来た。

で、しばしセミナーの話。

長男曰く。「訳のわからん企業ばかりやってん。ピンとこんわ。何だかねえ~」

「あらまっ」と、家内。

「そうや、○△寿司が来てたで。何か場違いやったで。

でもな、一応人事の人から話を聞いてみてん」

「それで?」

「『よく利用させて貰っています』って言ったら、何か喜んでたわ。

気を使う人やったわ。あんなに気を使わすような人事、あかんで」

あんたがボケかましてたんちゃうんか・・・と、僕は思う。

「で?」と、笑いを堪える家内。

「『頑張ってくださいね』と言うといた」

「それだけ?」

「うん、それだけ」



ダメだなこりゃ。

何とか就職しなくちゃという姿勢は微塵もないな。

家内は家内で、蕎麦話で完結しているし。

全ては私目の不徳の致す所だ。

かつて、鉄砲玉のKenと異名をとった僕だが、

成穂堂家の面々のお気楽さには到底敵わない。

これからの成穂堂家はどうなっていくのだろう?